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千年の氷層から来た君~現代少女がまさか古代原人に一目惚れ!?!?  作者: Holandes


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最終話:さよなら、私の原始人彼氏

1

土曜日の午前五時、彩花は研究所に忍び込んだ。


暗がりで旦棱の前にしゃがみ込み、彼に手を差し伸べた。


「一緒に来て」と言った。「私が面倒を見るから」


旦棱は彼女の手を長い間見つめていた。そして、自分の手を引っ込め、うつむいた。


彼は彼女と一緒に行かなかった。


彩花は彼の隣に座り、それ以上何も言わなかった。ただそこに座り、彼から一米足らずの距離で、暗闇の中で彼の呼吸を聞いていた。


それで十分だった。それで十分だ。


2

七時過ぎ、父親がやって来た。


彩花と彼女のリュックを見て、全てを理解した。顔色が真っ青になった。


「あいつを連れて行くつもりか?」声が震えていた。「正気か、お前は?」


「正気だよ」彩花は言った。「ただ、ここにあいつを置いておきたくないだけ」


「あいつは研究対象だ——」


「あいつは人間だ! 縮こまって震えるし、おもらしだってするし、笑われてるんだ! あんたは見てたろ!」


「彩花」父親の声が急に低くなった。「お前……あいつのこと、好きなのか?」


沈黙。


「そうだよ」彩花は言った。「好きなんだ」


「あいつは原始人だ」


「知ってる」


「あいつはお前に応えたりしないぞ」


「知ってる」


父親は長い間彼女を見つめていた。そして、実験室を出て行き、携帯電話を取り出した。


「もしもし、110番ですか? B2実験室で人質立てこもり事件が発生しています……原始人が私の娘を——」


彩花が飛び出した時には、もう電話は切られていた。


「あいつは私を人質になんてしてない!」


「彩花、お前を壊したくないんだ」


3

八時二十分、廊下は警察官で埋め尽くされていた。


彩花は旦棱のそばに戻った。彼の体は強張り、喉の奥から低い唸り声が漏れている。


彩花は彼の腕に手を置いた。


彼はうつむき、彼女の小さく白い手を見つめた。


振り払わなかった。


「私の名前は旦羅彩花、十七歳」彼女はそっとささやいた。「私が好きな人は、四万年前から来た、言葉が話せない、虫を食べる原始人です」


彼女は笑った。


ひどく不格好な笑顔だった。


「分からないよね、あんたには。何も分かってない」


旦棱には彼女の言葉は理解できなかった。しかし、彼女の声に含まれたものを聞き取った——それは泣き声だった。泣くことに翻訳はいらない。


彼は手を上げた。ゆっくりと、彼女の頭の上に置いた。


手のひらは大きく、彼女の頭のてっぺんをすっかり覆っていた。


虫をつまんだりはしなかった。


ただ、そこに手を置いた。


——私はここにいるよ、と言っているかのように。


彩花の涙がこぼれた。


待っていた。


でも、これが最後だった。


4

ドアが蹴破られた。


懐中電灯の強い光が差し込み、彩花は反射的に手をかざして目を覆った。


旦棱が地面から跳ね起き、彼女の前に立ちはだかった。


裸の背中を彼女に向け、両腕を広げて。


まるで壁のように。


「撃たないで!」


「バンッ」


彼の体が大きく揺れた。腕は下ろさなかった。


「バンッ」


二発目。


彼の膝が折れた。しかし、彼は振り向き、彩花を見た。


琥珀色の瞳。


そこには戸惑いがあった——なぜ体が言うことを聞かないのか、胸から血を流しているあの何かは何なのか、理解できなかった。


彼は彼女を見つめた。


長い間。


どれよりも長く。


そして、彼の唇が動いた。


「か——った」


「かーった」。喉の奥で詰まった、出てきそうで出てこない音があった。


彼は彼女の名前を呼んでいた。


彼は彼女を呼んでいた。


初日から、彼は彼女の名前を覚えようとしていた。三ヶ月間。彼の喉の構造では、現代人の言葉を発音することはできない。


それでも彼は試した。


ずっと試し続けていた。


彩花は手を差し伸べ、彼を受け止めようとした。


しかし彼は倒れ込んだ。山が崩れるように。


彼女は彼の傍らにひざまずき、彼の背中に手を置いた。血が彼女の指に付いた。温かい。


「旦棱」彼女は彼の名前を呼んだ。「旦棱」


彼は応えなかった。


その目は閉じられた。


琥珀色の虹彩は、もう二度と見ることはない。


5

その後のことは、彩花はあまり覚えていない。


誰かが彼女を地面から引き起こした。誰かが毛布を掛けてくれた。父親が彼女の前にしゃがみ込み、彼女の手を握りしめて何かを言っていた。口が開いたり閉じたりしている。目は赤かった。


彼女はうつむき、自分の靴の先に付いた血を見た。


血は乾いていた。濃い茶色になっていた。


彼の肌の色のように。彼の目の色のように。


三ヶ月後。


彩花は研究所裏の丘に立っていた。父親が石を立てていた。名前はなく、一行だけ刻まれていた。


「四万年前より来たりし者、四万年后に去りぬ」


彼女は三行の言葉を書いた紙を石の前に置いた——「一緒に来て」「私が面倒を見るから」「怖がらなくていい」。


そして、丘を下り始めた。


振り返らなかった。


振り返っても彼が見えないことを知っていたから。


彼は来た。彼は彼女の名前を呼んだ。彼は彼女の前に立ちはだかった。そして彼は倒れた。


それが全ての物語だ。


誰も知らない、馬鹿げた、胸が張り裂けるような——秘密。


【終】

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