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その25

「うわあ!」

 飛び出して来たネコをよけようとする蒼也。

 だがネコは、肩に乗ろうとして乗り損ね、ずるずると落ちて蒼也のひざの上におさまった。

「にゃあん」

 蒼也は困惑したように皆を見回す。

「あの、僕、ネコ語話せません」


「大丈夫。だれも話せないから」紗由が次のクッキーに手を出す。

「意識をネコの眉間に向けて」華織が言う。

「は、はい」

「自分がネコの中にそこから入っていくの。時間が来たら、こちらに戻しますから」

「え? え?」

 さらに困惑しながら、次の瞬間、蒼也はふわりとテーブルに突っ伏した。


  *  *  *


 蒼也が次に目覚めた時、辺りにはレモンの香りが漂っていた。

 体を起こすと、目の前で紗由がレモンパイを頬張っている。


「お目覚めかしら」

 後ろから華織の声がして、蒼也は振り返った。

「お帰りなさい」微笑む華織。「どうだったかしら? 元同居人たちとの邂逅は」

 華織に言われ、蒼也はさっきまでの“彼ら”との会話を思い出した。


「あなたの他に何人いたのかしら」

「3人いました。二人は、僕が多治見に引き取られてからすぐに一緒になりました。もう一人はごく最近やってきて…でも、最初の二人しか見当たりませんでした…」

「その二人のうち一人は、手を使わずにカップ30センチ動かして神になるって言ってた彼だよね」恭介が確認する。

「そう。ちょっとうっとおしい彼」


「もう一人は? 私たちの前に現れたことある?」

 紗由が尋ねると、蒼也は答えた。

「パーティーの最初に翔太さんと話してた彼。ショーペンハウアーのコスプレしてた哲学者気取りも彼だよ」

「カップの彼はあなたのこと知らないみたいだったけど、哲学者の彼もかしら?」

「二人とも自分しかいないと思ってたし、自分のことすごいと思ってた」


「いななってる一人はどないなん?」

「時折、僕の後ろに来てた。全員を見ていたんだと思う」

「その彼と話をしたことはあるの?」

「話というか…独り言言ってたことはあって…」

「何て?」紗由が立ち上がる。

「えっと…このままじゃ、もうあそこに行けないとかなんとか…」


「チェック終わりました」充が華織に向かって言う。

「その彼の痕跡はありません」

「ありがとう」微笑む華織。

「チェック?」蒼也が警戒したように充を見る。


「その彼、一人で最初のネコに入ったまま逃げちゃったってことね」

「それはつまり、カップくんと哲学くんをこの子の中に追い出す力を持っているということ?」奏子が紗由に聞く。

「そういうプログラムになっていたということでしょうか」史緒がひとりごちる。


「なんか違和感あるな」腕組みする龍。

「そうね。あーくんを狙った野ばらも、青龍にいたゴキブリも、出来損ないだったのに、彼だけいきなり高性能」

 紗由が腕組みすると、翔太がクスッと笑う。

 小さい頃から、紗由はよく龍の真似をして腕組みしていたからだ。


「ところで、彼はどこへ行こうとしてたのかしら」考え込む真里菜。

「その辺、心当たりないの?」紗由が聞く。

「“もう”ってことは、一度行った可能性もあるよね」


「ねえ、史緒ちゃん…」

 真里菜が言いかけると、史緒は筆ペンと半紙を取り出し、天を仰いだ。

 史緒を見つめる一同。

「…降りてきました」

 いつもの文字と違い、筆の止め進めを繰り返しながら仕上がったのは絵だった。

「青龍さまが下りていらっしゃいました…」


「ということは、行き先は清流旅館?」

 真里菜が翔太を見た時、翔太のスマホが鳴った。

「ああ、じっちゃん。今、華織さまんとこや。みなで集もうてる……え? 青龍さまが?」

 翔太はしばらく飛呂之の言葉に聞き入った後、わかったと言って電話を切った。


「飛呂之さん、何だって?」龍が尋ねた。

「旅行サークルで企画を考えてる一般客募集ツアーのルートに清流を入れろと、青龍さまに言われたらしい」

「何で?」恭介が首を傾げる。

「来たいお客が来やすいようにしてあげるんじゃないの?」真里菜が笑う。


「でもなあ、この場ではツアー内容やルートは決められへんわ」

「だよね。紗由ちゃんがまた坊城女史に睨まれちゃうよ。“西園寺さん、あなた、少々出すぎなんじゃないかしら”とか言われて」

「似てる似てる」笑い転げる真里菜。


「女史は置いておいても、ここにいる中で正式なサークルメンバーは、翔ちゃん、恭介くん、まりりんだけよね。あとは前部長の翼くん。奏子ちゃんも史緒ちゃんも充くんも、メインの活動先は違うサークルだし…」


「しばらくは私たちもそちらをメインに活動します。多数決にもお役に立てますわ」

 史緒が言うと恭介も賛成する。

「それがいいよ。あとは翔太くんが女史をおだてておけば、事はすんなり進むと思うし」

「じゃあ、KUGAトラベルに協賛させて、役員になってるおにいちゃまにも参加させるわ。ねえ、史緒ちゃん」

「はい…」頬を赤らめる史緒。


「龍はどないする?」

「僕は、たまたま日程がかぶった客ってことで」

「わかった。そないなとこで話まとめるか」

 翔太が皆に向かってニッコリと笑った。


  *  *  *


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