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千年の氷層から来た君~現代少女がまさか古代原人に一目惚れ!?!?  作者: Holandes


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第四話 世界中が彼を笑っても、私は笑えない 1


記者会見の動画は、その日の夜中にはもう拡散されていた。


彩花が家に帰ると、スマホはバイブで震えっぱなしだった。LINEのメッセージ、Twitterの通知、学校のグループチャット――ありとあらゆるものが狂ったように通知を表示していた。


彼女は見なかった。


スマホをベッドに放り投げて、風呂に入った。シャワーの水が降り注ぐ。熱い。肩の筋肉が熱くて痛いくらいだった。彼女は水流の下に立ち、目を閉じた。頭の中には、午後の光景が何度も何度も繰り返し映し出されていた。


フラッシュ。


カシャッという音。


旦棱がしゃがみこんでいた。


白い白衣の裾を握りしめて。


指の関節が白くなっていた。


彩花は勢いよく目を開けた。


考えるな。


考えるな。


蛇口を閉め、体を拭き、パジャマを着て、浴室を出た。


スマホはまだ震えていた。


彼女は近づき、手に取り、ロック画面の通知を覗き込んだ。


小円からメッセージが17件届いていた。


彩花は深呼吸を一つして、トーク画面を開いた。


16:47 小円:彩花彩花彩花!!!ニュース見た?!?!


16:48 小円:あの原始人!!!お父さんが北極から掘り出したって!!!


16:48 小円:やばいよ、会見中に脱糞したんだって!!!


16:49 小円:【リンク:衝撃!永久凍土層から発掘されたネアンデルタール人、会見でストレス失禁!専門家「前例のない発見」】


16:50 小円:wwwwwwwwwwwwww


16:51 小円:死ぬほど笑った カメラに向かって脱糞とか 八回は見た


16:52 小円:彩花は見た?


16:53 小円:いる?


17:00 小円:彩花???


17:15 小円:まいいや とりあえずニュース見て! 明日学校で!


彩花は画面を見つめ、指をキーボードの上に浮かせた。


親指が少し震えていた。


寒さのせいじゃない。


スマホを机の上に伏せて、返信はしなかった。


2

翌朝、彩花はいつもより二十分早く家を出た。


玄関の鏡の前で、自分の表情をチェックした――無表情。いつも通りだ。目の下が少し腫れているが、目立つほどではない。コンシーラーで隠せば大丈夫。


自分に言い聞かせる:今日もいつも通りに振る舞う。


絶対に誰にも気づかれてはいけない。


学校に着き、教室に入ると、小円が飛びついてきた。


「彩花!!!」


小円の目は電球のように輝き、笑顔は耳元まで裂けそうなほど大きかった。彼女は彩花の腕を掴み、席の方へ引っ張っていく。


「見た見た見た?!?!」


「……見たよ。」彩花は鞄を置き、淡々とした口調で言った。


「じゃあなんで返信くれなかったの?!」


「スマホの電池切れ。」


「嘘! 昨日の夜、既読ついてたよ!」


彩花は沈黙した。


小円はその沈黙に気づかなかった。彼女はあまりにも興奮していて、まるで火がついた爆竹のように、席の上でぴょんぴょん跳ねていた。


「彩花のお父さん、すごすぎ! あの原始人! 四万年前の! 生きてる! これってSF映画じゃない?!」


「うん。」


「しかも会見であの反応――wwwwww」小円は腹を抱えて笑った。体を前後に揺らしながら、声をあげて笑う。「八回見た! 本当に八回! あのしゃがみこんだ表情、凶暴でいて情けなくて、それでズボンが濡れててwwww」


彩花は膝の上で指をぎゅっと握りしめた。


「それで脱糞もしてた! 見た?! 後ろにあの染み! あの匂い、画面越しでも嗅げそうだった! 記者たちが後ずさる映像、見た? 吐きそうになってる人もいた! 私も画面の前で吐きそうになった! でも吐きそうになりながら笑ったわww」


