その19
多治見蒼也の中にいる白と黒、どちらも助けろという華織の言葉に、龍は反論した。
「おばあさま。相手は紗由を襲ってるんですよ? そんな暢気なこと言ってる場合じゃない」
「紗由、あなたはどう思う?」
「うーん。襲われるのはごめんです。翔ちゃんに何かあったらどうしようって、心配でなりませんでした。ただ…」
「ただ?」
「白くんが助けてと言っているのなら、助けてあげたい。結局彼も、“命”“禊”“言挙”などの能力者を利用しようとした一般人、多治見の一部の人たちの犠牲になってるわけでしょ?」
「ねえ、紗由ちゃん」恭介が手を上げる。「襲った目的が何なのかをわかってないのに、何をどう助けるつもりなの?」
「そうねえ…」
「また襲われるかもしれないのに、そんな悠長なこと言ってる場合じゃないよ」心配そうな恭介。
「そうでござるなあ。恭介どのの言うように、相手の目的は確認しないと、有効な手が打てませぬ」充も同意する。
「女のカンで何とかなるでしょ1」ニッコリ笑う紗由。
「馬鹿か、おまえ」苛立つ龍。「その一環で、大人数に襲われたら、相手が武器を持ってたらどうするんだ。取り返しがつかないことになるだろ!」
「殺したりはしないと思うの」
「甘いよ、紗由は。咄嗟に何をするかなんてわからないだろ」
「そうだよ、紗由ちゃん。皆が一緒とはかぎらないんだし、紗由ちゃんに何かあったら…」心配そうに言う恭介。
「え?」龍と紗由が同時に恭介を見つめる。
「な、何?」戸惑う恭介。
「違うよ、恭介くん。二人が心配しているのは、相手のほう」翼が言う。
「相手?」
「奏子の“えいっ!”とか、華織おばさまの遠隔攻撃。そんなところはとっくに紗由ちゃんはコピーしてる。“写”の一門のエリートだからね。
そうだな…記憶を封じるついでに頭に極限のダメージを与えるのも可能だろう。
四辻や一条の石なんかを持たせれば、もっといろんなことができるわけで…」
考え込む翼。
「だーかーらー。殺されそうにならない限り、相手を廃人にしたり、進子おねえさんみたいに敵の手足の関節全部外したりしないってば」
「華織さま」恭介が憮然とした表情で問う。「強い力を持たない僕のような人間は何をどうすればいいのですか?」
「そうね…私だったら…」
華織は席を立ちあがった。
* * *
恭介は少ししょんぼりしながら聞いた。
「ねえ、紗由ちゃん。“命”さまは僕のことが嫌いなの?」
今はもう“命”ではない華織を“命”と呼ぶ恭介。
「おばあさまは恭介くんが大好きよ。大切な友だちの孫で、大切な孫の友だちで、真面目な頑張り屋さんですもの」
「じゃあ、どうしてあんなこと言うんだよ。多治見くんとお友達になって、総研を探っていらっしゃい、だなんて。力が強い皆だってやらないようなこと、何で僕なんだよ」
「おばあさまに聞いたら?」
「もういいよ!」
恭介は怒って迎えの車に乗り込んだ。
「世話が焼けるわね、昔から」
「奏子ちゃん! 聞いてたの?」
「恭介くんなら、私たちが持つような力に頼らず知恵を絞って何とかできるはず。華織おばさまは、そう言いたかっただけでしょうに」
「そうよね。いちいち彼に、彼自身のできることを見せてあげないとわからないのかしら。めんどくさーい」
「まりりん…」
「まあまあ、あねご。そう言わずに」
「充くんも…」
「姫が気に病むことはないでござるよ」
「そうなんだけど…」
「ところで充くん」真里菜が目ざとく充のクーラーバッグに目をやる。「それは何?」
「希少品のししゃもでござる。和歌菜どのにを取り寄せてもらいました」
「もしかして、まこちゃんへの貢物?」紗由が尋ねた。
「はい」にんまりと笑う充。
「ふうん。まこちゃんへの貢物をおばあちゃまに貢がせるんだ」真里菜がギロリと睨んだ。
「忍者のお役目は果たしたごほうびと言いますか」
「うちのおばあちゃま、ほんと充くんに甘いんだから…」
「名前、貢くんに変えたほうがいいですわね」史緒もやってきた。
「あいたたた…」
楽しそうに笑う4人をよそに、紗由は、恭介に彼自身のできることを見せる方法について思いを馳せていた。
* * *
翌日、龍が慌てた様子で翔太に電話をしてきた。
「翔太、大変だ…」
「どないしたん、そないに慌てて」
「紗由が家出した」
「は?」
「机に置手紙があったんだ。“普通の女の子に戻ります。探さないでください”って」
「はあ?」翔太がポカンと口を開ける。
「しかもさ…」
龍は大きくため息をついた。
* * *




