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その9

 紗由は到着した面々を、翔太と龍と一緒に、翔太のアトリエに連れて行った。

 裏庭に作った丸いドーム型の離れだ。

 中では、華音、昇生、聖人、真琴、悠斗、大斗がソファーでくつろいでいた。


「青年の集いなの?」メンバーを見てくすりと笑う真里菜。

「三部制かな」微笑む龍。「風馬おじさんと進子ちゃん、おばあさまとグランパの4人は緊急会議。ちょっとお怒りモード。他の人は普通に宴会」

「あーくんが狙われたら、そりゃあ“命”さま…あ、つい癖で」苦笑いする翼。「華織おばさま怒るよねえ」

「パパは私に甘いけど、おばあさまは、あーくんに激アマだから」

「別にそんなことないと思うけど」不服そうな昇生。


「さてと、あーくん」龍が昇生を見つめる。「この黒いビニール袋、どう思う?」

「…嫌い」

「中身も?」袋からPCを取り出す龍。

「…美しくない」

「オシャレなデザインだと思うけどなあ」


「でも、悪意が中にあったらダメだ」

「なるほど…。あーくん的には、これは“敵”?」

「敵じゃない。興味がわかないし」

「ふーん」龍がニヤリと笑う。

「ドブのゴミみたいなもの。興味はないけど迷惑だから、さらったほうがいい」

「ありがとう」龍はにっこり笑うと、PCをふわりと撫でた。


  *  *  *


 一同が再び大広間に集まった。

 紗由が上座に立ち、頭を下げる。


「紗由…まだ何かあるのか?」少々うんざりしたように言う涼一。

「はい、とうさま。ですが、翔ちゃんの話ではありません」

「そうか」少しばかり口元が緩む涼一。


「西園寺家“命宮”を継ぐことを目指している身として、今後の展望について意見の述べさせていただければと存じます」

「聞きましょう」微笑む華織。


「風馬おじさまの次の“命”は、あーくんにお願いしたいです」

「どういう理由から?」風馬が険しい顔になる。

「力がありすぎる人間を“命”に据えると、また、他の家…反西園寺の人たちとのもめごとの種になります」

「…まあ、確かに」


「皆は、華音ちゃんを“命”にと思っているのでしょうが、どうせ高橋家に嫁に行くでしょうし」

「はい!」満面の笑みで返事する華音。

「ですから、西園寺本家の次の“命”は、あーくん。分家の“命”は、まーくんということで。龍にいさまは、政治の道をリタイアしてからですから、その後に分家の“命”に就任という形でよろしいかと思います」


「あの…ここで一度に決めなくても…」澪が言う。

「いいえ」紗由が一歩前に出る。「今、ここで、関連家の方々、四辻、久我、九条、花巻、有川、この各家の方々がいらっしゃるときにコンセンサスを得ておきたいと思います」

「何で?」尋ねる昇生。

「西園寺に、“命”システムを牛耳る野心のないことを、四方八方から示す必要があるからです」

「別に悪いことしてるわけじゃないのに、変だよ」苛立ったように言う昇生。

「あーくん。ひどい目にあった人は、必ずしも悪いことをしていたわけではないのよ」

「…そんなの、へりくつだよ」


「あーくんが、ならないなら、私がなるから、別にいいけど」微笑む紗由。

「紗由ねえちゃんは、“命宮”になるんでしょ? 清流の女将もするんでしょ? そんなにいくつも出来るわけないじゃないか!」

「それを決めるのは、あーくんじゃないわ」昇生を見つめる紗由。


「今日は、その辺にしましょう」

 華織が言うと、紗由は一歩下がった。

「わかりました、おばあさま。あとはお任せいたします」

「そうね…5年以内に考えておくわ」

 微笑む華織を、龍は不安げな目で見つめた。


  *  *  *


 正月の清流旅館での集まりから約半月後、龍、賢児、玲香、聖人、真琴、涼一、周子、鈴音、光彦の面々は、翔太の東京での下宿先の近辺にいた。


 龍が言う。

「翔太、明日の誕生日は一人みたいだよ。紗由は合宿だし、特に約束もないみたいだから、可哀想だし、僕が遊びに行くかもって言っておいた」

「みんなで押し寄せたら、びっくりするだろうな、翔太」にんまりと笑う賢児。

「まあ、びっくりしないとサプライズになりませんから」賢児に微笑む玲香。

「総勢10人以上になるんじゃないの。食べ物とかどうするの、ママ」聖人が聞く。

「任せといて。鈴ちゃんと義兄さんと私がいれば、10人なんて人数のうちに入らないわ」


「何だか、お正月再びって感じね。皆で集まって」

 くすりと笑う周子に涼一が言う。

「まあ、こういうのもいいだろう。正月は紗由の発言で正直びっくりしたが、翔太くんには何かとお世話になってるし、喜びそうなお祝いも持ってきたんだ」

「何、とうさま」

「科学の粋を極めた画材だ」

「へえ」

「乗せるキャンバスの素材によって、色の変化パターンが異なるんだ。創造性の幅を広げるだろう。どうだ」


「うーん。結果が予測しづらいわけだから、逆に不便かも。前衛芸術家あたりは喜ぶんだろうけど…」当惑する龍。

「翔太くんなら、使いこなせるはずだ。いや、使いこなさなかったら、紗由の婿とは認めん!」

「とうさま…」龍が、呆れたように言う。「そんなフレキシブルなものだったら、作家がOKと言えば、全部成功になるんだよ。NOと言えばNO」


「…いいんだ、どっちでも。翔太くんだから」

 泣きそうな顔でうつむく父を見て、龍は思った。

 この人の息子でよかったなと。妹と親友の行く末を見守らねばと。


 そして、その先に待っている、ほのかに黒い気配に思いを馳せた。


  *  *  *



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