幕間 ミーナの恋
最近、お姉ちゃんはよく笑う。
昔から笑う人ではあった。
子供たちの前では優しく笑った。
町の人たちの前では穏やかに笑った。
私の前では、少し困ったように、でも安心させるように笑った。
でも、最近のお姉ちゃんの笑い方は、それとは少し違う。
「……ソフィア」
「はい」
洸太が名前を呼ぶ。
ただそれだけで、お姉ちゃんの目元が柔らかくなる。
別に、特別なことを言われたわけではない。
花を贈られたわけでもない。
詩を捧げられたわけでもない。
ただ、名前を呼ばれただけ。
それなのに、お姉ちゃんはまるで宝物を受け取ったみたいな顔をする。
「……ソフィア」
「はい」
「……いや、用があったわけじゃないんだが」
「構いません。もう一度お願いします」
「何を」
「今のを」
「……ソフィア」
「はい」
洸太は少し疲れたような顔をする。
でも、嫌そうではない。
お姉ちゃんも、それを分かっている顔をしている。
私は少し離れたところで洗濯物を畳みながら、そのやり取りを見ていた。
お姉ちゃんは、恋をしている。
それは、私にも分かる。
姉としてでも、修道士としてでもなく、ただ一人の女の人として、洸太を見ている。
その顔は綺麗だった。
昔からお姉ちゃんは綺麗だったけれど、今は少し違う。
強くて優しくて、いつも前に立ってくれたお姉ちゃんが、洸太の前では少しだけ欲張りになる。
名前を呼ばれたがる。
手を取られたがる。
帰ってきてください、と何度でも言う。
そして洸太が帰ってくると、本当に嬉しそうに笑う。
私は、畳んだ布の端を整えながら、小さく息を吐いた。
「恋って、ああいうものなのかな」
独り言だった。
けれど、近くにいたお姉ちゃんには聞こえたらしい。
「ミーナ?」
「あ」
私は慌てて口を押さえた。
お姉ちゃんは洗濯物を抱えたまま、こちらを見る。
その顔はいつものお姉ちゃんだった。
でも、少しだけ耳が赤い。
「今、何か言いましたか」
「ううん。別に」
「別に、という顔ではありません」
そう言われると困る。
お姉ちゃんは昔から、私の顔を見るのが上手い。
隠しても、だいたいばれる。
私は少し迷ってから、正直に言った。
「お姉ちゃん、恋してるなあって思って」
お姉ちゃんの手が止まった。
それから、静かに視線を逸らした。
「……そう見えますか」
「見えるよ」
「そんなにですか」
「うん。すごく」
「そうですか」
お姉ちゃんは困ったように微笑んだ。
でも、嫌そうではなかった。
むしろ、少し嬉しそうだった。
それを見て、私はますます不思議になる。
恋。
私はルークが好きだ。
それは分かっている。
七歳の頃からずっと一緒だった。
泣いた日も、笑った日も、怖かった日も、ルークは近くにいた。
ルークは乱暴なところもある。
口も悪い。
素直じゃない。
すぐ怒る。
でも、私が本当に怖い時には、必ず前に立ってくれる。
私が泣きそうになると、どうしていいか分からない顔をしながら、それでも隣にいてくれる。
だから好き。
大事。
いなくなったら嫌。
それは、分かっている。
でも、それが恋なのかは、よく分からない。
お姉ちゃんが洸太を見るあの顔と、私がルークを見る気持ちは、同じなのだろうか。
それとも、違うのだろうか。
「私も」
私は、ぽつりと言った。
「恋してみたいなあ」
それは、本当に何気ない一言だった。
お姉ちゃんに言ったつもりでもなかった。
でも。
少し離れた廊下の角で、何かが落ちる音がした。
振り向くと、そこにルークがいた。
薪を抱えたまま、固まっていた。
「……ルーク?」
「いや」
ルークは妙に早口で言った。
「何でもねえ」
「何でもないって顔じゃないよ」
「何でもねえ」
