その10
「翔太、じゃあこれから行く。今さあ、すぐそばまで来てるんだ」
「え? いや、あの、そうなん?」龍の電話に動揺した様子の翔太。
「うん、じゃあ、また後で」
「ちょ、待って、龍、龍!」
一方的に電話を切られ、翔太は頭を抱えた。
* * *
玄関先の龍に対して、後ろを見ながら落ち着かない様子の翔太。
「龍…あの、実はな、今…」
「じゃーん! ハッピーバースデー、翔太!」
「玲ちゃん!」
「あら、何よ、上半身裸って。着替え中?」
「え? いや、あの…」さらに翔太が動揺する。
「うふふ。みんなで来ちゃった! お邪魔しまーす」
「ちょ、待ってえや」翔太が玲香を止めようとする。
「翔ちゃーん、石鹸切れそうだよー」
そこに現れたバスタオル姿の紗由。
「紗由!」玲香の後ろにいた涼一が驚いて叫ぶ。
「とうさま!…どうしたの?」
「どうしたのじゃないだろ! 何だその格好は! だいたいおまえ、合宿じゃなかったのか?」
「合宿帰りよ。それに何だ…って言われても、お風呂上りだから」
「何で翔太くんの家でお風呂に入るんだ?」
「何でって…汗かいたから」
「あ、あの、玄関先で話もなんですから、とにかく上がらせてもらいましょう」玲香が言う。「ね、翔太、お邪魔するわよ。涼一さんも上がって下さい」
「紗由ねえ、とにかく服着てよ。思春期の男子の前でその格好はまずいと思うし」玄関を上がりながら淡々と言う聖人。
「紗由ねえ、Dでしょ」じろじろと眺める真琴。
「まこ! 余計なこと言ってないで上がりなさい」
慌てたように玲香が言うと、真琴はつまらなそうに靴を脱いだ。
「ママはね、Gなんだよ」少し勝ち誇ったように言う真琴。
「まこ!」
「まずいよ、まこ! パパの前なのにナマハゲみたいな顔のときは、本気で怒ってるんだよ」
聖人が言うと、玲香の表情はさらに険しさを増した。
* * *
紗由が思いっきりふくれた顔でつぶやいた。
「しょうがないじゃない。思いっきり汗かいた後なんだから」
「汗かいたって……」
一斉に翔太を見る一同。
「え? いや、そうでなくて…。」
「だってノンストップなんだもん。さすがに翔ちゃんのペースに付いていくのは大変。へとへとよ」
再び一斉に翔太を見る一同。
「いや、だから、そうでなくて…」
翔太が困ったように皆を見回すと、無表情に翔太を見続ける涼一の顔があった。
* * *
「…だから、変な奴らに絡まれたんや」
「ほら、カップルに絡むチンピラって、いるでしょ。でも、相手4人だったし、翔ちゃん、空手の大会前で問題起こしたらまずいし、猛ダッシュで逃げたの」
「ひとりにカバンつかまれて、思わず頭蹴っちゃったんやけど、それでも残りが追いかけてくるし。相手が複数だと、凶器を持った上で紗由を拉致られたら、ちょっと手の打ちようがないんで…」
「すごい勢いで追いかけてくるから、走った、走った。もう、汗だく」
「それで風呂か」涼一が聞く。
「うん」
「だが、バスタオル一枚でリビングに来る理由にはならないだろ」
紗由がうんざりしたように溜め息をつく。
「じゃあ、エッチしようとしてたってことでいいです」
「紗由!」
「言っときますけど、その場合、彼の誕生日に2人で過ごそうとしていたカップルが、みんなに邪魔されたってことになるんですけど。私が文句言いたいくらいなのに、何でとうさまから犯罪者を見るみたいな目つきで睨まれないといけないんですか?」
「紗由、そんな言い方すな。涼一はんが心配なさってるのは、おまえが襲われようとしたことや」
「確かに、そいつらに捕まってたら、それこそ大変な事態になってたかもしれないしなあ」厳しい表情で賢児が言う。「4人で追いかけてくるなんて尋常じゃない。前から目を付けられてたんじゃないのか?」
「いや、普段から気をつけてはいたけど、あいつらは新顔や」
「あのね、紗由ねえには、ファンクラブがあるんだよ、サークルと研究室に」聖人が説明する。「その人たち、紗由ねえに迫ってくる人たちとか、全部チェックしてるんだ。で、翔にいは、ファンクラブの人たちがストーカーにならないようにチェックしてる。ちゃんとシステムが出来上がってるんだよ」
「詳しいな、聖人」感心したように言う賢児。
「“情報戦は地味に静かに落ち着いて”って、パパ、この前、雑誌で言ってたよね」
「い、いや…別に、この手のことを意識したわけじゃないんだが…」困り顔の賢児。
「警察には届けたの?」周子が尋ねる。
「おばあさまに連絡したわ。グランパのほうで調べてくれるって」
「そうか…じゃあ、その結果待ちだな」
「そうですね」玲香が明るい声で言う。「とりあえず、翔太の誕生日パーティー、準備しましょう」
玲香の声を合図に、スーツケースやボストンバッグから、せっせとタッパーと紙皿、紙コップ、箸などを取り出す聖人と真琴。
「とりあえず、服、着てきまーす」
「おい! 紗由! まだ話は終わってないだろ」
涼一の言葉には耳を貸さず、紗由はそそくさとリビングを離れていった。
一同の視線が紗由と涼一に集まる中、翔太はこっそり龍に合図を送った。
* * *
ルーフバルコニーで話をする翔太と龍。
「なあ、龍、あいつらマジやばい。」
「どういうこと?」
「…ここの、色がなかったんや」
翔太は自分の胸の真ん中を指し示した。
* * *