「小円。」


「うん?」


「それって、面白いと思う?」


小円は一瞬固まり、彩花の顔を見た。


彩花の表情は何も変わっていなかった。相変わらず味気ない、まるで砂糖を入れないアメリカンコーヒーのような顔だった。でも、その目は――


小円はふと、彩花の目の様子がおかしいと感じた。いつもは半分開いたり閉じたり、何事にも興味なさそうなあの目が、じっと自分を見つめ、瞳孔がわずかに収縮している。まるで光の加減で瞳孔を変える猫のように。


「……もしかして、面白くないの?」小円は探るように言った。


彩花は答えなかった。


うつむき、鞄から教科書を取り出し、机の上に置いて開いた。


「授業が始まるよ。」彼女は言った。


小円はまばたきをした。ぽかんとしていた。


「いや……まだ五分あるよ――」


「予習するから。」


「あなた予習なんてしたことないじゃん――」


彩花は顔を上げなかった。


小円は彼女の横顔を見つめた。何かがおかしいと感じた。彩花の唇は固く結ばれ、顎のラインはわずかにこわばり、教科書を握る指が――


指が震えていた。


「彩花?」小円の声が小さくなった。「どうしたの?」


「別に。」


「手、震えてるよ。」


「寒いから。」


「教室の中、暖房効いてるよ。」


「冷え性なの。」


小円は五秒間彼女を見つめ、何か言おうとして口を開きかけたが、結局閉じた。


彼女は自分のスマホを取り出し、下を向いてそのニュースのコメント欄を覗き込んだ。


コメント欄はすでに爆発していた。コメント数は五桁を超えていた。


いいねが最も多かったコメントは、次のようなものだった。


「笑い死にしそう 四万年前の原始人がカメラの前で脱糣とか、これおそらく世界で一番高額な糞だな」


「ネアンデルタール人:俺は誰 ここはどこ なんで俺脱糞してるんだ」


「記者たちが一斉に後退するシーン、今年のベストショット」


「この原始人めっちゃ怖い 化け物みたい」


「しゃがみこんでる姿、ゴリラみたいだな」


小円はこれらのコメントを見て、もう一度彩花の横顔を見た。


彩花はうつむき、教科書を見つめていた。しかし、彼女の視線は動いていなかった。同じページをじっと見つめたまま、微動だにしなかった。


小円はスマホを仕舞い、それ以上何も言わなかった。


3

一時間目の授業が終わると、小円がまた近づいてきた。


今度はずっと慎重だった。まるで地雷を踏むのを恐れているかのようだった。


「彩花。」


「うん。」


「もしかして……怒ってる?」


「怒ってない。」


「じゃあなんで話しかけても無視するの?」


「授業を聞いてただけ。」


「あなた、授業なんて聞いたことないじゃん。」


「……今日は聞いた。」


小円はため息をつき、机に伏せて、横を向いて彩花を見た。


「彩花、もしかして私が原始人のこと面白いって言ったから怒ってるの?」


彩花の指がペン軸にわずかに力を込めた。


「違うよ、」彼女は言った。「あなたは笑いたければ笑えばいい。私には関係ないし。」


「じゃあなんで不機嫌なの?」


「不機嫌なんかじゃない。」


「不機嫌だよ。朝からずっと。いつもより顔が怖い。」


彩花は振り向いて小円を見た。


小円の目に悪意はなかった。彼女は心から尋ねていた。心から困惑していた。なぜ彩花がこのことに不機嫌になるのか理解できなかった。彼女の目には、原始人が会見で脱糞するという出来事は、ただ面白いだけだった。ネット中が笑い、世界中が笑っている。それのどこに問題があるというのか。


彩花は口を開いた。


何かを言いたかった。


言いたかった:彼は化け物じゃない。彼は人間だ。フラッシュに驚いたんだ。彼がしゃがみこんだとき、震えていた。彼はここがどこかわからない。あの白い光が何かわからない。あの人たちがなぜ自分に向かって笑うのかわからない。