そう言って、ルークはぎこちない足取りで去っていった。
薪を一本、落としたまま。
私は首を傾げた。
「ルーク、どうしたんだろう」
お姉ちゃんは、拾われずに残った薪を見ていた。
それから、なぜか少し楽しそうに笑った。
「さあ」
「お姉ちゃん?」
「何でもありません」
お姉ちゃんはそう言って、また洗濯物を畳み始めた。
でも、何でもない顔ではなかった。
絶対に、何か知っている顔だった。
その少し前。
洸太とルークは、修道院の裏手で薪を運んでいた。
修道院の仕事は多い。
食事を作るにも、風呂を沸かすにも、冬に備えるにも薪はいる。
ルークは慣れた手つきで薪を束ね、洸太はそれを運びやすいように積み直していた。
その途中、ルークが何気なく言った。
「お前さ」
「なんだ」
「最近、ソフィア姉のこと、名前で呼んでるよな」
洸太は手を止めた。
少しだけ遠くを見る。
「ああ」
「否定しねえのかよ」
「呼んでいるのは事実だからな」
「言わされてるんじゃねえのか」
「それも、完全には否定できない」
「できねえのかよ」
ルークは呆れた顔をした。
洸太は薪を一本持ち上げる。
「でも、俺も悪い気はしていない」
「そうなのか」
「ああ。何度も求められると、ちょっと慣れないが」
「名前呼ぶだけだろ」
「その“だけ”が、意外と難しい」
「難しいのかよ」
「難しい」
洸太は真面目な顔で頷いた。
「ソフィアが本気の時は、下手な魔物より逃げ場がない」
「……分かる気がする」
ルークは、妙に納得した顔をした。
それから、少し迷う。
「なあ、洸太」
「なんだ」
「女って、名前を呼ばれるだけで、あんなに嬉しいもんなのか」
洸太はルークを見た。
「相手によるんじゃないか」
「ミーナもか?」
「それは俺に聞くことじゃないだろ」
「お前しか聞ける奴がいねえんだよ」
「ソフィアに聞けばいい」
「聞けるか」
「ミーナ本人に聞けばいい」
「もっと聞けるか」
「なら、俺にも分からん」
「役に立たねえ」
「すまん」
「謝るな。余計に困る」
ルークは頭をかいた。
苛立っているというより、困っている顔だった。
「ミーナも、そういうの気にすんのかな」
「名前か?」
「ああ」
「いつも呼んでるだろ」
「呼んでるけどよ」
ルークは眉を寄せた。
「なんか、違うだろ。洸太がソフィア姉を呼ぶ時」
「違うか」
「違う」
「どう違う」
「知らねえよ。だから聞いてんだろ」
「俺も、まだよく分かっていない」
「お前、本当に役に立たねえな」
「すまん」
「だから謝るな」
ルークは大きく息を吐いた。
「名前を呼ぶだけでも、伝わるものってあるのか」
「あるんじゃないか」
「あるのか」
「たぶん」
「たぶんかよ」
「俺も、まだ鍛えられている途中だからな」
「誰に」
「ソフィアに」
「……ああ」
ルークはまた妙に納得した。
「すげえな、ソフィア姉」
「ああ」
「お前を鍛えるのか」
「鍛えられている」
「名前の呼び方を?」
「たぶん」
「たぶんなのかよ」
その時だった。
二人は、背後に静かな圧を感じた。
殺気ではない。
敵意でもない。
けれど、逃げ場を塞がれたような、よく分からない圧だった。
ルークの肩が跳ねる。
「な、なんだ……?」
洸太には分かった。
この圧の主を、俺は知っている。
振り返る。
ソフィアが立っていた。
にこり、と笑っている。
ただ、それだけだった。
「……聞いてたか」
ソフィアは、にこりと笑った。
答えない。
ただ、笑っている。
「……」
洸太は黙った。
ソフィアも黙っている。
笑顔のままだ。
圧だけが、少し増した。
「……ソフィア」
「はい」
ソフィアは、花が咲くように笑った。
だが、まだ去らなかった。
洸太は少しだけ目を伏せる。
「……ソフィア」
