表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/29

その16

 充は、シャンパンタワーのグラスを女性陣に配り終えると、まるで歌舞伎のような早着替えでボーイ姿から祭装束に変わった。

「すっごーい!」

「あゆみちゃんは、こういうのお好きで?」

 微笑みながら、胸元からカクテル缶を取り出す充。

 傍らのワゴンにあったカクテルグラスに注ぐと、賀陽あゆみに差し出した。


「ありがとう!…ねえ、そんな手品、どこで学んだの?」

「僕たちが子供の頃にはやってた、手品芸人のインバーターって覚えてる?」

「ええ。大好きだったわ。誕生日に呼んでもらったこともあるし」

「そのインバーターの手品の先生に教わってる」

「すっごーい! 本格的なのね」


「そういや、あそこの兄さん、一条先生に似てませんか、師匠」

 充が翔太に話しかける。

「ああ、多治見はんか。せやな、京都のお人は、みな、あないにはんなりしたイケメンさんなんかな」

「彼も手品上手よ」

「へえ」


「一瞬で瞳の色が変わったの見たことあるわ。どこで教わったのかは、教えてくれなかったけど」

「瞳の色? おもろいな。見てみたいわ」翔太が言う。

「人前で披露はしてないみたいよ。私はたまたま練習中のところを見ちゃっただけだから」

「カラコンでも入れるのかな」


「白目が黒くなっちゃったの。だから全部黒くて、ハムスターみたいだったわ」

 あゆみがケラケラと笑う。

「ほお。ますます見てみたくなったわ」

 翔太は多治見の後ろ姿を見つめた。


  *  *  *


「ねえ。西園寺さんは、四辻奏子さんと婚約していらっしゃるって本当?」

 充のシャンパンタワーや手品にも気を取られず、ずっと龍の傍にいた北白川千鶴が尋ねた。

「幼馴染なんです。親同士は気乗りしているようですが…彼女は政治家の妻に興味がないようで…」

「まあ。そうでいらっしゃいますの? 私、祖父も父も兄も政治の道に進んでいるものですから、幼い頃からそういう殿方のおそばにいるのが夢でしたの」


「おじいさまは引退後、教育関連の財団をいくつもお持ちでいらっしゃいましたね」

「よくご存じでいらっしゃるのね」

「教育は大切な分野です。ただ…おじいさまのように教育に身を尽くされた結果、政界から呼ばれたのではなく、政界に入るために、その分野に身を置くという本末転倒な人も目立つようですが…」


「ああ…多治見さんのことですわね。聞いてますわ。幼い頃からアメリカで暮らしていた彼を、半年前に呼び戻したようですわ。次の選挙は今からでは無理でしょうけれど、あそこの会長さんが立候補なさる、その宣伝カーには乗せて回るらしいです」

「お詳しいですね」

「政治を知らない人間が金に飽かせて割り込むという下品な行為は、いろいろと話にのぼるということです」


「先ほどから、千鶴さんは彼をあまりお好きではないような…」

「…友人が…少しひどい扱いを受けましたの。あの方、まるで二重人格です。次の日に会った時には、まるで違う人になっていて、都合のいい話だけさせて……あ、友人がそのように…」

「ご友人、ご苦労なされたんですね。よい方が見つかるよう、お祈りしております」

“翔太、電話して”


“はい、はい”

 龍のスマホが鳴る。

「ああ…祖父からだ…失礼します」

 千鶴に背を向けて、大広間の外へ出ていこうとする龍。


「さんきゅ、翔太。控えの間で会おう」

“ムリや。今、充の助手で、手品の一環で電話してるように見せただけや”

「わかった。僕の声…」翔太と充の間にある数個の風船を見つめる龍。「その風船から流しておいて」

“おまえ、相変わらず、おいしいとこもってくな”


「ごきげんよう。素敵なレディたち」

 風船から響いてくる龍の声で、「きゃー」という声が一斉に上がる。

 しばし、皆の意識が女性陣に集まり、そのスキを突く形で、龍と紗由が蒼也の思念を読みに入った。

「“無”!?…」

 紗由が声を上げると、恭介が不機嫌そうに皿を差し出した。

「ムースでございます」

「あ、ありがとう」

“紗由…声に出すな”


“ごめん。こんなの見たことないから、つい…”

“無機物でさえ、人の思念が入って何らかの反応をするのにな”

“翔ちゃんが死んでるって言ったの、やっとわかったわ”

“あ。史緒ちゃんが、こっちに来るわ。スマホ握りしめて”

“何か受け取ったんだな。見たら教えて”

“OK”


「史緒ちゃんもムースどう? おいしいわよ」

「いただくわ…そこのボーイさん。おひとつお願いします」

「…承知しました」

 さらに不機嫌そうに皿を差し出した恭介は、何かをぶつぶつつぶやいている。


「紗由ちゃん、これ見て」

 史緒が差し出したスマホ画面には、メモ帳を写した写真があった。

「これって…」

 紗由はその画面をまじまじと見つめた。


  *  *  *



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