30
そろそろ寝るかと、ルーファスさんは立ち上がった。
先にレグサスさんが居室への扉を潜る。
「……おやすみなさい」
去る背中に声をかけると、振り返り、抱き寄せられた。
穏やかなリズムで頭を撫でられて心地良い。
「もしもソフィアが明日の晩も来たら、相手をするんですか……?」
心地良さに甘えて、消せなかった不安が溢れ落ちる。頭を撫でていた手の動きが止まって、優しく体を離された。
「……それが手っ取り早いのは、確かだな」
視線を感じるのに、合わせたくなくて顔を背けた。
これじゃあ拗ねてるみたいだ。私が質問したのだから、ちゃんと「わかりました」と答えて笑わなきゃいけないのに。どうしても、それをしたくない。
「いつもならそう割り切るが、今は恋人がいるからな。また逃げてくるよ。その時は匿ってくれるか?」
優しく頬を撫でられて、顔を上げれば、恋人と言った人の瞳には私が映っている。
「……私達、恋人同士なんですか……?」
「なんだ、違うのか? 俺のことが大好きなんだろ?」
違うことなんてない。この人が他の人と触れ合うだけでも嫌だと思うくらいに、私はこの人のことが──。
「恋人、ですか……」
頬が緩んで、唇が上がってしまう。
ああ、私、嬉しいんだ。この人が私を恋人と言ってくれたことが。
「また、逃げてきてください。私が追い返してやりますから」
「ああ。頼りにしてるよ。……おやすみ、ララ。愛してる」
顎を持ち上げられて、触れるだけのキスが落とされた。
明日からは表立って話すことも触れることも避けなきゃいけない。
だから、離れようとする体に一歩近付いて、私からもう一度唇を合わせた。
「おやすみなさい。大好きです。ルーファスさん」
笑顔を浮かべて伝えたら「離れがたい可愛さだな」と苦笑された。
本当に、離れがたい素敵さだ。
そう思って、少し照れてしまった。
宣言通り、翌日廊下で会ったルーファスさんは私に視線を向けなかった。隣にいる女がこちらに勝ち誇った笑みを向けてくるが、知らないフリをする。
「早くスペードの10が罪を認めてくだされば良いのですけど。そうすれば、ルーファス様の心労もなくなりますのにね」
「……動機がわからないからな。まだ他に犯人がいるのではないかと調べさせているところだ。だが、この騒動のせいでダイヤには随分と迷惑をかけてしまって、そちらの方が俺にとっては心苦しいことだな」
「そんなことありません! ずっとずっとダイヤの国にいていただきたいくらいです。帰ってしまわれる日が、今からわたしは寂しくって……」
私に見せつけるためか、ソフィアはルーファスさんの腕にしな垂れかかった。
ソフィア。その人の顔をよく見てみなさい。引きつってるよ。
それでもルーファスさんは逃げず、私に目も向けなかった。
それは、私をなによりも愛してるのだという証拠だ。ソフィアの恨みが私に向かないためなのだから。
だから大丈夫。私はまったく気にしてない。それはもうまったく。
二人とすれ違った瞬間、手に、骨張った大きな手の甲が、コツンとぶつかった。
こんなことくらいで。
馬鹿みたいに、顔が緩んで。
レグサスさんと部屋に戻ってからは、引きつっていたルーファスさんを散々笑ってやった。
早く、エルザさんに会いたい。
このお話を聞かせてあげたいし、ルーファスさんとのことも、きっと手を叩いて喜んでくれるだろう。
私が馬鹿みたいに浮かれていた頃、エルザさんに更なる困難が降りかかっていたと知って、私はひどく後悔することになる。
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