その18
奏子が和歌菜と部屋に着くと、中では紗由、龍、翔太、翼、充、史緒が華織の周りに集まり談笑していた。
「奏子ちゃん、お久しぶりね」
微笑む華織に丁寧に頭を下げる奏子。
「おばさま、相変わらず神出鬼没でいらっしゃるのね」
「楽しそうな場所を探し出すのが得意なの」うふふと笑う華織。
「でも、おばあさま」紗由がハッとしたように言う。「こんなに一度に抜けたら、お見合いメンバーが変に思わないかしら」
「大丈夫よ」微笑む和歌菜。「大地と真里菜がホスト役として前もって説明してあるから」
「前もって?」首を傾げる紗由。
「ええ、そうよ。本来、あなたたちは人数のうちには入っていなくて、でも、それぞれに久我の人間と会う用事があったから、少し早めに来ていただいて、30分程飛び入り参加ということにしてあるの」
「ああ…。だから、いつもの倍のスピードで、龍んとこに、おなごが押し寄せてたんですな」納得する翔太。
「皆さん、一気におうちに電話されてたみたいで…今度の総裁選も確実な総理の孫たちに気に入られて来いと、ご家族に言われたんじゃないかしら」
「両家の子女は大変ですなあ」心底同情するかのように言う翔太。
「でも、紗由ちゃん、すごいスピードであちらこちら動いていたから…」思い出し笑いをする史緒。
「姉小路くん、紗由を追いかけまわしてたのに、挨拶もできなくてお気の毒だったよ」同じく思い出し笑いの龍。
「あれを見てたら、姫に近づこうとしていてもひるむでしょうなあ」頷く充。
「恭介くんが姉小路さんに“えいっ”をしたようですし…やたらとやってはいけないと言ったのに…」奏子が部屋を見回す。「そういえば、恭介くんは…?」
「ボーイさんの予備人員を配置してなかったの…」申し訳なさそうに言う和歌菜。
「そろそろ、皆さんのわがままに切れてそうな…」
史緒が心配そうに言った時、ドアがバタンと開いた。
「不良物件、回収してきました」
憮然とした表情の真里菜が現れた。
「何だよ! 僕は紗由ちゃんを守ったじゃないか!」
拳を握る恭介。
「あーのーね」
「恭介くんのおかげだよね。うん。ありがとう」
真里菜の怒った顔をチラリと見ながら、紗由がとりあえず礼を言う。
「だからって、うちの大切なお客様たちに不愛想な態度は困るんですけどっ」
「例の多治見くん以外、みんな好き放題なんだよ。カクテル一口飲んで、やっぱりこれは嫌だとか、ガトーショコラはないかとか、瓶じゃなくてジョッキ持ってこいとか…ここは居酒屋でもケーキ屋でもないんだぞ!」
「…正論ね」真里菜がうなずく。「でもまあ、それでいいのよ。お坊ちゃまとお嬢ちゃまのカップリングだけじゃなくて、ちゃんとした人を見極めるための場だから」
「うん。そういうこと」大地が部屋に入ってくる。「仕事で付き合って大丈夫そうな人を見極めてるんだ」
「多治見くん以外、全員やめたほうがいいよ」まだ不満げな恭介。
「ところで恭介くん、多治見くんはそんなに他の人と違ってたの?」紗由が聞く。
「途中から、ずっと一人でベランダに出てて、静かにしてたから手がかからなかった」
「確かにそうだったわ」
自分が感じた蒼也の変化を皆に話す奏子。
「匂いも何度か消えたり出たりしてたし…」
「僕も妙に手のひらがビリビリする時があった」大地が言う。
「僕の石も一度だけ大きく反応した。でもその後、石が眠っちゃったんだ」
「マドモアゼルが持っているのは、翼君の石の兄弟石だよね?」奏子に聞く充。
「ええ。普段は片方ずつ働くようになってるの」
「そう。リスクの分散」笑う翼。
「その石が眠っちゃうってことは、よほど疲れたか、今後に備えてチャージか、どちらかやな」翔太が言う。
「なーんか、気味が悪いわ」真里菜が顔をしかめる。
「今までの話をまとめると、人格が一つでないのは確かですわね」大地を見つめる史緒。
「そうだね」
「つまり、白也くんと黒也くんが一つの体の中にいるってことね。蒼也くんじゃなくて」
「姫。ちょっと滑ってますぞ」
「えへへ」マカロンを口に歩折り込む紗由。
「総研のことだから、人体実験ぐらいやりそうだな」龍がつぶやく。
「自分ちの子供にか?」驚く翔太。
「彼、養子よ」和歌菜が言う。
「人さまの子なら、何にでもつかうというわけでござるな」
「奏子が一瞬感じ取ったSOSは、そういうことなのかもしれないな」
「でも翼くん」真里菜が言う。「それだと白を助けて黒をやっつけるみたいなことになるわけ?」
「どちらも助けてちょうだい」
微笑む華織を、一同は困惑の眼差しで見つめた。
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