弔いは盛大に③ 客
葬儀は厳粛に、淡々と行われた。
結局、トモル達の後に傭兵仲間が来ることはなく、一行とベルクヴァイン達は少しだけ肩身の狭い思いを感じながら、故人を弔った。そして、神父様のありがたい言葉を拝聴し終えると、ついにお別れの時間だ。
参列者は教会の外で棺を囲み、また各々ゼルベーニとの思い出に静かに浸る。
「こういう言い方していいのかわかりませんが、いいお葬式でしたね」
「だな」
「あぁ……」
「湿っぽくないところが、ウルバノ・ゼルベーニらしくてええ。やっぱカッコええわこの人」
「それでこの後はどうするんですか?」
「どうするんですか?ベルクヴァイン殿」
ジョゼットはトモルの質問をそのまま隣にいる偉丈夫とその部下の小太りの男に渡した。
「故人は生前、もし死んで遺体が残るようなことになったら火葬して、遺灰をここからしばらく行ったところにある崖から海に撒いてくれと言っていたらしい」
「それは家族だけでやるから、自分達はここで終わりですね」
「さよか。なら、もういっぺん手を合わせておくか」
そう言うと宣言通り、棺に向かってケントは手を合わせ目を瞑り頭を下げた。
「…………よし。こんだけやれば化けて出て来ることもないやろ」
「不謹慎ですよケントさん」
「むしろ今の発言で呪われたかもな」
「そいつは勘弁。さすがのケントくんでも幽霊には勝てる気せえへん。だからさっきのは無しで」
ケントは改めてさっきよりも深く頭を下げながら手を合わせた。
「…………今度こそよし」
「では、ご家族に挨拶してグロウムに戻るとするか」
「え!?ここの郷土料理食っていかないの!?」
「グロウムでも食べられるよ」
「それはそうかもだけど、何か風情というか――」
ゾクッ……
「――!!?」
和やかな雰囲気から一変、アピオンの顔から余裕が消え、真剣な顔つきになって空を見上げた。
「来る……」
「ん?空がどうしたんだい?妖精くん」
「雨でも降るんですかね?」
「違いますベルクヴァインさん、ピュルッコさん。アピオンがこういう反応をする時は……」
「来たぞ!!おれっちが感じたのはあれだ!!」
「「「!!?」」」
ゴオォォォォォォォッ!!
傭兵達が妖精の視線の先に目を向けた。
するとそこには流線形の人工物が炎を噴射しながら、こちらに向かって来ていた。俗に言う……。
「ミサイルや!!」
「ひっ!!?」
「皆さん落ち着いて!わたし達の後ろに下がって!!」
「は、はい!!」
恐慌状態に陥りそうになった参列者をベルクヴァインが一喝。言われるがまま傭兵四人以外は彼らの後ろに隠れる。
そして参列者の盾になるように立つ四人は……。
「行くぞ!みんな!!」
「「「おう!!」」」
「『アイトシルト』起動!!」
「フリオーソ行くで!!」
「ブラーヴ・ソルダ改二!!」
「ドラグゼオ!!」
四者四様、光と共にそれぞれの愛機を身に纏った!
「落ちろ!!」
バババッ!バババッ!!ドゴォッ!ドゴォン!!
ハインツ・ベルクヴァインが纏うは自社で設計、開発したガンメタリックのマシン、アイトシルト。
重厚な見た目に似合わぬ流麗な動きでアサルトライフルを発射し、的確にミサイルを撃ち落としていく。
「ミサイルなら負けへんで!!」
ドシュ!ドシュ!ドゴォッ!ドゴォン!!
ケントが装着するのはHIDAKA製の高火力マシン、フリオーソ。
肩や背中、さらに腕、足からミサイルランチャーを出現させると一斉に発射!次々と敵弾を迎撃していった。
「ゼルベーニ殿の葬式を台無しにしおって……万死に値する!!」
ボォン!!ドゴォォォォォォン!!
プルクラの近接型をジョゼット好みにカスタムした青と黒のマシン、ブラーヴ・ソルダ改二は特製の大剣に付属した大砲をミサイルの密集地帯に発射!放たれた砲弾は見事ミサイルを撃ち抜き、周りも巻き込んで大爆発を起こす!
