弔いは盛大に⑤ 禁断
「うーん……!!」
教会の真ん中で喪服を着た妖精がこめかみに人差し指を当てながら唸っていた。それを参列者達は祈るように手を合わせ、固唾を飲んで見守っている。
「……OK。多分、この辺りは大丈夫そうだ。家に帰っても平気だろ」
「おお!!」
「あぁ、ありがとう……!!」
妖精の言葉に人々は歓喜し、心から感謝を示すように頭を垂れた。
「うんうん!苦しゅうない!みんな気をつけて帰るのだぞ!うちに着くまでが葬式だからな!」
「「「ははあ!!」」」
参列者はもう一度深々と頭を下げると、各々の帰路についた。
「お疲れ様アピオン」
「おう!意図せず神様気分味わえて楽しかったぜ」
「最終的に将軍様になってたけどね」
いつも通りの軽口を叩くトモル。しかしその顔はいつもよりも陰がかかっていた。彼の隣にいるいつもの傭兵や、今日出会ったばかりの社長さんと部下も同様だ。
「ヘイヘイ!暗いぜ!!そんなんじゃゼルベーニのじいさんの遺体を取り戻せないぜ!」
「そうは言っても……」
「手がかりが何もあらへんからな。正直どうしたらええかわからへん」
「アピオン、君の力で感知できないのか?」
「あのスピードで全力で逃げたとなるともうおれっちがカバーできる範囲を超えていると思う。そもそも何か不気味な感じはするけど、特別強い力というか、存在感みたいなのは感じなかったしな」
「アピオンでも無理なら……」
「お手上げか……」
トモル達は思わず天を仰いだ。
「あの~」
そんな彼らの顔の角度に呼応するようにユルキが恐る恐る手を挙げた。
「ピュルッコさんどうしたんですか?」
「いや、ゼルベーニさんの棺の位置ならわかりますけど」
「そうですか……って、え!?」
「ホンマか!!?」
「咄嗟に発信器をつけたんで……」
そう言いながらユルキは何だか申し訳なさそうにトモル達から目を逸らした。
「ピュルッコさん?」
「まぁ、自分のことはおいおい。今はとにかく速く追跡すべきかと。自分が取り付けた発信器は24時間しか効果を発揮しないんで」
「じゃあ早速行こう!」
「善は急げだ!!」
「待ってくれ」
教会から飛び出そうとする二人をベルクヴァインが制止した。
「何や?のんびりくっちゃべってる場合やないやろ」
「だとしても、もう少し敵について思案しておくべきだ。あのFKTとかいうピースプレイヤーの力は痛いほどわかっているだろ?」
「それは……」
ケントは反論できなかった。ベルクヴァインの言葉は何一つ間違っていないと、身体に残る痛みが嫌というほど訴えてくるから。
「……わかったわ。あのフレンジーのことを調べよう。五分だけな」
「あの~」
「何やユルキはん?」
「そのフレンジーについては、もうある程度調べがついています」
「………なんであんさんはそんな大事なことをすぐに言わへんのや?」
「すいません!何かタイミングを逃してしまって」
ユルキは腹をポヨポヨと揺らしながら、頭を上下させた。
「まぁエエわ。それで何がわかったんや」
「うちのデータベースにアクセスしたところ、フレンジーという名前は危険人物として登録されていました。最近、色々な悪い奴らに特製のピースプレイヤーを売っているフリーのマッドサイエンティストです」
「フリーのマッドサイエンティストってなんやねん……」
「とにかくピースプレイヤーの開発を生業としている人ってことですね」
「そんなこと、あいつとの会話でわかるっちゅうねん」
「ですよね~」
「FKTについての情報はないのですか?」
ジョゼットの言葉にユルキは首を横に振った。
「結局何もわからず仕舞いですか……」
「あいつのことがもっとわかれば、ゼルベーニさんの遺体を狙った理由もわかるかもしれんのに……」
「ん?FKTの素材にするんだろ?」
「FKTの素材に……え?」