「はい」
ソフィアは満足したように頷いた。
そして何も言わず、軽い足取りで去っていった。
軽い足取りで。
いつものソフィアからは考えられないほど、分かりやすく上機嫌だった。
ルークは、しばらくその背中を見ていた。
「……洸太」
「なんだ」
「今の、何だよ」
「分からん」
「分かんねえのかよ」
「分かることもある」
「何が分かるんだ」
「ソフィアは、俺に名前を呼ばせたかった」
「それは俺にも分かった」
「なら、それ以上は分からん」
「……女って難しいな」
「ああ」
二人はしばらく黙った。
何か大事なものを見た気がする。
けれど、それが何なのかは分からなかった。
「つまり」
ルークが、深刻な顔で言った。
「呼ぶと、ああなるのか」
「ああ、なるな」
「嬉しそうだったな」
「嬉しそうだった」
「すげえ嬉しそうだったな」
「ああ」
「……ミーナも、ああなるのか」
「それは分からん」
「分からねえのかよ」
「俺にミーナのことを聞くな」
「じゃあ誰に聞けばいいんだよ」
「本人だろ」
「聞けるか」
「なら分からん」
「くそ……」
ルークは頭を抱えた。
洸太も、特に助け舟を出せなかった。
名前を呼ぶ。
たったそれだけのことが、誰かにとっては大事な意味を持つことがある。
それは確かだ。
だが、どんな声で、どんな顔で、どれくらいの気持ちを込めればいいのか。
そこまでは洸太も知らない。
洸太はただ、ソフィアに鍛えられている途中の人間でしかない。
「洸太」
「なんだ」
「名前って、どうやって呼ぶんだ」
「口で」
「殴るぞ」
「俺もそれ以外の方法は知らん」
「お前、本当に役に立たねえな」
「すまん」
「だから謝るな。余計に困る」
ルークは大きく息を吐いた。
その顔は、魔物の群れを前にした時よりも険しかった。
そしてその後、ミーナの「私も恋してみたいなあ」を聞いてしまった。
ルークの中で、何かが完全に絡まった。
その日から、ルークが変だった。
最初は、ただ変だと思った。
私は洗濯物の籠を一つ持とうとしただけだった。
それなのに、ルークは無言で近づいてきて、籠を三つ重ねた。
さらに横にあった薪の束まで持とうとした。
「ルーク、それは洗濯物じゃないよ」
「知ってる」
「じゃあなんで持つの?」
「持てるからだ」
理由になっていない。
しかも前が見えていない。
「ルーク、そっち壁」
「分かってる」
分かっていなかった。
ごん、と鈍い音がした。
「……痛くない」
「痛い時の顔してるよ」
「痛くない」
痛そうだった。
籠の陰から見えるルークの耳が赤い。
何をしているんだろう、この人。
そう思った。
でも、少しだけ笑いそうになった。
次に、ルークは段差の前で止まった。
段差と言っても、私が毎日またいでいる石段だ。
子供たちでも普通に降りる。
その前で、ルークは妙に真剣な顔をして手を差し出した。
「ミーナ」
「うん?」
「手を」
「なんで?」
「危ない」
私は石段を見た。
石段も、たぶん困っていた。
「これが?」
「ああ」
「ルーク、この段差で私が転ぶと思ってるの?」
「思ってない」
「じゃあなんで?」
「……念のためだ」
「何の?」
「……」
ルークは答えなかった。
顔だけは、まるで崖から私を救い出す騎士みたいだった。
でも目の前にあるのは、ただの石段だった。
私はしばらくルークの手と石段を見比べた。
それから、そっと手を乗せた。
ルークの肩が少し跳ねた。
手を差し出したのはルークなのに、なぜ驚くのだろう。
やっぱり今日のルークは変だ。
でも。
嫌ではなかった。
昼過ぎ、ルークは庭の隅にしゃがみ込んでいた。
何をしているのかと思ったら、花を摘んでいた。
しかも、すごく真剣に選んでいた。
赤い花を手に取る。