そしてトリを務めるのは……。
「ガンドラグ!!」
桃色と黒のドラゴンは遠近両用の愛用する武器を召喚。引き金を引きながら十字を切る!
「十字葬炎弾!!」
ババババババッ!!ドゴォォォォォォン!!
文字通り十字架を描きながら発射された桃色の炎弾は広範囲に広がり、ミサイルを次々と破壊した!
「これで終わりか?」
「まだやベルクヴァインさん!」
ゴオォォォォォォォッ!!
空にかかる爆煙のカーテンをミサイルが突き抜けて来る!両手で数えられるくらいに数は減ったが、着弾すればここにいる生身の人間を跡形もなく吹き飛ばすには十分な量だ。
「撃ち漏らしたか……みんな!もう一度だ!!」
「いえ!この数ならぼく一人で!!」
ドラグゼオは足裏や背中から炎を噴き出し、空中へ。そして……。
「炎竜壁!!」
ドゴォドゴォドゴォン!!
桃色の炎竜は目の前に体色と同じ桃色の炎の盾を生成、それで残るミサイルを全て受け止め爆散させた。
(空を駆ける姿は“ステュムパリデス”、荒々しい炎は“アグニ”、そしてその底知れなさは“白起”を彷彿とさせるな。そうか、あれが噂に聞く桃色の竜か)
ベルクヴァインはドラグゼオの力を目の当たりにし、その存在を耳にしていたことを思い出した。さらにその姿に傭兵戦争で活躍した特級ピースプレイヤー達の姿を重ね合わせる。
ハインツ・ベルクヴァインは“今”を忘れ、“過去”に思いを馳せた、馳せてしまったのだ……。
「社長!危ない!!」
「!!?」
「ばあっ!!」
ドゴッ!!
忍び寄っていた敵機!見たこともないピースプレイヤーがアイトシルトに蹴りを入れ、吹き飛ばした!
「社長!!」
「問題ない……」
けれどガンメタリックの重厚なマシンは部下の言葉によって咄嗟にガードをしていた。吹き飛んだように見えたのも、衝撃を減らすために自ら跳躍したに過ぎない。
「ちっ!大物の首をゲットできたと思ったのに」
「強靭かつしなやか……わたし自ら設計に携わったアイトシルトを舐めるなよ。肝心のわたしが身体も心も鈍っていては元も子もないが……」
「ならブランクを取り戻す前に、この『FKTファイター』で殴り倒す!行きなさい!!」
シンプルなデザインのマシン、FKTファイターが興奮した女の声を響かせ、今度こそとアイトシルトに駆け出す……。
「私達を忘れるな!」
「ガナビッドーザー!!招かれざるお客さんを叩き潰すで!!」
青黒のジョゼットのマシンと、黄色と黒に彩られたケントのマシンが左右からファイターに襲いかかる……が。
「!!」
ドゴッドゴッオッ!!
「――ッ!?」
「がっ!?」
ブラーヴ改二は拳で、ガナビッドーザーは蹴りで迎撃!まるでバレリーナのような姿勢を取りながら、今度は本当に二体のマシンを同時に吹き飛ばした。
「こいつ……」
「速い……!!」
まさか自分達二人を同時に相手取るとは……想定を超える敵の力量に地面に膝をつく二人の背筋に悪寒が走った。
「だが……」
「二人で無理なら……」
「三人だ!!」
「いえ四人です!!」
左右から先ほどの二人、前方からアイトシルト、さらに背後からドラグゼオ!手練れの傭兵が文字通り四方から襲いかかる!これに対抗できる奴など……。
「FKTファイター!!」
「!!!」
ヒュッ!!ゴゴゴゴォンッ!!
「「「――ッ!?」」」
ここにいた!
FKTファイターはこれまたバレリーナのように一回転しながら、拳や肘、蹴りであろうことか四人の攻撃を捌き切ったのだ!
