その28
3つの神社を回ってきた参加客は、大広間に集まり、盛り上がっていた。
「青いドレスを着た美しいご婦人がいらっしゃいました。彼女の後ろというか、空に龍の形の雲があって…」
「うちの班も見ました。この人じゃないですか?」
スマホの写真を見せ合う参加客。
「そうそう、この人。ドレスに金色の刺繍が施されていて、足元から龍が昇っていくように見えたんです」
「それそれ。周囲がすごいオーラに包まれてるというか…」
「青龍って女性だったんですかね」
「男性のイメージありましたけど、あれはまさしく青龍の化身だと思いました」
「ですよね…ていうか、彼女に気を取られて、他の手掛かり探すまでいかないままタイムアップでした…」笑う参加客。
「ああ、うちの班もですよ」さらに笑い合う参加客。
“おばあさま…やりすぎ”
紗由が皆の話を聞きながら思っていると、龍が思念を送ってきた。
“車で移動してツアー客を追ったんだろうけど、進子ちゃんが大変だったろうね。未那先生が途中で代役してたんじゃないのかな”
“未那先生、ノリノリかも…”
“すみません…うちの母…そういうの大好きで…”悠斗が会話に加わる。
“悠斗くん!”
“父に褒めてもらいたくて、いろいろやっちゃうんです、昔から”
“ああ…”龍と紗由は昔の記憶をたどり、うなずいていた。
“成功してたのは確かだし、未那先生に感謝です”龍が言う。
「二番目の神社では、真っ白なロングコートを着た長身の男性がいて…」
「彼の衣装にも金色の刺繍がありましたよね。その後ろの雲が…」
「虎に見えました、はい」
「かっこよかったです…牙をむかれてみたいっていうか…」
うっとりする女子に紗由は思った
“賢ちゃん、やりすぎ…”
“白虎さまになりきってたんだろうな…”苦笑いする龍。
「それを言うなら、1班が最初に回った神社も、赤いスーツの女性がいて、その背後の雲は鳳凰の形をしてたよ」
「朱雀さまが降臨したわけ?」
「羽があしらわれたスーツだったよ。胸元が豊かで、いかにも女神様って感じだった」
“玲香ちゃんかしら…”
“だね”ため息の龍。
「玄武的な人を見た人いる?」
「…私、見ました」
「どんな感じで?」
「神社に行く途中の池の淵で。真っ黒なロングコートで、持っていたバッグがクロコダイルというか、亀甲模様になってて。あ、この人がヒントなのかなと思いました」
「顔は見たの?」
「顔はよく見えなかったんですけど…ちらっと見えた横顔が、西園寺首相に似ていました」
“じいじも参加か…”大きくため息をつく龍。
“選挙前に何やってるわけ?”眉間にしわを寄せる紗由。
“息抜きだから許してあげて”会話に参加する聖人。
“それはそうなんだろうけど…”眉間のしわが抜けない紗由。
「ねえ、皆さんの写真、全部に写ってませんか。この黄色っぽいワンピースの女性」
華音が一枚の写真の中の女性を指さすと、皆が写真を見比べる。
「本当だ…光の加減で気づかなかったけど、同じ人だよね」
「でも、全部後姿で顔わからないわね」
“まこと咲耶ちゃんだよ”聖人が解説する。
“なるほどね。髪の長さもちょうど同じくらいよね”
“目立たないように気配を消しながらカメラの前に立つのが面白かったって”
“…まあ、彼らのおかげで、一般客の注意はそちらに向かって、本来のミステリーツアー的には成功いうことやな”翔太も参加する。
“つまり、皆の注意が向かってなかった人に注意を向ければいい”
龍の言葉に反論する紗由。
“…と思わせるのが目的なのかも”
“じゃあ、そこは…紗由と…翼に任せるよ”
“面倒な時しかお役目が回ってこないんだよなあ”苦笑いの翼。
“そして面倒解決能力が一番高い”微笑む龍。
“まあ、僕としては可愛い妹を人質に取られているようなものだからね、龍には逆らえない”笑う翼。
翼の言葉に何かが反応し、黙りこくる一同。
“…波動が一番揺れた単語は「人質」だ”翼が言う。
“ああ…そういうことか”
龍はため息交じりに、客一同を見回した。
* * *
大広間での報告タイムが一段落した後は、皆で庭に出ていた。
翔太が羽童や、池、松の木など、古くからあるものについての説明をしている。
「今回お話させていただきましたのは、通常のパンフレットにあるものではなく、このツアーの皆さま限定、特別バージョンですので、ここだけの話ということに」
参加客は皆一様にうなずく。
「ねえ、さっきみんなで話し合って出ていた案の中に正解があったら、その池に青龍神が出て来るのかしら」
客の一人の言葉で、皆が池をじっと見つめた。
「…さすがに、そううまいこといかないか」
「そうだね」
客たちは笑いながら部屋に戻っていく。
玄関先まで皆がたどり着いたその時、辺りに響く水音。
「冷たい!」
女性客が頭に降りかかった水しぶきに声を上げ、後ろを振り向いた。
「あれ…何?…」
皆もそれぞれに後ろを振り向くと、池の上にぼんやりと黄色い影が浮かんでいた。
そしてその影は徐々に龍の形になっていく。
「青龍神!?」
「いや…青くないよ、黄色いよ…」
「黄龍神…てこと?」
“どないなってんねん…”
翔太も驚いた顔で池を見つめた。
* * *




