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「明日から俺達はあの女の目的を探るから、俺やゼン、ノエルには近付かないようにな。何かあれば、レグを頼れ」
あの女の目的を探る。その意味は明白だ。「わかりました」と頷いたが、そもそもあの女の目的って、この人達でハーレムエンドを迎えたいだけなんじゃないかな。……それにしてはかなりの大事になっているから、決めつけるのは危険だとも思うけど……。
自分の考えを伝えるべきか悩む私をよそに、ルーファスさんの大きな手が、優しく頭のてっぺんに置かれた。早くなる鼓動とは裏腹に、撫でる速度は穏やかで、心地良い。
「さっさとエルザを連れて、城に帰ろう。……お前が着る赤いドレスを選ぶのが、今から楽しみだ」
素直な言葉に、頬が熱を持つ。考えに気を取られて俯いた私を気遣ってくれたのかもしれない。
私も、と伝えようとして、何かが引っ掛かった。
赤い、ドレス……?
どこかで見た気がした。
趣味が悪いほど、真っ赤なドレス。それにあの、嬉しそうな亜麻色の、瞳──。
「あ──────っ!!!」
「なっ、急にどうした!?」
「思い出しました! あの女!! 舞踏会でルーファスさんをじっと見ていた女ですよ!!」
「あの女って、ダイヤの10か? 舞踏会でって……いたっけか?」
「言い寄られてたくせに、どうして顔を覚えてないの!?」
さらに言い募ろうとしたら、居室への扉が気怠げにノックされた。
「おーい、大将。初手から激しいのは嫌われんぞー」
部屋の外から聞こえる、これまた怠そうな声に「違う!!」と返す。入室を促すと、レグサスさんが、からかうような笑みと共に寝室に入ってきた。
「なるほどなー。ルーファスをダンスに誘ったら、エルザが横から割って入ったわけか」
「いや…………その程度のことで、ここまで恨むか、普通……?」
たしかに普通なら睨むだけで終わりだろうけど、ソフィアには知識がある。邪魔がなければ、この人を落とせるだけの知識が。
「そもそも、私はルーファスさん達を落とす目的が、なにか組織的な犯罪だとか、そういうことは関係ないと、思ってます。……ただ国のトップの人達を侍らせたいだけなんじゃないですか?」
ついさっき伝えるか迷った私の考えに、二人は目を見合わせた。
「落とした後に何かをさせたいわけじゃなく、籠絡自体が目的、ってか。……なくはない、のか?」
「目的なしに何人も男を侍らせて、なにが楽しいんだよ……」
その意見には内心で頷いた。ハーレムエンドなんて、エンディング後は対人トラブルだらけの悲劇しかないだろうし、私はやっぱり一対一の恋愛が好きだ。
頭痛がするとばかりに頭を押さえたルーファスさんは、一つ息を吐くと、気を取り直したように表情を引き締めた。
「ララの意見を疑うわけじゃないが、予定通り落とされたフリはして様子見しよう。もしも何か、妙な動きがあればそこで取り押さえればいいし、ただ恋人気分を味わいたいだけだって分かったら……容赦しない」
ルーファスさんは手が白くなるほど強く握り、それとは対照的に赤い瞳は燃えるように激しさを増した。なのに言葉は恐ろしいくらいに静かで──ぞくりと鳥肌が立つ。
何か言葉をかけなきゃ。そう思うのに心臓がうるさく騒いで声が出ない。
レグサスさんの拳が、夕陽色の頭にゴツンと下された。
「……痛ってぇな。なんだよ」
「あんまり怒んなって。やっとエルザ並みに大事にしたい女の子が出来たんだろ。怯えて逃げられても知らねーぞ」
ぎょっと目を見開いたルーファスさんがこちらに顔を向ける。慌てて首を振った。
「に、逃げませんよ!」
「……悪かったな。気を付けるよ」
長く息を吐いて、ルーファスさんはさっきのように優しい声に戻った。ホッと肩の力が抜けた。
あまりにも身勝手な目的にルーファスさんが怒る気持ちはもちろん分かるし、怖かったわけじゃない。けど、やっぱり怒るよりも、笑っていてほしい。
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