彼には何もわからない。


彼はただ、四万年前から来た、迷子の人間だ。


この言葉を言いたかった。


でも言えなかった。


だって言ったら、小円はこう尋ねるだろう。「なんであの原始人のためにそんなこと言うの? 知り合いなの? 仲良いの?」と。


そうなると、彼女は答えられなくなる。


研究所に行ったことは言えない。彼に会ったことは言えない。彼の前に立つと胸の鼓動が速くなることは言えない。記者たちに「彼は人間で、動物じゃない!」と叫んで彼女が彼の前に立ちはだかったことは言えない。


彼女がしゃがみ込み、彼の肩に触れようとして、最後の一秒で手を引っ込めたことは言えない。


それは秘密だから。


言えない。


彩花は深く息を吸った。


「不機嫌なんかじゃない、」彼女は言った。声はまるで教科書を読んでいるかのように平静だった。「ただ、氷から出てきたばかりの原始人が、フラッシュに驚いて失禁して、世界中に笑いものにされるのって――そんなに面白いことかな、と思っただけ。」


小円は硬直した。


彼女は彩花を見つめ、口がわずかに開いた。その目の中の困惑は、もっと複雑な何かに変わっていた。


「彩花、」彼女の声はとても小さくなった。「あなた……大丈夫?」


「大丈夫だよ。」


「なんか話し方が――」


「なんて?」


「なんか……あの原始人のこと知ってるみたい。」


彩花の心臓が一拍飛んだ。


「知らないよ、」彼女は言った。言葉遣いがいつもよりほんの少し速くなった。「ただ、誰であっても――どんな“人間”であっても――何十ものフラッシュを浴びせられたら、ストレス反応を起こすと思う。彼は化け物じゃない。ただ――」


彼女は言葉を止めた。


ただの何?


ただ彼女の胸の鼓動を速くさせる人?


彼女が毎晩ベッドの上で考えている人?


彼女が触れることさえできない、誰かに見つかるのが怖いから触れない人?


彩花はうつむき、自分の指を見つめた。


「ただ運が悪かっただけ、」彼女は最後に言った。「四万年前に生まれて、氷の中で凍って、それで二十一世紀に目を覚まして、世界中に囲まれて見物されるなんて。」


教室は静かだった。


周りのクラスメートたちはみんな、話したり、ふざけたり、スマホをいじったりしている。誰もこの隅っこの二人の間に漂う微妙な空気に気づいていなかった。


小円は長い間沈黙した。


そして、手を差し伸べて、彩花の手を握った。


「彩花、」彼女は言った。「私、なんであなたがそんなにこのことを気にしてるのかわからない。でも、もし私が言ったことであなたを怒らせたのなら――ごめんね。」


彩花は顔を上げて小円を見た。


小円の目は輝いていて、冗談ではなかった。


「怒ってなんかないよ、」彩花は言った。さっきよりほんの少し柔らかい声で。「ただ――」


彼女はどうやってこの言葉を終わらせればいいかわからなかった。


ただ彼のことが好きなだけ。


世界中が彼を笑っていても、私だけは笑えない。


誰にも言えない、秘密の、片思いの、バカ。


「あなたはただ優しすぎるだけだよ、」小円が代わりに言った。「そうでしょ? 誰かがいじめられてるのを見るのが我慢できないタイプなんだよ。原始人がいじめられてるだけでもイライラしちゃうんだ。」


彩花は小円を見つめ、胸の中に複雑で、言葉にできない感情が湧き上がるのを感じた。


優しい。


もし小円が真実を知ったら、彼女は“優しい”なんて言葉は使わないだろう。


使うとしたら――“頭おかしい”。


「そうだよ、」彩花は言った。「誰かがいじめられてるのを見るのが我慢できないだけ。」


小円は笑い、彩花の手をしっかりと握った。


「はいはい、もう笑わない。あの原始人、確かに可哀想だったよね。氷から掘り出されて、フラッシュに驚いてパンツを汚しちゃって、ネット中に笑われるなんて……私だって参っちゃうわ。」


