↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
5/7

第五話


 「ウガアアアアアアアアアアア!!!」


 魔王の正体、それは、万物の悪意である。人や犬、牛や烏。数多の生物が抱く悪意が漏れ出した産物だ。数百年単位で魔の地に現れ、同時に勇者が現れる。

 聖剣とは、魔王と対をなす存在。つまり、善意の産物だ。悪意は善意でしか倒せない。時魔法だって、魔王に対しては無効化されてしまう。

 だから聖剣は、悪意が暴走する度に勇者を選び、そして倒してきた。

 だから、選ばれた勇者クレインはーータビト達は、必ず魔王を倒さなければならない。

 今まさに、雌雄を決する時なのだ。

 タビト達の傷も甚大ではあるが、魔王だって同等の傷を負っている。クレインの剣捌きが、魔王を圧倒していたのは事実だ。

 このままいけば、勝利は目前だった。

 

 「任せろワン!!」


 魔王が腕を振るう。ガザルダンは飛び込んで、隕石のような腕と衝突した。波濤が広がり、グリルモはぎゃっとしゃがれた声を出す。

 

 「ワアアアアアアアアァンっ....!!」

 

 魔王の腕は、更に威力が増している。ガザルダンは牛人らしからぬ叫び声を気力に、魔王の腕を防いでいる。しかしそれも、時間の問題だ。

 

 「あたしゃもう限界だよ!」


 グリルモは、クレインへと賽を投げる。これで決まらなければ、絶体絶命という局面。

 グリルモは最後の魔術を、クレインへと捧げた。クレインの傷はみるみると治っていき、一瞬で全快へと持ち直る。

 

 「ありがとう、お婆さん!」

 「やらなきゃっ、殺すよ...」


 最後の最後まで減らず口を叩くグリルモに、クレインはケレン味溢れる笑顔で返す。それから魔王に向き直った。


 「タビト、頼んだ」

 「任せろ」


 クレインは飛び上がる。数十メートルはある魔王を軽々と飛び越えて、空中で、勇者は聖剣を翳した。

 魔王は今、ガザルダンを仕留めるのに夢中である。魔王の拳が、ガザルダンの全身を捉えた。

 

 「んんんんんぬぉおぉぉぉおおおおお!!!」


 アイデンティティを放棄したガザルダンは、全神経を絞り上げ、魔王の拳に相対する。衝撃の波がタビト達を押し寄せ、身体を地上に留めることすら困難だ。埃のように舞い上がるグリルモを横目に、タビトはクレインを注意深く見凝める。


 「これで、決める」 


 その言葉を合図に、聖剣の周囲を、衝撃が舞った。魔王とガザルダンにより齎された衝撃の波が、聖剣を渦巻く風のようなものーー波動が大きくなる度に鳴りを潜めていく。

 不審に思った魔王がクレインに気付く時には、既に十分な波動が、聖剣へと集められていた。

 聖剣は既に、魔王と同等の大きさを誇っている。無論大きさの要因は波動であるが、決してはったりなどではない。クレインの波動は、聖剣の善意をも吸収している。

 つまり、あれ自体が魔王を殺しうるということ。

 

 「終わらせる...!!!」


 覚悟の台詞と同時に、波動を纏った聖剣は振り下ろされた。

 あれだけの威力。魔王とて、命を散らすには十分な代物だろう。避けなければ、死は確実だ。


 「....」


 だから、避けさせなければいい。回避不能の状態にしてしまえば、魔王とて死は免れまい。

 タビトは、聖剣の周囲の時だけを、大幅に進ませた。

 尽きかけた魔力の、片鱗を残して。

 時魔法により進んだ聖剣は、瞬時に魔王の眼前に現れた。

 絶体絶命の脅威に、魔王の目玉は白黒と驚嘆を表している。

 聖剣は、魔王へとーー直撃した。


 「アアアァァアァアアアアァァァアアア!!!」

 

 断末魔と共に、魔王は波動の聖剣に灼かれてゆく。塵芥になるまでに、時間はそうかからない。当たった時点で波動が魔王の悪意をこねくり回し、聖剣の善意がとどめにかかる。

 タビト達は、魔王に勝利したと、そう思ったのだ。

 魔王の身体から、ぬるりと蛇のようなものが飛び出した。それはするすると聖剣を通り過ぎ、クレインの背中を容易に取ってみせる。


 「...」


 あの時は、はらわたが煮え繰り返るほどに憎らしかった。あれだけの戦闘をして、あれだけの手数を出して、こんな姑息な手を、魔王は隠していたのかと。

 こんな姑息な手で、敗北してしまったのかと。


 「二度はさせない」


 飛び出した蛇のようなものの周囲を掴むように、タビトは手を翳した。

 魔王自体に魔法は効かなくとも、周りの空間には、通常通りに魔法が使える。でなければ、タビトがいる意味が無い。魔王は膨大な手数でタビトの支援を掻い潜ってきたけれど、この時においては、魔王とて予感すらしていないだろう。


 「ガッ...?!」


 魔王の目玉が、今にも飛び出るかのように驚嘆の色を隠せていない。

 あとコンマ一秒で聖剣を操る唯一の天敵を屠れるというのに。

 勇者は未だ、魔王の攻撃に気が付いていないというのに。

 

 「アアアァァアァアアアアァァァァアアアアア!!!」


 勇者の背中を前にして、この世から消滅してしまう恐怖を味わうことになるとは、魔王も思いもしなかっただろう。

 長い長い断末魔は、聖剣がその巨躯を両断するまで響いていた。

 

 「やったのか」


 ガザルダンは魔の地に倒れ伏し、グリルモは仰向けに放心している。タビトの魔力も尽き、クレインの一世一代の大技も解き放ってしまった。

 これで倒し切れなければ、またタビトは、死に際の時魔法に縋るしかない。

 けれど、そんな必要は無かった。


 「タビト」


 クレインの声が、タビトにだけ聞こえた。異性を惑わす甘い声には、勇者としての責務を課した重圧が乗せられている。

 振り返ったクレインは、タビトに宣言した。


 「終わったよ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。