その24
紗由、翔太、恭介、蒼也が華織の部屋に入ると、一斉に拍手が沸き起こった。
拍手の主は、充、真里菜、奏子、史緒だ。
「恭介くん、すごいでござるな」
「今回はすごい匂いがしてたわ」
「私の石もすごく反応してました」
「ミッションクリア、というところですね」大きな○が書かれた半紙を見せる史緒。
「な、何? そういう反応、気持ち悪いんだけど」怪訝な顔をする恭介。
「力を認められることに慣れた方がいいね」龍が顔を出した。「恭介くんの頭のよさに助けられたってことでしょ、今回は」
「そうですね。私だったら、その人、置いてきます」奏子が蒼也を見つめて言う。
「昔から、口は悪いけど気は優しいものね」クスリと笑う真里菜。
「まあ、恭介くんのおかげで助かったわ。せやけど…」翔太が一同を見回す。「紗由も含めて、皆には反省してほしいところや。龍がどれだけ心配したと思うてる」
「ごめんなさい」頭を下げる紗由たち。
「そうだよ」恭介も言う。「“命”さまの力で助かったけど、紗由ちゃんが人殺しになったら、どうするつもりだったんだよ」
「ごめんなさい」再び頭を下げる紗由たち。
「だいたい紗由ちゃんも、ひとりでケーキのホールを全部食べちゃうなんて、ひどいじゃないか」
「はい…」
腕組みして紗由に言う恭介を見て、一同は思った。
“やっぱり彼の沸点はよくわからない…”
「ところで、そちらの多治見さんについてはどうなさるつもりですの?」史緒が尋ねた。
「僕の家で引き取るよ。返したら危ないと思う」
恭介が言うと、翔太が異を唱える。
「恭介くんちと紗由んちは、やめたほうがええ。選挙前やし」
「そういうことだと、うちもやめたほうがいいかしら。おばあちゃま後援会会長だし」
真里菜の祖母・和歌菜は、以前は西園寺保の後援会副会長を、現在は会長を務めている。
「では、このままここにいればよろしいわ」華織が微笑んだ。
「でも、おばあさま…」
「私に手出しをできる人はそうそういなくてよ」
「それはそうだね」龍が言う。「グランパ、風馬おじさん、澪ちゃん、華音、進子ちゃん一家がいるわけだし」
「にいさま。あーくんが抜けてるわ」
「すみません、おばあさま」
「…私に謝る必要はなくてよ、龍」
少し華織の口調がかたくなり、一同は心の中でクスリと笑った。
「あ、あの…」蒼也がか細い声を出す。
「なあに?」紗由が聞く。
「何で皆さん、よくしてくださるんですか?…僕が…お二人を襲ったこともわかってるんですよね」
「わかっとるで。君自身がそうしたかったわけやないやろけど」翔太が言う。
「今は…僕は僕ですけど、また乗っ取られたら…」どんどん声が小さくなる蒼也。
華織が立ち上がり、蒼也の前に来る。
「乗っ取る前に相手を倒せばよくてよ」
「倒す…?」
「おばあさま。一回、乗っ取らせて、後でデータを抜く方が、研究材料になるんじゃないの」
「それはそうだけど、蒼也くんが可愛そうだわ。嫌な相手と狭い部屋に一瞬でも一緒にさせられるなんて」
「あ、あの、相手を倒していただけるんですか?」
「ご自分で倒せばよろしくてよ」
「おばあさまのところにしばらく居るんだったら、倒し方を教えてもらえばいいのよ」
紗由はそう言うと、テーブルの上のクッキーをつまむ。
「そんなのずるいよ!」恭介が不機嫌そうに言う。
「じゃあ、恭介くんも一緒に強化合宿しましょう」
「はい!」
恭介途端にニコニコ顔になると、華織に深く一礼した。
* * *
皆はしばらくお茶を楽しんでいた。いつも通りの風景だ。
そこへ進が入ってくる。
「失礼いたします」
進の声をかき消すかのように、ゲージの中のネコが鳴く。
「にゃーん、にゃーん」
「あら…どうしたの? そのネコ」
「ヘリコプターの中にいたようでして…頭の中にいろいろ話しかけてくるものですから…」
「他人格の容れ物にしたネコに似てるけど…」
「足の色が違うよ。あのネコは後ろ右足が靴下掃いてるみたいに白かった」
「恭介くん、よく見てるわねえ」
「まあね」
「ねえ、容れ物にしたネコってなあに?」真里菜が尋ねる。
「多治見くんの中におった、よけいな奴らの人格を移したんや」
ネコを見ると、目を背ける蒼也。
「大丈夫だよ」龍が蒼也の肩に手を置く。「ただのネコだ」
「進子ちゃん」翔太が近づく。「AIなのに電気つなごうてなくても、もつんか?」
「生体からも電気は流れるからね」
「なるほど」
「まあ、どれほどもつかはわからないけど、情報を取れるなら取ったほうがいいかと思ってね」
「じゃあ、蒼也くん。あなたがその子から聞き出してちょうだい」
「で、でも…」
進がゲージを蒼也の前に置き、扉を開けると、ネコは蒼也に向かって飛び出した。
* * *