彩花は彼女を見て、口元がわずかに動いた。


それは笑顔ではなかった。ほんのわずかな、ごく短い弧を描いただけ。口元が上がろうか迷っているけど、結局やめた、そんな感じだった。


「ありがとう、」彩花は言った。


「何に対して?」


「笑うのをやめてくれて……ありがとう。」


小円は首をかしげた。彩花の「ありがとう」の中に、自分には読み取れない何かが隠されているような気がした。でも、それ以上は追求しなかった。


「もういいって、」彼女は彩花の肩をポンと叩いた。「行こう、購買に行くよ。タピオカミルクティーおごる。最近顔色悪すぎるよ、糖分補給しなきゃ。」


彩花は立ち上がり、小円について教室を出た。


入り口に差し掛かったとき、彼女は振り返って自分の席を見た。


机の上には教科書が広げられていた。開いたページは、一字も頭に入っていなかった。


彼女は顔を前に向けて、歩き続けた。


小円は隣で、ミルクティーの新フレーバーとか、タピオカの硬さとか、プリンをトッピングするかどうかとか、ぺちゃくちゃとしゃべっていた。


彩花は「うん」「へえ」「いいね」と相槌を打ちながら、頭の中では別のことを考えていた――


旦棱は今日、何を食べただろう? まだ丸まって縮こまっているだろうか? 隅から出てきただろうか? あの言葉をまた発しただろうか?


ka-ta。


彼が彼女を呼ぶとき、どんな口調だった?


怖がっているとき? 助けを求めるとき? それともただ無意識に音節を発しただけ?


彼女は永遠に知ることができない。


彼は原始人だから、言葉を話せない。


仮に話せたとしても、彼らは四万年分の言語の壁を隔てている。


たとえ言語の壁がなかったとしても――彼女には彼に聞く勇気がない。


だって聞くということは、なぜ気にするのか説明しなければならないから。


なぜ気にするのか説明するということは、秘密を明かすことだから。


秘密を明かせば、すべてが終わる。


彩花は小円から受け取ったタピオカミルクティーを一口吸った。


タピオカはとても甘く、ミルクティーもとても甘く、甘すぎて胸やけがしそうだった。


でも、この甘さが必要だった。


彼女の心の中は、苦さでいっぱいだったから。


4

昼休み、彩花はトイレに行った。


洗面台の前に立ち、鏡の中の自分を見つめた。


確かに顔色が良くなかった。唇は少し乾き、目の下のクマはコンシーラーでも隠しきれていなかった。元々印象の薄い顔立ちが、さらに灰色のベールをかぶせたように見えた。


蛇口をひねり、冷水を両手にすくって顔に叩きつけた。


冷たい水が肌を刺激し、少しだけ目を覚まさせてくれた。


顔を上げて鏡の中の自分を見つめ、言い聞かせる――


あなた、何してるの?


彼のことで悲しんでるの? 彼はあなたが誰かも知らないのに。小円が彼を笑ったことで気にしてるの? 小円はあなたが彼を好きだなんて知らないのに。あなたはここで密かに悲しんで、密かに怒って、密かに胸を痛めて――それが何になるの?


