その11
翔太の言葉を聞いて、怪訝そうな龍。
「胸の色がない…? 翔太にピカピカが見えなかったってことか?」
「せや」
ピカピカというのは、翔太が小さい頃から感知できるオーラのようなもので、人によって、その精神状態によって、色が違って見える。
人間だけでなく、動植物から神様まで、時には無機物にまで見えるものだった。
「今まで、そういう人間を見たことあるのか?」
「一度もないわ」
「異常事態だな」
「しかも、4人揃ってやで。そのうち3人は目つきも催眠術でもかけられたみたいな、焦点の合わない様子やった。一人はサングラスでわからんかったけど」
「紗由は相手を読もうとしたのか?」
「ああ。奴らの考え読もうとしたんやけど、駄目だった言うてた。どう考えても、ただのナンパやない。“命”さまからは、何か聞いてへんか?」
「いや、おばあさまは何も…」
「まあとにかく、紗由のことは皆で気いつけんとあかんな」
「グランパがSP付けるとは思うけど」
「ところで龍。あっちのほうは、どないなったん?」
「ちょっと待って。一応“張って”おく」
“聖人、真琴!”頭の中で二人に呼びかける龍。
“なあに?”声をそろえる二人。
“建物に結界張るから手伝ってくれ”
“はーい”
“紗由も手伝って”
“…今、とうさまに、めちゃくちゃ睨まれてるから、ちょっと…”
“わかった。健闘を祈る”
“龍にいさま。私が手伝うわ”
“華音!”
“今、悠ちゃんと一緒だから、まーくん、まこちゃんと4人でやるわ”
“助かるよ。じゃあ、よろしく”
「華音ちゃんと悠斗くんが参加か」
「翔太も試しにやってみるか?」
「…あかん。青龍様が、おまえの仕事ではない、いうてはる」
「承知いたしました」
翔太の背後に向かって、一礼する龍。
“龍にい、できたよ!”
“ありがとう、みんな”
「で、翼くんが持ってきたPC、どないなったん?」
「それがさあ…」クックと笑う龍。「清流からの帰り道、あーくんが伊勢に捨ててきたらしい」
「は?」
「風馬おじさんがさ、紗由に言われたことを伊勢に打診しに行ったんだよ」
「あーくんを次の“命”にいうやつか」
「今のところ、届け出上は、華音が“弐の位”になってる。華音が下りて、あーくんが“弐の位”になってからでないと、“命”にはなれない」
「“弐の位”は二人置いてええんちゃうんか」
「あーくんを“弐の命”の“弐の位”にはできないだろ」
「華音ちゃん、“壱の命”前提やったか」
「あーくんに凶事を受け取る“弐の命”なんかやらせたら、ノイローゼになっちゃいそうだよ」肩をすくめる龍。
「芸術家は繊細やしな。そう考えると華織はんは、やはり並みのおなごやないわ」
「だからまあ、そういう手順を踏みますという予定を報告に行ったわけ、華音とあーくん連れて」
「PC、どこに捨てたん」
「内宮の奥」
「うわあ…」
「正確には、“落ちてましたよ”と言って置いて来たみたいなんだけど」
「同じことやろ」眉間にしわを寄せる翔太。
「“奥”のほうの精査に引っかかって、大騒ぎだったらしい」
「変なデータでも入っとったんか」
「コピーしておいたから、後で聞くといいよ」
「音声データか?」
「いや、あーくんに見せる前に、僕が“写して”、翼の頭にバックアップ取らせた」
「ほお。さすがは“写”の一門、西園寺やな。翼くんの記憶力も相変わらず、すさまじいけど」
「その辺は、また皆で集まって検討しようと思う。今回の4人組とも関係あるかもしれないしね」
「わかった。じゃあ、とりあえず、あっちに戻るか」
「そうだね。紗由に助け船も出してやらないと」
龍は、頭に浮かんだ紗由の困り顔のイメージにくすりと笑った。
* * *
龍と翔太がリビングに戻ると、話題は相変わらず、“翔太と紗由に何があったか”だった。
小さくため息をつく翔太。
「それに、たとえエッチしてたとしても、うちのパパとママに比べたら全然健全よね」ぼそっとつぶやく真琴。
「駄目だよ、まこ。それは秘密だろ」真琴をにらむように見る聖人。
「どういうことだ?」
涼一が聞くと、真琴が待ってましたとばかりに答えた。
「おじさんのお願いなら、仕方ないから教えてあげる。パパとママはね、変装してデートに出かけるの。浮気してるみたいでドキドキするんだって。パパ言ってた」
「浮気?」低い声でつぶやく玲香。
「お、おい、まこ! それは言葉のアヤだ。本気でそんなこと思うわけないだろ」少し語尾が震える賢児。
「とにかく、まこちゃん、よけいなこと言わないの!」
「玲ちゃんは、黙っとき。なあ、まこ、二人はどないな変装してくん?」
テンション低めだった翔太が、いきなりハイテンションで会話に加わる。
「先月はね、パパはオールバックに黒いサングラスで、真っ赤なシャツ着てた。ママは、スリットが深―く入ったスカートでね、シースルーのブラウスよ。髪は縦ロールだった」
ひゅーと口笛を吹く翔太。
「若頭と情婦ってとこか」
「わあ、面白そう。翔ちゃん、私たちもやろう!」
紗由がうれしそうに叫ぶと、涼一がギロリと睨みつける。
次に睨まれるのは自分かと思った翔太は、そろそろとベランダに出ていく。
“あかん。結局、話題は戻ってくる”
ベランダにもたれかかった翔太は、少し離れたところにある、ビルの大型スクリーンに目が留まった。
“多治見総研のCMか…ん?”
思わず身を乗り出す翔太。
“今、映った男、ピカピカがなかった…”
翔太は頭の中で龍を呼んだ。
* * *