何気なく呟いたアピオンに傭兵達は一斉に視線を向けた。
「アピオン……今なんて?」
「だからゼルベーニの遺体を使ってFKTって奴にするんだろ?」
「何でそんな風に思ったの?」
「だってあれ『刑天』だろ」
「けいてん……?」
「死体を使って、そいつの生前の記憶を再現する兵隊に仕立て上げるくそみたいなピースプレイヤー」
「「「!!?」」」
五人の顔が一変した、その技術のおぞましさに対する恐怖と怒りで。
「そんな倫理観の欠片もない兵器が……」
「アピオンくん、君はそれをどこで?」
「どこでって、おれっちの故郷だよ。詳細は省くけど、フレンジー以上のイカれた科学者が開発しちまった禁断の技術だよ」
「長い付き合いだけど、初めて聞いたよ……」
「あれ?言ってなかったけ?まっ、おれっち、過去を振り返らない主義だから。刑天については兄貴のうざい自慢話を延々聞かされたって嫌な思い出もあるし、何より国外に流出してるなんて思わなかった」
「アピオンくんの話が本当ならば、ゼルベーニさんもさっきの奴らみたいに……!!」
最悪の想像が頭を過り、ベルクヴァインはさらに怒りを滾らせ、拳を握りしめた。
「アピオン、その刑天に何か弱点はないんか?」
「ないな。元になった人間の動きを痛みも恐怖も感じない身体で再現するんだ。下手したら生前よりも強いぜ」
「「「………」」」
「……すまない。わたしのミスだ。一刻も早くフレンジーを追うべきだった」
「もしゼルベーニさんが刑天化したら、四人がかりでも……」
「あぁ、もう迷っている暇はない!今すぐ……」
「社長!!」
「ユルキ……」
社員と社長の視線が交差する。それだけで数々の修羅場をくぐり抜けて来た二人には十分過ぎる会話だった。
「またまたすまない。三人とも少し手を出してくれないか?」
「え?」
「こうでっか」
三人は手のひらを上に向けてベルクヴァインに向けて差し出した。
「そうではなく手の甲を上に向けて、ウェ……ユルキに」
「「「?」」」
何の意味があるのかわからず首を傾げながら、言われた通り手の甲をユルキの前に出した。
するとユルキは優しくケントの手を握り、跪くと……。
「では……失礼します」
チュッ!
「――いっ!?何すんねん!!?」
手の甲に小太りの男のキスを受けたケントは反射的に手を振り払った。
「だから失礼しますと言ったでしょうに」
「マジで失礼すると思わへんもん!失礼の内容も想像の斜め上やし!!マジでなんやねん!!?」
ケントは喪服のズボンに手の甲を擦りつける。少しでもユルキの唾液を拭い去ろうと必死に。
その様子を見て、ユルキはげんなりする。
「慣れっこですけどね、そういう反応。でも傷つくのは傷つくんですよ。あと自分だって本当はあなたにこんなことやりたくないんですから。許されるなら美女にしてあげたい」
「だったら!!」
「詳細は後で話しますって。さぁトモルくんとジョゼットさんも」
「……本当にやるんですか?」
「損はさせません。得があるかは……今日この後の流れ次第ですけど」
「ううっ……じゃあ……」
チュッ!
「うっ……」
トモルは嫌々手を差し出し、ユルキのキスを受けた。
「次はジョゼットさん」
「あぁ……」
「ん?どうしたんですか?」
「いや、ちょっとな。この後すぐに答えを教えてくれるんだろ?ウェイター」
「……はい」
チュッ!
一方、何かに気づいた様子のジョゼットは素直にキスを受け入れた。
「これで良し。社長」
「うむ。今度こそ本当にフレンジー追跡といこうか!!」
「何か感情ぐちゃぐちゃやけど、やったるわ!!」
「ゼルベーニ殿の葬儀をぶち壊した報いを受けさせてやる……!!」
「刑天なんてくそマシン作ってる罰もな!!」
「ここからは……ノンストップです!!」
激しい怒りと使命感を胸にトモル達は教会を飛び出した。




