面影
一体全体今までのやり取りのどこに怒る要素があったと言うのだろうか
この先輩の沸点が理解出来ない・・・
「・・・最後まで書かれていない・・・
へー、そうなんですか。でもおかしいですねー、続編の発売予定なんて聞いた事ないですけど。」
決してこの先輩の迫力に圧倒されてしまったからといってムキになっているわけではない。
出会ってから初めて大きく見開かれた双眼に睨まれたからといってビビってなど絶対にいない。
「茶化すのは止めるんだ!
英雄はまだ負けてない!世界の創世紀から続く戦いはまだ終わってないんだよ」
「終わってないってどう言う事ですか?英雄は4000年前の人物ですよ。
負けてないも何もとっくに死んでるでしょう、その人」
「・・・・・・まぁ、そうだね」
先輩は頭に上った血がまだ引かないのか、肩で息をしているが渋々と言った様子で俺の言葉を肯定した。
英雄は死に、人類は敗北した。
この時代になって尚、その現実を受け入れられない英雄信者というものが存在する。
英雄を信仰し、その偉業を讃え、負けたりなどしていないのだと言い張る。4000年前の敗北は局所的なものに過ぎず、戦いはまだ続いているのだと。
つくづく哀れなものだ・・・
魔王に傅くことを許容出来なかった人々
・・・それもこれも4000年前の英雄のせいだ
彼が人々に夢を見せなければこうも哀れな羊が、やがて絶望に号くことも無かっただろう・・・
「・・・今日はもう解散にしよう」
先輩は一言そう言うと俺と目を合わせようともせず、そそくさと部屋から出て行った。
なんだったと言うのだろう。
しかしまずい事になった、この学園には俺を受け入れてくれる研究会など他には無いだろうから、是が非でもココに入会させてもらわなければならなかったのだが、どうやらいきなり先輩を怒らせてしまったようだ。
(非常に気は進まないが、ソーマでも誘ってみようか・・・)
英雄信者というのは、得てして予言の勇者も特別視する傾向にあると聞いたことがある
それであるならば、ソーマを連れてきたら機嫌を治してくれるのでは無いだろうか
だがそれには大きな問題がある・・・
俺がソーマに話しかけたく無い!
うむ、しかしこれは大きな問題が立ち塞がったものだ
ソーマに頭を下げに行くなどとは屈辱の極致!
それにどんな見返りを要求されるか分かったものでは無い。
仕方がないなこれは、うん、この案は却下だ。
とうわけで思い浮かんだ唯一の案は即刻却下となった
しかしどんなに頭を捻ってみても他にマシな案が出るわけもなく、しょうが無いので後日菓子折りを持って謝りに来る事にした。
そんなこんなでどうにか入れる研究会の目星をつけた俺は昨日よりは多少なりとも軽やかな足取りで家路についた。
(今日も今日とて色々あったが、なんだかんだ言いつつ学園生活にも馴染んできたでは無いか〜、ムフフ〜)
などと鼻歌交じりのステップを決め込み、家路を急いでいた俺は唐突にある事に思い至ってしまう・・・
あれ?
冷静に考えたら、解決した問題より山積した問題の方が圧倒的にやばく無いか?
よくよく考えればそうだ、入れそうな研究会はなんとか見つかったがそこの先輩は知らぬ間に怒らせてしまったし、学園での俺の悪評は広まる一方だし、授業にはしょっぱなから付いていけてないし、遠征授業の件もある・・・
やばい、これはやばい、どのくらいやばいかというと、学園を退学さえしてしまえば全部一気に解決してしまうぐらいにやばい
などと今日1日、目を逸らし続けた難題たちを思わず直視してしまい、焦り始めたリクトに近づいて来る1つの影があった
その影は1つ手前の曲がり角で止まるとそこからリクトをじーっと見ていた
その視線はまるで懐かしむかのように
恩師との久方ぶりの再会であるかのように
想い人にようやく再会できた恋人のように
その眼に映る小柄な少年は・・・
今もかつての面影を残していた