「くっ!?こいつマジでなんなんや!?」
「私達が総出でも敵わないとは……」
「これはブランクどうこうの話しじゃないな……」
「こうなったら銃で……」
ケントは新たなマシンに装着し直そうと考えた。しかし……。
「ケントさん、ここはぼくに任せてください」
「ドラグゼオ……」
桃色の炎竜が制止。口元を拭うような素振りを見せながら前に出た。
「銃だと流れ弾が心配です。ここだと……」
ドラグゼオはエメラルドのような二つの緑色の眼を離れたところで震えている参列者に向けた。足がすくんで動けなくなった彼らを自らの攻撃の余波で傷つけることを心配したのだ。
「……せやな。ワイらが怪我させてもうたら、アホみたいやもんな」
「けれどトモルくん……いやドラグゼオ、君一人だけではこいつは手に余るんじゃないか?」
「いえ、きっとなるようになりますよ」
そう言うと、ドラグゼオは半身になり、身体から余計な力を抜き、拳の握りも緩め、前方に構えた右腕を振り子のように揺らし始めた。
「ファイターっていう名前と今の動きから察するに格闘戦にはかなり自信があるみたいだけど、この攻撃は……見切れるか!!」
ガン!ガン!!
「!?」
脱力した炎竜の右腕は鞭のようにしなると、ファイターへと容赦なく襲いかかった。縦横無尽なその動きに先ほどまでの暴れっぷりは鳴りを潜め、防御に徹するしかない。
(遠目で見ているから何をやっているか理解できるが、間近で攻撃を受けているとなるととてもじゃないが初見では対応できないな。少なくともわたしでは無理だ。しかし、奴なら……)
パァン!!
ファイターはドラグゼオの拳を完璧なタイミングではたき落とした!ベルクヴァインが懸念した通りに!
(やはり奴なら……)
ドゴッ!
「――!!?」
「何!?」
けれどその直後にこれ以上ないほどのクリーンヒット!はたき落とされた竜の右拳が桃色の軌跡を描きながら、ファイターの顎を跳ね上げた!
「桃闘拳ドラグゼオ式フリッカー」
ドゴッ!ドゴッ!ドゴッ!ドゴッ!!
「!!?」
滅多打ちも滅多打ち!炎の噴射によって変幻自在に加速するジャブがFKTファイターの顔面をこれでもかと撃ち抜いていく!
「!!」
「これだけ打たれても倒れないとはタフですね。でもそろそろ……!」
パンパン!!
「――!!?」
「決めさせてもらいます」
ドラグゼオはジャブでガードをこじ開けると、一歩踏み込んだ。地面に蹴りを入れるかの如く力強く踏み込んで、そのエネルギーを左拳に伝播させて……。
ドゴオォン!!
「!!?」
ボディーブロー!凄まじい衝撃がファイターを襲い、その身体は許しを乞うように直角に折れ曲がる!そこに……。
「はあっ!!」
ドラグゼオ追撃!下がった頭に、目下にある後頭部に向けて右肘を真っ直ぐと撃ち下ろした!
ガァン!!ボキッ!!ゴロッ……
その威力にファイターの首は耐えることはできずにへし折れ、頭部は地面に落ち、転がった。
首はへし折れ、頭部は地面に落ち、転がったのだ……。
「……あ」
「きゃっ……」
「「「きゃあぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」」」
教会のある小高い丘に耳をつんざくような悲鳴が響き渡る。せっかくベルクヴァインが落ち着けたのに、参列者は阿鼻叫喚のひどい有り様。全てはトモル・ラブザの軽率で、残虐な行為のせいで。
「何やっとんねん!!殺す必要あらへんやろ!!」
「つい……」
「ついちゃうわ!!ゼルベーニさんの葬式が無茶苦茶やないかい!!」
「それはミサイル飛んで来た時点でですよ」
「口答えすんな!そのミサイルの理由を探る手がかりが」
「やってしまったことは仕方ありません。この遺体から何か――」
ガァン!!
「「「!!?」」」
「――ッ!!?」
FKTファイターはさらに身体を折り曲げ、その反動で蠍の尻尾のように振り上げた足を油断しているドラグゼオの顔面に叩き込んだ。
首のないのに、再び動き出したのだ。
「どういうことだ……!?」
マスクの下でトモルは目をぱちくりさせた。蹴りを受けて視界がぼやけているせいもあるが、それ以上に信じられなかった。目の前でゆっくりと立ち上がる首を失った敵の姿が……。
「これが世紀の大天才アタシ『フレンジー』が開発したFKTシリーズの力よ」




