その23
手を上げて、自分が感じた“違和感”の正体を語ろうとする紗由に、翔太は言った。
「はい、どうぞ」
「キャラ設定が固まってないというか、不安定というか、白と黒だけじゃないわね」
「何の話だ」蒼也が不機嫌そうな顔になる。
「そっか。それぞれの人格に、能力を一つずつ入れて特化する。それで力の安定化を図ってるんだ」
「みんなを観察できるラスボスはピカピカ透明くんのほうね。時々色分割して、自分は後ろに隠れてみている」
「覗き見なんて両家の子女のすることじゃないなあ」肩をすくめる恭介。
「その一つずつある力に、“命”的な能力が加われば、鬼に金棒ぐらいの浅い考えなんでしょ?」
「だから何の話だ。僕は僕の力を極めて、いずれ人の上に立つ。それだけだ」
「手を使わずにカップを30センチ動かせたからって何なの? そんなの手で動かせばいいじゃないの」ため息をつく紗由。
「いずれは大きなものも動かせるようになる!」
「メガ・ムーバーズにでもなるんか? 多少の金にはなるやもしれんな」
「人間がすでにやってることを出来るようになっても、神とは呼ばれないわよ」
「……!」
「そもそも、あなた、神様になって何をするつもりなの?」
「皆が僕に従うんだ。世界は僕の自由になる」
「だーかーら、世界を好き勝手にした結果、何を手に入れたいのかって聞いてるの。」
「…皆が僕を神として扱い、敬うんだ」
「そういうのが普通の人間の考え方なのよねえ…」呆れる紗由。「別に神様は、神様扱いしてほしくて神様になったわけじゃないわよ?」
「せやなあ。それに神様になったら神様としての仕事もせなあかんし」
「だよねえ。だいたい、宗教もたくさんあるし、神様もたくさんいるんだから、皆が多治見神の言うこときくわけじゃないよね」
「それは…」困惑する蒼也。
「イスラム教徒はキリストの言うこと聞かへんしなあ」
「神様同士の関係だって、いろいろあるのよ? 口うるさいお局だっていれば、使えない同級生だっている」
「紗由ちゃん、実感こもってるね。旅行サークルの話?」
「ここだけの話にしておいてね」気が重そうな紗由。
「僕は僕だけで活動するから、そんなのは関係ない」
蒼也が、どうだと言わんばかりの口調になる。
「そうそう、あなたの状態に“命”の力をプラスしたら、当然、伊勢から目を付けられて、“命”の仕事をすることになるわ。神様との交渉事をね」
「僕だけなんて言うてられへんわ。フリーランスだってクライアントがいなければ仕事にならへんで」
「“命”の仕事は大変だよね。他の人間の人生かかってるし」大きくうなずく恭介。
「社長はんが銀行に融資の交渉するようなもんやわ。失敗したら会社潰れて従業員に恨まれるかもしれん。きっつい仕事や」
「“命”の力とやらを入れなければいいだけの話じゃないか」鼻で笑う蒼也。
「それを決めるのは君なの? その力を入れたのは君なの?」
「それは…」言葉に詰まる蒼也。
「まあ、“命”の仕事がしたくない言う以前に、向いとらんな」
「そうねえ。神様のお守りも楽じゃないわ。自分ばかり楽をしたがるあなたは不合格」
「そんなことおまえたちが決めることじゃないだろ!」
「ふむ。確かにそうね」
「ほなら、話を本題に戻そか。俺らに多治見くんのシステムがばれてもうた。その先、どうなるかや」
「私たちにバレた以上は、本体の彼から、ラスボスとパシリたちを“抜いて”、他の誰かに移すんじゃないかしら」
「つまり、これ以上、ここにいても無駄いうことやな」
「そうね。帰りましょう」
窓を開ける紗由。
「…助…けて」
か細い声で話しかける蒼也に、3人が一斉に振り返る。
「もしかして、乗っ取られてる本体お出ましか?」
「ねえ、紗由ちゃん。助けてあげようよ。今、不要物を抜いてあげられないかな」
「今抜くって言われてもねえ…」
「そうや!」
「…はい」
「あー、あんさんのことやない。ちょっと待ってや」
胸ポケットから羽童を取り出し、尋ねる翔太。
「青龍さまがおっしゃっていた“力”は、今使えますでしょうか」
「使えるが…他の人格を移す先が必要だな」
その時、庭から一匹のノラ猫が入ってきた。
「ふむ。そのものでよかろう」
羽童はそう言うと、自分の羽を使い、ノラ猫の背中へ飛んでいく。
ネコは体の動きが止まる。
「彼に我とネコを抱かせろ」
「承知しました」
翔太は、羽童を乗せたネコを、蒼也の腕に抱かせた。
イスに座った蒼也の体が激しく震えたかと思うと、ふわりと背もたれに倒れこんだ。
「な、何したの?」恭介が翔太に聞く。
「人工知能部分を、このネコに移したんや。“命”さまのお力で」
「すごいね! やっぱり“命”さまはすごいや!」
「彼女よりすごい人は知らん」笑う翔太。
「えっと…それで蒼也くん本体どうするの?」恭介が聞く。
「友達なんでしょ? 救ってあげなさいよ」
「え…」
「友だちになって下さいって直接お願いした相手を置いていくわけ? 総研に何されるかわからないじゃないの。それってどうなの?」
まくしたてる紗由にあとずさりする恭介。
「つ、連れて行きます…」
「じゃあ、そうしましょう。ヘリに運んで」
紗由はそう言うと、窓の外へと歩き出した。
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