誰も知らない。


誰も見ていない。


あなたの悲しみも、怒りも、胸の痛みも、まるで誰もいない森で倒れた木のようなもの――誰もその音を聞くことはない。


彩花は蛇口を閉め、顔を拭き、深呼吸を一つした。


トイレを出ると、隣の個室から出てきた小円とばったり遭遇した。


「彩花? なんでトイレにそんなに長くいたの?」


「顔を洗ってた。」


「泣いた?」


「泣いてない。」


「目、赤いよ。」


「水が入っただけ。」


小円は彼女を見つめ、追求しなかった。


二人並んで教室へ戻る。


廊下は静かだった。他のクラスの生徒たちはみんな教室で昼食を食べていた。昼休みの日差しが窓から差し込み、床に一枚一枚の光の影を描いていた。


彩花はその光の影を踏みながら歩いた。一枚、一枚、一枚。


「彩花。」


「うん。」


「あの原始人ってさ……会ったことある?」


彩花の足が一瞬止まり、すぐにまた歩き出した。


「ないよ。」


「本当?」


「本当。父さんが実験室に入れさせてくれないんだ。機密だって。」


彩花は顔色一つ変えずに嘘をついた。彼女の鼓動は落ち着いていて、呼吸も正常で、表情も自然だった。


彼女はこの点に関しては、もうずいぶん上手くなっていた。


何しろ、彼女は毎日嘘をついているのだから。


父には「ただ物を届けに来ただけ」と言い。


小円には「ただ人類学に興味があるだけ」と言い。


自分には「ただ新鮮さに浮かされているだけ、二日もすれば治まる」と言う。


彼女はすでにたくさんの嘘をついてきた。


あまりにもたくさん嘘をついて、自分でもどれが本当でどれが嘘なのか、もはや区別がつかなくなっていた。


「だよね、」小円はうなずいた。「ああいうレベルの発見だもんね、そう簡単に誰でも入れさせられるわけないか。お父さんは正しいよ。」


「うん。」


「でも、気にならないの?」小円は彼女を見た。「お父さんが掘り出した原始人だよ! 生きてるんだよ! 見に行きたいと思わない?」


彩花の鼓動が少しだけ速くなった。


少しだけ。


「別に、」彼女は言った。「所詮は原始人でしょ。何が面白いの。」


小円は「ちっ」と舌打ちをした。


「彩花、本当に冷たいね。原始人にも冷たいし、山田君にも冷たいし、世界の全てに冷たい。一体何に情熱を感じるの?」


何に情熱を感じるの?


四万年前の、琥珀色の瞳に。


永遠に自分を見ることのない、虫を食べる原始人に。


誰にも言えない、馬鹿げた、笑える秘密に。


「何にも、」彩花は言った。「私、何にも情熱なんてない。」


小円はため息をつき、彼女の腕を組んだ。


「その性格じゃ、将来どうやって恋愛するのよ。」


彩花は何も言わなかった。


彼女はもう恋愛していた。


世界中で一番笑える方法で。


5

放課後、彩花は研究所に行かなかった。


校門の前に立ち、研究所方面へのバス停を長い間見つめていた。


電車が来て、また行ってしまった。


彼女は乗らなかった。


くるりと向きを変え、家の方へ歩き出した。


自分に言い聞かせる:今日は行かない。昨日行ったばかりだ。また今日行くのは、頻繁すぎる。父に怪しまれる。佐藤博士にも怪しまれる。皆に怪しまれる。


秘密は秘密である限り、言ってはいけない、やってはいけない、誰にも気づかれてはいけない。


彼女は家に向かって歩いていた。鞄には教科書とノートが入っている。その歩みはとても遅く、普段の倍近くの時間をかけていた。夕日が彼女の影を長く伸ばし、歩道を這うように引きずっていた。まるで家に帰りたがらない幽霊のようだった。


コンビニに差し掛かったとき、彼女は立ち止まり、コオロギのおやつを一箱買った。


――タイから輸入された、揚げて味付けしたやつだ。先月ネットで見かけて、その時は気持ち悪いと思ったけど、それでもカートに入れたのだ。


自分でもなぜ買ったのかわからなかった。


もしかしたら……彼が好きかもしれないと思って?


彩花はコオロギのおやつを鞄の一番下に押し込み、教科書で覆った。


そして歩き続けた。


三歩歩いて、また立ち止まった。


道端にしゃがみ込み、コオロギのおやつを鞄から取り出し、サイドポケットに押し込んだ。またサイドポケットから取り出し、ファスナー付きのポケットに押し込んだ。またそこから取り出し、手のひらに握りしめた。


何をしているんだ?


