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その8

 紗由は、隠し部屋の前で声を掛けた。

「よろしいですか」

「どうぞ」

 風馬の許可で中に入る紗由。


「どないしたん」

「翼くんたち、来るの明日になるって」

 紗由は、電話で真里菜から聞いた内容を、風馬、龍、翔太に話し始めた。


  *  *  *


 翼、奏子、真里菜、大地、史緒、咲耶、充、恭介を乗せたリムジンは、ガソリンスタンドで給油していた。


 翼の隣に座っていた奏子が、ふいに自分のバッグを開け、石を取り出した。

「これって…」

「どうした、奏子」翼が自分の石も取り出しながら尋ねた。

「この先に変なものがいるみたい…」

「そうだな…石が警戒している」


「ん? 妙な匂いがするんだけど…」

 大地の隣に座っていた真里菜が言うと、大地もそれに応じた。

「うーん。手のひらがびりびりするなあ」

「おにいちゃま、それ、まずいってこと?」

「もう少し経たないとわからないけど…」


「史緒ねえさま。今押した印の色が変わってきています…」

 史緒の書いた書に印を押す係の咲耶は、今自分が押した印の色の変化に驚いていた。

「…新たに降りてきました」

 さらさらと、書を足す史緒。そこには「黒」の文字が。

「近づくなということですね」


「どうしたの、充くん。難しい顔して」恭介が隣の席の充に尋ねた。

「向こう側…空気が黒っぽい」

「じゃあ、“えいっ”ってやってみるよ…えいっ!!」

 恭介が声を発すると、ガソリンスタンドの向かい側の住宅展示場に止まっていた黒い車から、男が転がり出てきた。

 男は頭を押さえてうずくまっている。


「恭介くん…ビンゴやな」

 恭介の武器ともいえる“えいっ!”というのは、相手の耳に、ガラスを引っ掻く音を連続的に届けるというものだ。

 奏子のそれが、脳に直接的なダメージを加え、脳震盪の症状を起こさせるのとは違っている。

 だが、奏子の技以上に、生理的に嫌なものであるのは間違いなかった。


 一同は恭介のやったことを理解し、彼のほうを振り返った。

「奏子ちゃんがとどめ刺す?」尋ねる恭介。

「雑魚には興味ありません。それより石の手入れをしなくては…」

「マドモアゼル的には、あれは雑魚」笑う充。

「でも…龍くんの邪魔になりそうなので、もう少し倒れておいてもらいましょう…えいっ!」

 奏子の言葉と同時に、男は一瞬体を震わせたと思うと、その場にぐったりと倒れこんだ。


 翼と充が車を降りて、男に近づいた。

 充は何事もなかったかのように、男の体を車の奥へ押しやる。

「充くん。この車、GPSとかついてるかな?」

「…カーナビだけかな」

「じゃあ、そこのPCとカーナビ、持っていこうか」そう言いながら、男の頭に手をかざす翼。「記憶は彼方へ…」

「ラジャー」刺さっていたキーを抜く充。

 二人は車を降りると、振り向きもせずに、道路を渡ってガソリンスタンドに戻った。


  *  *  *


「…というわけなので、みんなは久我家の別荘に泊まるそうです」

「久我家の別荘って、いくつあるんや」

 翔太が笑うと、紗由が淡々と答える。

「保養施設とか、関連施設足すと、20個くらいあるみたい」

「うへー」目を丸くする翔太。「うちのホテルチェーンなんぞ、まだまだやなあ…」


「ところで紗由、翼くんが回収したパソコンとカーナビだけど、オーラを石に写したら、本体はイマジカのほうに送ってもらって。すぐに解析してもらう」龍が言う。

「はーい」

「ちょい待てや、龍。本体を見たいな…ていうか、昇生くん辺りにチェックさせたいわ」

「あーくん、“力”ないわよ?」

「確かに、うちらが言うところの“力”はない。だが、敵と味方を判別するカンはある思うわ。賢ちゃんと一緒や」

 翔太が言うと、龍はひゅーっと口笛を吹いた。

「次世代の、西園寺の“止め石”は、あーくんか」


  *  *  *


「遅くなりましたぁ!」

 真里菜の元気な声を合図に、清流旅館の玄関になだれ込む一行。


「皆さま、ようこそおいで下さいました」

 玄関先で、三つ指をついて迎え入れる紗由。

「なかなか、さまになってるじゃない、若女将」ふふふと笑う真里菜。「まあ、まだ鈴音さんの域じゃないけどね」

「修行中の身ですから」真摯な表情で答える紗由。


「紗由ちゃん。これ、昨日の没収品」

 翼が紗由に黒いビニール袋を渡した。

「ありがとうございます。四辻の“命”さま」

 紗由は深々と頭を下げた。


 気が付くと、紗由の後ろには、風馬、龍、翔太がそろって座していた。

「いらっしゃいませ、四辻の“命”さま、久我の“弐の位”さま、花巻の“弐の位”さま、有川の“弐の位”さま、九条の“弐の位”さま」

「お出迎えありがとう存じます。おじゃまいたします」


 頭を下げられた側も、風馬たちの後ろにいた青龍神に丁寧に頭を下げ、中へと入っていった。


  *  *  *


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