その22
翔太が清流旅館に戻った頃、ちょうどまた龍から電話が掛かってきた。
「翔太、さっきはごめん」
「“命宮”試験の件やろ? そりゃ慌てるし、“命”さまより前にやたらなことは言われへん。わかってるから大丈夫や」
「ありがとう…」
「で、まこちゃんからは何か聞けたんか?」
「どうやら、先に帰った恭介くん以外、皆の力を使って“先読み”したらしい」
「ほお」
「紗由が拉致されるというのが一致した読みで、みんな、その時点でカンカンだったって」
「ああ…」
「皆で乗り込もうと奏子ちゃんが提案したらしいんだけど、恭介くんと翔太が乗り込むだろうから、そっちを手助けしようと充くんが提案して、そういうことになったらしい」
「そおか。じゃあ、これから行ってくるわ」
翔太は手元にある羽童に深く頭を下げた。
* * *
清流旅館の裏庭に止めてあったヘリに乗り込むと、翔太は背後に青龍の気配を感じ、振り返った。
薄青い雲のような姿で、ヘリを覆っている。
「青龍さま…」
「この前、多治見を訪れたのだがな」
「はい」
「一条の石を盗み出し、悪用した形跡がある」
「黄龍さまのところへ行かれるのですか?」
「お気づきのはずだからな。真意をうかがってくる」
「はい」
「羽童に華織の力を少しばかり持たせてある。必要があらば使うがよい」
「ありがとうございます」
翔太がヘリの周囲を見回すと、薄青い雲はキラキラと光った。
* * *
恭介の“神”という言葉に反応した蒼也が、さっきまでと明らかに違うオーラをまとっていることに紗由は気づいた。
“黒也くんのお出ましかしら…ちょっと違った感じもするけど”
恭介は“黒也”を見つめ、続ける。
「それとも、もうなったつもりでいる?」
「“命”の力は不安定だ。僕は常に最高のパフォーマンスを出せる」
“まさか “写”の力を使って悪さしてるとか…?”
紗由はその考えをいったん否定した。そんなことをすれば痕跡が残るはず。おばあさまにわからないはずはない。
とすると、おそらく西園寺に嫌がらせを続けてきた一派が、西園寺や周辺の家は大したことがないと、多治見の関係者に刷り込んでくれたのだろう。
私たちが幼い頃に、その能力に触れた多治見の関係者たちは、こちらからの報復を恐れたのか、もう職から離れている。
つまり、ほぼ全員新人社員で、“命”についてよく理解もしないまま、“神”を作り上げようとしているわけだ。
紗由はホールの最後の一口を口に入れると、ため息交じりに窓の外を見た。
すると、そこにはニンマリ笑って手を振る翔太の姿が。おまけに、その肩には羽童がインコのように止まっている。
“うわーっ!!”声が出そうになり、慌てて口をふさぐ紗由。
窓に背を向けている蒼也は気づいておらず、蒼也との話に夢中の恭介も気づいていない。
何気に窓に歩いて行き、後ろ手で鍵を開ける紗由。再び何気にテーブルへと戻った。
その間に気配を消して窓を開け、カーテンの陰に滑り込む翔太。
「お口直しにサンドイッチでもいただきたいわ」
紗由の申し出に驚きを隠せない蒼也。
「まだ…食べるの?」
「私、食の神様と契約しているの。常に最高のパフォーマンスを出せるわ」
紗由の口から出まかせに、さらに驚いた様子の蒼也。
「そうそう。私、手品も得意なのよ」
「手品?」警戒する蒼也。
「清流旅館の七代目を出して見せるわ」
立ち上がり、その場でバレエのピルエットをして見せる紗由。3回転したところでピタッと止まる。
「えいっ!」
「まいど!」手を上げ、窓際で挨拶する翔太。
「翔太くん! どこから入ったの?」
天井を指さす翔太。
「テレポーテーション? そんなわけ…」蒼也が口ごもる。
“こいつ、ピカピカがない…? 真っ黒ゾンビ、どこ行ったんや…”
「で、おたくは何が得意技なん?」
「ふ、ふん。見てるといい」
蒼也は紗由のティーカップを、手を触れずに30センチほど動かした。
「……」
黙って見つめる、紗由、恭介、翔太。
その後があると思っているからだ。
「どうだい?」
「…これだけ?」小さな声で尋ねる紗由。
「サイコキネシス・テレキネシスだよ。僕は、とあるモードになれば、いつでもこれができる」
「ふーん」
紗由が、つまらなそうにカップを見つめると、カップはソーサーの上でぐるぐる回り出し、ふわりと浮き上がった。
「パイロキネシスとテレポーテーション、追加しまーす」
紗由が言うと燃え出すカップ。そして次の瞬間、カップは窓の外に移動する。
「だから…君のはただの手品だろ? まあそれでもすごいけど。僕のは本物の超能力なんだよ」
「翔ちゃん。私、わかっちゃったわ、彼に対する違和感の正体」
紗由は楽しそうに微笑んだ。
* * *