何をしているんだ?!


なんで旦棱におやつなんか買っているんだ? 研究所には行かないんだ。今日は行かないって決めたんだ。じゃあ何のために買った? 鞄の中でカビさせるつもりか?


彩花はそのコオロギのおやつを握りしめ、コンビニの入り口に立ちすくんだ。まるで迷子になった小さな子供のように。


通りすがりの人が彼女を一瞥し、すぐに視線を外した。


彼女は深呼吸を一つして、コオロギのおやつを鞄に押し込み、チャックを閉め、歩き続けた。


家の前に着くと、彼女は立ち止まり、玄関の外で中に入らなかった。


ドアノブには鍵がかけられていた――父が朝出かけるときに施錠したものだ。彼女は自分の鍵を持っている。鍵穴に差し込み、回すとドアが開いた。


中に入り、靴を履き替え、二階へ上がり、部屋に入り、鞄をベッドに放り投げた。


コオロギのおやつが鞄の中で「カラッ」と音を立てた。


彩花はベッドに横になり、天井を見つめた。


天井のあのひび割れはまだある。照明の口金から壁の隅まで伸びている。干上がった川の跡のようだった。


彼女はそのひび割れを見つめながら、旦棱の胸の傷跡を思い出した。


鎖骨から肋骨まで。


このひび割れより長い。


このひび割れより深い。


彩花は目を閉じ、自分の胸に手を当てた。


鼓動。


ドキドキドキドキドキ。


異常に速い。


泣きたくなるほど速い。


彼女は寝返りを打ち、顔を枕に押し付けて、声を詰まらせて一言言った。


とても小さな声だった。小さすぎて、自分さえもほとんど聞こえないほどだった。


「会いたいよ。」


言った後、彼女は固まった。


彼に会いたい?


B2実験室の隅っこに座っている、四万年前の、虫を食べる原始人に?


彼の何に会いたい? あの琥珀色の瞳? あの胸筋? 無表情でコオロギを食べる姿? 彼が彼女の髪からフケをつまみ上げて口に入れたあの仕草?


彼に会いたい。


本当に彼に会いたい。


彩花は顔を枕に押し付けたまま、長い間沈んでいた。


そして起き上がり、スマホを手に取り、あのメモアプリを開いた。


タイトルはあの一字のまま。


「彼」


その下に文字を打ち込んだ。


「小円が笑ってた。ネット中が笑ってる。彼らは彼を化け物だと言い、ゴリラだと言い、脱糞した様子が面白いと言う。私は笑えない。」


「彼のことは知らないって言った。小円に嘘をついた。毎日誰かに嘘をついている。父にも、小円にも、みんなにも。自分には『ただ新鮮さに浮かされているだけ』って言い聞かせている。でももう一週間近く経つのに、胸の鼓動はまだ速いまま。」


「今日は研究所に行かなかった。何度も行きすぎてバレるのが怖かったから。でも彼にコオロギのおやつを買ってしまった。鞄に入れたまま、渡せずにいる。」


「彼に会いたい。B2の地下に座っている原始人に会いたい。彼は私が誰か知らない。私の名前さえ知らない。私の頭に塩分があるかもしれないことだけを知っている。」


「世界中が彼を笑っても、私は笑えない。」


「でももし世界中が私が彼を好きだって知ったら――世界中が私も笑うだろう。」


「だから私はここに文字を打つだけ。誰も見ていないこのメモ帳に、誰も知る必要のないことを書き留める。」


「これは秘密。」


「私だけの秘密。」


これらの文字を打ち終え、彼女は長い間画面を見つめた。


そしてスマホを閉じ、ベッドに横になり、目を閉じた。


暗闇の中で、自分に言い聞かせた。


明日、研究所に行こう。


コオロギのおやつを彼に渡そう。


それから戻ってこよう。


そして何事にも情熱がない、冷淡な、普通の旦羅彩花を続けよう。


この秘密を守り続けよう。


永遠に。


第四話・終

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