首を振る。
白い花を手に取る。
また首を振る。
黄色い花を見て、しばらく悩む。
魔物の弱点を探している時の顔だった。
花は倒さなくていいと思う。
「ルーク、何してるの?」
声をかけると、ルークの背中がびくっと跳ねた。
「……花だ」
「見れば分かるよ」
「やる」
「私に?」
「ああ」
「ありがとう。どうして?」
「……」
ルークが固まった。
理由を考えていなかったらしい。
花を渡すところまでは決めていたのに、その先がなかったのだ。
ルークらしいと言えば、すごくルークらしい。
「綺麗だから?」
「あ、ああ」
「この花が?」
「……お前が」
そこまで言って、ルークは自分で固まった。
私も固まった。
風が吹いた。
ルークの手の中で、黄色い花が揺れた。
「いや、違う」
「違うの?」
「違わねえけど、違う」
「どっち?」
「だから、その、花が綺麗で、お前も、いや、そうじゃなくて」
ルークは、花を持ったまま完全に迷子になった。
私はもう駄目だった。
口元が勝手に緩む。
駄目。
笑ったらかわいそう。
でも、ルークが花を持って迷子になっている。
しかも顔が真っ赤だ。
これは、ちょっと難しい。
「ふふっ」
「笑うな」
「ご、ごめん」
「笑ってるだろ」
「少しだけ」
「少しじゃねえ」
「だって、ルークが」
「俺がなんだよ」
「花を持って迷子になってる」
「迷子じゃねえ」
「じゃあ、どこに行くの?」
「……」
また固まった。
私は今度こそ笑ってしまった。
ルークは本気で傷ついたような顔をした。
それから、珍しく不貞腐れた。
「……もういい」
そっぽを向いた。
大きな子供みたいだった。
私はまた笑いそうになった。
でも、今度は少し違った。
胸の奥が、変なふうに温かかった。
何をしているんだろう、この人。
朝からずっと、そう思っていた。
荷物を持ちすぎて壁にぶつかって。
石段の前で騎士みたいな顔をして。
花を渡す理由を考えていなくて。
違わないけど違う、と何度も言って。
ずっと間違えている。
ずっと空回りしている。
ずっと無様だ。
いつものルークなら、もっとちゃんとしている。
危ない時には迷わない。
戦う時には怯まない。
私が泣きそうな時には、ぶっきらぼうでも隣にいてくれる。
私は、そんなルークをたくさん知っている。
魔物の前に立つ背中。
私を庇ってくれた腕。
怖いくせに、怖くない顔をする横顔。
負けそうでも、絶対に諦めない目。
そういうルークが好きだった。
たぶん、ずっと好きだった。
でも、今のルークは全然格好よくない。
籠を持って壁にぶつかる。
石段に負ける。
花を持って迷子になる。
言いたいことも言えずに拗ねる。
格好いいところなんて、ひとつもない。
なのに。
どうして、こんなに嬉しいんだろう。
どうして、こんなに目が離せないんだろう。
どうして、こんなルークまで、私だけが知っていたいと思うんだろう。
夕方、ルークはなぜか私を庭の端に呼んだ。
その時点で、私は少し身構えた。
今日のルークは、何をするか分からない。
荷物を持って壁にぶつかる。
石段を崖扱いする。
花を持って迷子になる。
次は何だろう。
そう思っていると、ルークは深刻な顔で私の前に立った。
「ミーナ」
「うん」
「俺は、お前に言わなきゃいけないことがある」
私は瞬きをした。
ルークの顔は真剣だった。
真剣すぎた。
もしかして、どこかに旅立つのだろうか。
それとも、また一人で危ないことをしようとしているのだろうか。
少しだけ不安になる。
「何?」
「俺は」
「うん」
「お前のことを」
「うん」
「……」
止まった。
ルークが止まった。
完全に止まった。
さっきまで風で揺れていた髪まで止まった気がした。
