第三話
「牛騎士ガザルダンは、突然変異した猛牛と人間のハーフなんです。恵まれた体躯と知能を併せ持っていて、その腕力は一撃で蟒蛇を屠る程!」
「ドルイドのグリルモは、だいだらぼっちが背負っている大森林に住んでいた一族の英雄で、死んでいなければどんな傷でも一瞬で完治に至らしめる最強の回復術師です!」
語る仕草に一片の迷いなし。すらすらと湧き出る尊敬をたらふく込めた言葉達に、俺は一転、深く潜り込むように聞いていた。
あともう少し、あともう少しで、何かが思い出せそうな気がしている。ガザルダンも、グリルモも、曖昧にではあるが分かるのだ。
ガザルダンは、ブルドッグと人間を融合した超人で、一流の鍛治師の造ったどでかい斧を背にしている。鎧を纏った姿は巨大で、確か口癖があったような気が。
グリルモは、少女のような風体で、その実あまりにも歳をとっていたような気がする。
「そして、何と言っても勇者クレイン!」
思案している中を切り裂いたのは、楽しげに話すメレナの姿。
「流浪の旅を続けていた彼ですが、聖剣を抜いたことで勇者となり、波動を操る人類最強の男!聖剣の一刀は魔族をこともなげに切り伏せて、たった一人で数万の大群から私達を守ってくれました!」
「そうか。それがきっかけで、根源ーー魔王を断つ為に、俺やあいつらを国が集めたんだ」
思い出してきた。ガザルダンやグリルモの輪郭も、明確に想像出来る。クレインは美男子で、その癖女気が無いものだから、グリルモがいつも揶揄っていたっけ。
俺の反応に、メレナは急くように。
「そう、そうです!四人は魔の地に赴いて、魔王を倒す為に....」
付け足そうとした。
「あれ?」
途中で首を傾げて、メレナは心底不思議と言わんばかりに、黒目を右上に寄せる。
「どうした?」
「いや...そういえばと思ったんですが」
メレナは上目遣いに俺を見た。気不味そうにもじもじとされると、なんだか悪いことをしている気分になる。
しかし意を決したのか、メレナは少し息を吸い込んでから、核心をついた。
「何故、タビト様と私は一緒になっているのでしょうか」
「...?」
「勇者一行は、未だ魔の地にて魔王を倒さんとしているのでは、ないのでしょうか」
その時俺は、動揺した。
「それもなんで、タビト様と私なんかが出逢えるの?私は普通の娘っ子なのに。ただの八百屋の娘なのに...」
ぶつぶつと一人の世界に入ってしまったメレナを凝視めながらも、俺は逸る心を追い出すことが出来なかった。
「じゃあ、俺はまだ、魔王を倒す旅の途中ってことなのか」
「そ、その筈...何ですけど」
圧を感じ取ったのか、メレナは肩を落とし、自信なさげに言った。
「どういうことだ」
俺は無視して、首に手を当て考える。
何か、何か重大なことを忘れている気がする。
忘れてはいけない、やらないといけない真実。
「どうか、しましたか..?」
メレナは不安げに、俺を窺った。余裕がなくなっていたとはいえ、こんな少女に不安を抱かせるとは、情けない限りである。
「すまない。混乱した」
だというのに、空気を変えるような一言も捻り出せないでいる。年は俺のほうが上だろう。状況は俺と同じなんだ。俺が不穏当な態度をとってどうする。
せっかく、十分な記憶を取り戻すことが出来たというのに。
「もう、大丈夫だ」
年下の女の子を不安にさせてしまうなんて、俺の主義では無い筈だろう。




