その20
龍が頭を抱えて言う。
「しかも、自分の思念を読まれないようにブロックかけてる」
「ぜんぜん普通の女の子やないわな」苦笑いする翔太。
「だよな。何考えてるんだよ、あいつ…」
「奏子ちゃんたちには聞いてみたんか?」
「それが…探偵事務所のメンバー、恭介くん以外も全員、ロックかけてるんだ」
「はああ?」
「わけわかんないよ、もう…」
「まあ落ち着けや、龍」
そう言いながら、翔太は頭の奥で紗由のオーラをたどる。
“色がいつもより赤が多い…ん?…元に戻った、いや、戻したんか?”
予想外の展開で、さすがの翔太も疲れを感じながら、龍に尋ねた。
「それで龍、恭介くんのことは“読んだ”んか?」
「紗由からの“伝言”が貼られて、恭介くんの思念自体は読めないようにされてた」
「伝言には何て?」
「甘やかすべからず」
「…何や、それ」
「“鍵”の類は半日程度しかもたないだろうけど、その間に、あいつ何する気なんだか…翔太にも話してないって、よほどの何かだろ?」
「帰ってきたら、お仕置きやな」
「まったくだ…」
「とりあえず翼くんに、昨日の皆の思念、探らせい。あと…普通に、まーくんとまこちゃんに話聞いてや。特にまこちゃん。充から何か聞いてるかもしれへん」
「そうか。そうだな。わかった」
龍はそそくさと電話を切った。
“龍がこんだけ慌てるいうことは…何かあるんやろな…今の時点で龍から俺に言えない部分も含めて…”
翔太は考え込むと、電話をかけ始めた。
* * *
翔太の電話の先は、清流旅館五代目亭主、祖父の飛呂之だった。
「やっぱりそうやったんか…」
「ああ。先ほど西園寺の“命”さまからご連絡があった」
飛呂之がいうところの西園寺の“命”とは、華織の息子で華音の父、風馬のことだ。
「だから龍があないに慌てとったんや」
「紗由ちゃんの“命宮”試験への承認が下りた。これはすごいことだ。あの高橋進さんですら、28の時だそうだからな、試験が認められたのは」
「なのに、よりによって試験が承認されたその日に本人が行方知れずや」苦笑いする翔太。
「多治見くんと関係があるのか、やっぱり」
「おそらくな。探偵事務所のみんな、龍から頭んなか読まれへんようにブロックしてるんや」
「奏子ちゃんもかい?」
「ああ。せやから龍もダブルショックやろな」
「うーん。で、おまえは紗由ちゃんの行きそうなところに心当たりあるのか?」
「この流れだと多治見くんちやろなあ」
「危ないんじゃないのか?」
「紗由はまだええ。おそらくこの後、恭介くんも参加やろ」
「恭介くんがか?」不思議そうに確認する飛呂之。
「華織さまが恭介くんに言うたんや。多治見くんと友だちなれて」
「それはまた…いちばん特殊な“力”のない人間なのにな…」
「せやけど、彼には別の武器がある。華織さまはそれを使えと思うとる。恭介くんには真意が伝わってなかったようやがな」
「なるほど…それで紗由ちゃんがヘルプに入ったというわけだな」
「さすがはじっちゃん。話、早うて助かるわ」
「ということは、おまえはそのヘルプのヘルプに入ると」
「商談しに行ってくるわ。なんや、うちの宿、慰安旅行先にどうかいうて下見に来てた言うてたし」
「わかった。羽童さまに同行してもらえ。準備しておく」
「ありがとさん。ちいと風馬はんのアトリエ寄ったら、すぐ帰るわ」
「気をつけてな」
翔太は電話を切ると、風馬のアトリエへと向かった。
といっても、風馬は今東京にいる。翔太の目的は現在の“命宮”高橋進だった。
* * *
進は翔太の目の前にティーカップを置くと、ポットから紅茶を注いだ。
「翔ちゃんも苦労するなあ」クックと笑う進。
「進子ちゃん、おもんないで」
「ああ、ごめんごめん」
「もしかして…紗由、ここに来たんか?」
「うん。ヘリを出してくれって」
「ヘリで多治見くんち乗り込むつもりなん?」
「いや。帰りに救出してくれって。昔もそんなことあったよね。あの時は自衛隊機を使わせてもらったけど」
懐かしそうに微笑む進。
「救出が必要になるいう読みなんやな」
「何とかなる、という読みらしいよ」
進は自分のカップにも紅茶を注ぐと、グイっと飲んだ。
* * *
紗由は多治見邸の近くでタクシーを降りると、そびえたつ豪邸を遠目に眺めながら深呼吸した。
“やっぱり、つけられてたのね…”
紗由は自分の斜め後ろに迫る気配に意識を集中させた。
“お坊ちゃまのガードマンというところかしら…”
ふいに、紗由の後ろから伸びた手が、紗由の鼻と口をふさぎ、紗由はその場に崩れ落ちた。
* * *




