創世記
世界の始まりの日、
全能者は空に太陽を浮かべた。陽の光は生まれて来た命を育てるのに必要だとおっしゃられた。
月の輝いた日、
全能者は星に生命を育む母胎として水をもたらした。水は星を覆いやがて海となった。
火の灯った日、
全能者は大地を隆起し、大陸をお創りになられた。
水が流れとなった日、
全能者は命をお創りになった。初めは小かった灯火が、様々に燃え移り、世界に10の動物を生んだ。
木の茂った日、
全能者は10の動物に知恵を与えた。生き延びるための力を授かった彼等は、子を成し、その数を増やした。
黄金が煌めいた日、
全能者は11人の自らの子を生み、動物たちの管理者とした。
陽の巡った日、
全能者の子のうちの一人が言い出した
「この世界に神は必要だろうか」
全能者は神を気取ったつもりなどなかった。
ただ自分の創る世界に美しいものであって欲しかっただけだった。
創り上げられた世界の美しさにその子は嫉妬し、神の如く振る舞う父に牙を剥いた。
その子の言葉に5人の子らが続いた。
全能者は憤慨し、6人の子から管理者としての力を奪った。
地に落とされた6人の子は父からこの美しき世界を簒奪せんとして外法の術に手を出した。
父の創りしこの美しき世界を歪めてしまうその術で6人の子らは全能者と戦った。
初めの戦いで6人の子らは世界に嫉妬と憤怒を齎した
次の戦いで6人の子らは世界に怠惰と強欲を齎した
最後の戦いで6人の子らは世界に色欲と暴食を齎した
美しかった世界は見る影も無くなり、10の動物たちは”人間”へと成り果てた。
さらに6人の子らは世界に”終わり”を振り撒こうとした。
しかし、全能者はその命と引き替えにそれを食い止め、世界は安定を失った。
次に6人の子らは、最後まで全能者の元に残っていた子達を滅ぼす為に、人間達に外法の術を授け自らの兵とした。
人間達は全能者の元に残った子らを”天子”と呼び、言われるがままに彼等と戦った。
幾度かの戦いの後、始まりの賢者と呼ばれる人間は言った
「神の子らとではなく、神を殺した子らと戦うべきではないのか」と。
人間達は知恵を授かった神を思い出し、彼を偲んで哭いた。
人間達は、6人の子らに牙を剥き、彼等を”悪魔”と呼んだ
しかし悪魔達はあまりに恐ろしく、あまりに冷たかった。
人間達はただ殺された。
立ち向かうすべなど持たないかのように
1000年が過ぎ、人間達は数を減らした
このままでは人間という種が滅ぼされてしまう
そう思った時、1人の人間が立ち上がった。
彼は他の人間達とは比べ物にならぬほど外法の術に精通していた。
彼は人間達を導き、”英雄”と呼ばれた
しかし彼の力を持ってしても6人の子らにはおよばなかった。
英雄は英雄たり得なかった
そうして美しき世界を欲した6人の子らは、醜い世界を手に入れたのだった。
読み終わると糸目先輩はパタンッと本を閉じて、さも感想を求めるかのような顔でこちらに向き直った。
いや、そんな顔をされても・・・
ごくごく一般に知られている神話をただ朗読しただけであるのに、感想などあったものではない
「感想は?」
「いや・・・ 無いですけど・・・ そんなみんな知ってる御伽噺を大仰に語られても・・・」
「みんな知ってる?本当にそうかい?君はこの世界の創世記を聞いたことがあったのかな?」
「それはあるでしょう、子供の頃に皆絵本かなんかで読むんじゃないんですかね」
「本当に聞いたことがあるのかい?この話を?」
「まぁ、正確には俺の聞いたことのある話では”6人の子ら”が”7人の子ら”でしたけど」
「だろうね・・・君が聞いた事があるのは御伽噺であって、僕が話したのは創世記だからね」
「創世記?」
「そうだよ、この世界の始まりの物語。真実の物語さ」
「いや、6人と7人の違いだけじゃないですか?」
俺が大差ないことではないのかという疑問をぶつけたところで、それまで笑顔を崩さなかった先輩の雰囲気が大きく変わる
「ことはそう簡単ではないんだ!これは4000年前の大英雄”アルキメデス”とティアナディアにも関係することなんだから」
随分と鬼気迫る様子で声を荒げた糸目先輩は、本を机に叩きつけこちらに大股でにじり寄ってきた。
その迫力に思わず身を引いてしまい、部屋の隅にあった棚に思いっきり腰のあたりを打ち付け、ガタッという大きな音を鳴らしながら派手に尻餅をついてしまった。
「え、英雄?・・・英雄なんて最後の方にちょろっとしか出てこないじゃないですか。」
「それはこの話が神話ではなく創世記だからさ!」
少し怒ったような口調で乱暴に言い切る糸目先輩
「神話ではなく、創世記?それはどう違っているんですか?」
「完成された神話ではなく、完結していない創世記。つまり、」
「つまり・・・?」
「つまりこの話はまだ最後まで書かれてはいないんだよ」