「……ミーナ」
「うん」
「いや、違う」
「違うの?」
「違わねえけど、違う」
今日はそればかりだ。
違わないけど違う。
それはもう、違わないのではないだろうか。
けれどルークは真剣だった。
「ミーナ」
「うん」
「……」
「ルーク?」
「いや、待て」
「待つよ」
「……」
また止まった。
今度はさっきより長い。
私は待った。
ルークは口を開いた。
閉じた。
また開いた。
やっぱり閉じた。
魚みたいだった。
いや、魚に失礼かもしれない。
「……くそ」
小さく悪態をついたルークの顔が、悔しそうで、恥ずかしそうで、子供みたいだった。
私は、とうとう笑ってしまった。
「ふふっ」
「笑うな」
「ご、ごめん」
「笑ってるだろ」
「だって」
「だって、なんだよ」
「ルークが、さっきからずっと面白い」
「面白いって言うな」
「ごめん。でも、面白い」
「俺は真剣なんだぞ」
「うん。分かってる」
「分かってて笑うのかよ」
「うん」
「ひでえ」
ルークはまた、傷ついたような顔をした。
それから、完全に不貞腐れた。
「……もういい」
そっぽを向く。
本当に、大きな子供みたいだった。
ああ。
そっか。
私は恋をしてみたいと思っていた。
お姉ちゃんみたいに。
洸太に名前を呼ばれて、嬉しそうに笑うお姉ちゃんみたいに。
名前を呼ばれるだけで幸せになったり。
手を伸ばされるだけで満たされたり。
帰ってきてくれただけで、泣きそうなくらい嬉しくなったり。
そういうものが恋なのだと思っていた。
でも、たぶん違った。
恋をしてみたかったんじゃない。
私がずっとルークに持っていたこの気持ちを、恋って呼んでもいいのか知りたかっただけなんだ。
格好いいルークが好き。
強いルークが好き。
私を守ってくれるルークが好き。
でも。
格好悪いルークも好き。
間違えるルークも好き。
私のために無様になるルークも、たまらなく好き。
それを恋と呼んでいいなら。
私の恋は、これでいい。
「ルーク」
「……なんだよ」
まだ拗ねている。
私は一歩近づいた。
ルークが何か言おうとする。
また、難しい言葉を探している顔だった。
今日はもう、いい。
私は人差し指を伸ばして、ルークの唇にそっと当てた。
「今日はもう、言わなくていいよ」
「……何がだよ」
「言いたかったこと」
「別に、そんなもの」
「あるでしょ」
「……」
「嬉しかった」
ルークの目が少し揺れた。
私は少し背伸びをして、ルークの耳元に顔を寄せた。
「好きだよ」
小さく、ただそれだけを言った。
ルークが固まった。
今日一番、綺麗に固まった。
私はそれを見て、また笑ってしまった。
「私、恋してみたいなって思ってたの」
「……」
「でも、分かった」
赤くなって、固まって、何も言えなくなっているルークを見る。
うん。
やっぱり、これでいい。
「私、もうしてたみたい」
ルークは何かを言おうとした。
けれど、やっぱり言えなかった。
私は、その顔を見て笑った。
「あ、やっぱり今はこれでいい」
格好つけようとして。
失敗して。
拗ねて。
それでも、私のために一生懸命だった人。
そんなルークを見ていると、胸の奥がぽかぽかした。
今は、これでいい。
笑ってしまう恋。
からかってしまう恋。
隣にいるのが当たり前すぎて、名前をつけるのが遅くなった恋。
でも、きっと。
私のこの恋も、いつかお姉ちゃんみたいになると思う。
洸太を見つめるお姉ちゃんのように。
嬉しそうで、幸せそうで、少しだけ欲張りで。
相手を逃がさないくらい、まっすぐな恋に。
今はまだ、そこまでじゃない。
でも、いつか。
私は、そう思いながら、まだ赤い顔で固まっているルークを見上げた。
うん。
やっぱり、今はこれでいい。




