その29
一同の前に姿を現した、黄色っぽい龍の形をした雲のようなものは、どんどん大きくなり天に向かって伸びていくと、次の瞬間、竜巻となり、あっという間に消えて行った。
どよめく一同。
「部長」
坊城の声で、翔太はハッと我に返り、今の現象に関して、伝承と関連付けながら、簡単に説明をした。
だが、翔太の表情は硬いままだった。
ちょうど館内からの呼び出しを受け、そのまま翔太は清流旅館へと戻り、その後を坊城が引き継いだ。
翔太の表情を見ていた女性客が別の女性客に囁く。
「あの表情…やらせじゃないってことよね…正直、大掛かりなお化け屋敷的なオチかと思ってたんだけど」
「マジヤバイんじゃないの。大丈夫なのかな、あんなの見ちゃって」
坊城の説明が終わると、一同も館内へ戻っていったが、そこには微妙な空気が流れていた。
* * *
「翔ちゃん、大丈夫? 青龍さまはどうしたのかしら…」
板場に戻った翔太に紗由が聞く。
「黄龍さまに話を聞きに行く言うて、その後、戻っておらん。いきなり黄龍さまいうのは…何かあったんか…何も伝わってきいへん」
「羽童さまは何ておっしゃってるの?」
「だんまりや」
翔太がショックを受けている様子を見て、紗由は思った。
今まで、青龍さまや羽童さまとは意思疎通が取れていた。今、何もわからなくなっているのは何でなのか、翔ちゃんは困惑してる…元々の“打ち合わせ”と大幅に違う…?
「紗由、俺、これから一条の“命”さまんとこ行ってくるわ」
「私も行く!」
「おまえは、ここにおれ」
「西園寺さんも一緒に行った方がいいわ」
そこの坊城が入ってきた。
「副部長!」
「ツアーのメインイベントは終わっているし、後は私と有川くんでどうにかします。皆さんで一条家に伺って黄龍さまにお話を聞いて来た方がよろしいかと」
「…おおきに。じゃあ、甘えさせてもらうわ」翔太が頭を下げる。
「ありがとうございます」紗由も深々と頭を下げた。
「別にあなたのためじゃないわ。さっき叔母の慶子から、九条の夢宮から連絡があったの。九条の姫一行、つまり関係者たちを京都に来させろと」
「紗由、おばあさまがヘリを寄越した。すぐに行くぞ」
「にいさま!」
「華織はん、仕事早いわ」笑う翔太。
「坊城さん、ありがとうございます。後のこと、よろしくお願いします」
3人は坊城に一礼して、板場を出て行った。
* * *
ヘリの中でも翔太の表情はかたかった。
皆、気にしているが声を掛けない。
決意したように翔太の腕をつかむ紗由。
「翔ちゃんは、青龍さまに何かあったと思ってるの?」
「…3つの時に初めて姿を現してくださってから、呼びかけに応じてもらえなかったことは一度もない」
「でも…でも、神様なんだから、きっと無事よ」
「前におっしゃっていたことが気になるんや」
「青龍さまは何て?」翔太の腕を強く握る紗由。
「いたた…」
「あ。ごめん」
「我がいなくなったらどうするかと聞かれたんや」
「それで?」
「いななったら、いやですと笑ってしもて。冗談やと思うたから…」うつむく翔太。
「それで?」
「それでおしまいや」
紗由が翼に声を掛ける。
「今の、たどれないかしら? 青龍さまの思念つかめない?」
「…無理。お掃除してあるようだよ」
「にいさまは?」
「翼が無理なら僕にも無理だ」
「奏子ちゃん、石は何か言ってない? 史緒ちゃん、書は降りてこない? まりりん、何か匂いは…」
「姫!」充が大きな声を出す。
「あ…」うつむく紗由の目に涙が浮かぶ。
「紗由、翔太の思念に引っ張られ過ぎだ」龍が言う。「いったん切り離せ」
「…はい」
「紗由に限ったことじゃない。他の皆も、自分のパートナーの感情に引っ張られないように、自分の周りに結界を張っておいて。これから、何が待ってるかわからない。ちゃんと自分を整えて」
一同は頷き、窓の外に見えてきた、一条家に目をやった。
* * *
一条の“命”、一条誠に祭殿へと通された一同は言葉を失った。
そこには、天と地をつなぐ一本の紐のようになりながら、卵を産み落とそうとしている青龍伸の姿があったからだ。
その下に、白虎、朱雀、玄武が結界を張り、卵を待ち構えている。
そして、青龍の周囲をくるくると回り続ける黄龍。
「一条の“命”さま…」翔太が声を絞り出す。「青龍さまと話はできますか?」
一条誠は、その問いに答えず、指をさした。
* * *
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