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その17

 史緒が紗由に見せた画面には、太極図が描かれていた。白と黒の勾玉が合わさったような、道教のシンボルだ。

「太極図?」

「…今回、文字ではありませんでした」複雑な表情を浮かべる史緒。

「一筆書きなのね。すごいわ、史緒ちゃん」


“紗由、感心するのはそこじゃないだろ?”

“にいさま…!”

“今ちょっと奏子ちゃんが彼の気をそらせてる。もう一回、探るぞ”

 龍に言われた紗由は、蒼也の思念に焦点を合わせた。


  *  *  *


 男性陣のもとに赴いた奏子は、皆と楽し気に談笑していた。

「いやあ…奏子さん、本当に雛人形みたいな美しさだなあ…」

うっとりとつぶやく今出川浩二。

「雛人形に似てるって、よく言われます。兄と一緒にお内裏様とお雛様のコスプレをしたりして」

 優雅に微笑む奏子の笑顔に、一同から、ほーっというため息まじりの声が漏れる。


「そういえば、多治見くんもコスプレしてたよね、先月の多治見総研のイベントで」中院徹がからかうような口調になる。

「まあ、そうですの?」

 目を輝かせる奏子に、蒼也が“え?”という顔をした。

「僕も行ったんだよ、あのイベント。哲学者ショーペンハウアーのコスプレで教育を語るって、面白い発想だよね。まあ…女性は君ばっかり見てて、話をちゃんと理解してたかはわからないけど」中院はくすりと笑う。


「ショーペンハウアーというと…ニーチェの先生ですわね」

「そうそう。なーんか暗いよね、言うことが。“あきらめを十分に用意しておくことも、人生の旅には必要なんだよ”ってセリフ、子供教育のイベントで言うから、ちょっと驚いたよ」

「あ、ああ…」困惑したように微笑む蒼也。


  *  *  *


“紗由、彼の様子がおかしいぞ”

“そうね…普通の人の思念だわ。しかも怯えてる”

“奏子ちゃんが言ってたSOSモードかしら”

“流れてくるものが、まるで別人だ”

“太極図…つまり、白と黒、有と無が増減を繰り返して回り続けている”


“今日はここまでになさい”

“おばあさま!”

“帰りに、私のところへ寄ってちょうだい”

“わかりました”

 紗由が他の人間にも合図を送ろうとしたところを龍が止めた。

“僕たちが帰れば、皆もついてくる”

 確かにそうだと思った紗由は、小さく肩をすくめた。


  *  *  *


「コスプレって言えば、西園寺さんが昔、サイオンイマジカのイベントで戦うお姫様やってたよね。姉小路が彼女を見つけて狂喜乱舞しててさ」

 辺りを見回すのは松殿紘一だ。

「ああ、彼はあそこだ」


 部屋を不自然にうろうろしている姉小路和毅を、あごで指し示す松殿。

「何してるの、彼」不審そうに姉小路達人を見つめる藤原敬。

「西園寺さんを追いかけてるんじゃないのかな。彼女、忍者みたいに不思議な動きするよね。彼、到達できてないっていうか」烏丸薫が笑う。


「紗由ちゃん、おいしそうなものを見つけると、風のように動くから」うふふと笑う奏子。

「なんかさ、さっきから、あのボーイのワゴンに邪魔されてない?」

 風早源一郎が恭介のワゴンを見つめて笑う。

「さしずめ、姫を守るボディーガードかしら」


 皆の視線を感じたのか、姉小路はため息をつくと、皆のところに戻ってきた。

「姫がつかまらないねえ」笑う烏丸。

「何か、体調悪いのかな…早く歩こうとすると頭の中にガラスを引っ掻くような音がしてきてさ、立ち止まってると忙しそうなワゴンにぶつかりそうになるんだよ…」

「今もですか?」


 奏子が尋ねると、姉小路が緊張したように答える。

「えっと…えー、あれ? 大丈夫みたいです」

「奏子さんの美しさで、耳鳴りも止まっちゃったんじゃないのか」

 今出川の言葉に皆が頷く。

 奏子を中心に談笑が続く中、蒼也は静かにその場を離れていった。


“最初に見た時と、気配の様子が全く違う…石の反応も…龍くんに伝えたほうが…”

 ドアから出ていく龍と紗由の姿を見つけた奏子は、翼の姿を探した。

 そして、翼は奏子に向かって頷くと、同様に部屋を出ていった。


「奏子さん」

 声を掛けてきたのは和歌菜だった。

「ご歓談中、ごめんなさい。ちょっと例の件で…よろしいかしら」

「あ…はい」

「では、私の部屋のほうで」


 その時、傍を通りかかった賀陽あゆみの腕に触れ、呼び止める和歌菜。

「あゆみさん。来週のゴルフ、烏丸さんもご一緒することになったの。いろいろアドバイスしていただいたらいかがかしら」

「まあ、そうなんですの?」

 烏丸に向かって丁寧にお辞儀するあゆみ。

「最近、うちの会社で開発したパターが評判なんですよ。プレイの前に、体験ルームにおいでになりませんか?」

「面白そうですわね」


 話し始めた二人と、それぞれに女性を探す男性陣をよそに、和歌菜と奏子はその場を離れた。

 ドアを開けながら和歌菜は言った。

「華織さんが、私の部屋でお待ちよ」


  *  *  *



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