担任
無事に終わったとは言い難いが、まぁなんとか入学式も終わりリクトたちはそれぞれの教室に集まっていた。トリップしていた同級生たちはなんだかんだで正気に戻っていた。
自分の席について辺りを見回したリクトは絶望に包まれた。なんとリクトが最もクラスメイトになりたくないと思っていた2人が同じクラスだったのだ。
ソーマ・エリンバラとエリナ・グライトノートの2人だ。リクトはこの2人とは腐れ縁で幼い頃より仲良くしているのである。まぁ、正確には仲良くしていたといった方がよいのだが。魔法の使えないリクトと優秀すぎる2人は成長するにつれて立場の違いが顕著になっていった。誰からも期待されないリクトと王子兼魔王を殺す勇者のソーマ、この国の魔導師の頂点である光道12星魔導師団に史上最年少で入団したエリナ。もはや比べるまでもないほどに3人は釣り合いが取れていない。
生徒たちが教室に入ってきてまだ3分も経っていないのに、ソーマとエリナの周りにはほとんどのクラスメイトが集まっていた。いや、クラスメイトだけかと思っていたら他のクラスの生徒たちも野次馬のごとく勝手に教室に入ってきて2人に群がっている。
ここで絶賛、注目を浴びまくっている2人について詳しく説明しておこう。
ソーマ・エリンバラ、この国を治めるエリンバラ王家の長男であり、魔王を殺す預言の子としても有名である。どのくらい有名かというと予言の勇者ソーマ・エリンバラを讃える宗教ができてしまうほどに。
というか魔王を殺した勇者を崇めるなら何も不思議はないが、予言を受けて生まれてきただけでまだ何もなしていないソーマを崇めると言うのはどうなのだろうか?予言が外れて魔王を殺さなかったら一体どうするつもりなのか。
まぁ、それはともかくソーマは予言の勇者にふさわしい活躍を今のところは見せている。
勇者として英才教育を施されたソーマは、物心がつく頃には剣術の修行を開始しており、国1番と言われる剣術の使い手である王国騎士団団長クロフォードに1日も欠かさず稽古をつけてもらっていた。その甲斐あってか、彼の剣術は7歳を迎える頃には同世代に敵がいなくなり、10歳を超えた頃には騎士団員たちと渡り合えるようになり、第二次性徴を迎え体がある程度出来上がってきた14歳頃にはクロフォードと引き分けるまでになっていた。
その実力が認められ12歳になる頃より騎士団の魔獣討伐遠征に参加することを認められており、13歳の時に翼竜種の単独撃破を成し遂げたほどである。本来ワイバーンとは、1流と言われるレベル4〜6の騎士や魔導師や冒険者が通常のパーティ単位である4人1組で挑んで倒す相手である。
しかし、レベル7のクロフォードに鍛えられているソーマにとっては油断こそできなかったが、十分に1人倒すことのできる相手だった。その話は王国内のみならず、世界中に伝えられ勇者の預言の信憑性を高めたのである。
ワイバーンの単独撃破だけでも逸話としては十分だったが、ソーマ・エリンバラの才能は戦闘だけに収まるものではなかった。国中の著名な賢人たちを家庭教師につけられていた彼は10歳にして大学までの学問を修了し、それからは城に日々、著名な研究者を招いては魔導の研究に明け暮れていた。12歳の時に発表した魔導回路基板の魔力変換効率の上昇に関する論文は学会で認められ、すでに一般化までしている。
要するにこの男は、文武両道を極めて高い次元で両立させている規格外の天才である。そこまでスペックが高いのに、高身長で容姿もこの上なく整っており、しかも王子であることを鼻にかけず誰にでも平等に接すると言う周りの男が引き立て役にしかならないような、半分冗談みたいな存在である。
異性にモテるのは当然として、同性からは比較を恐れて敬遠されがちかと思いきや、むしろ男からの人気の方が高いと言う人気者っぷり。
曰く、目指すべき理想の男性像なので近くから観察したいのだとか。女子人気の方が負けている理由としては、ソーマを狙っている女性が多すぎて(貴族のご令嬢なども含まれる)、勝ち目がないと思った女子たちが自分から離れていくんだとか。もちろんソーマを嫌いになるとかはあるはずもなく陰ながら応援すると言うポジションにつくようだ。
萌え要素全部のせヒロインならぬ、モテ要素全部のせヒーローである。
もう一人のエリナ・グライトノートもソーマに負けず劣らずの規格外である。
彼女はこの国の最高意思決定機関である光道12星魔導師団の一員である。光道12星魔導師団はその名の通り、この国で最も優秀な12人の魔導師によって構成される魔導師団であって、宮廷魔導師団や王国騎士団の上位に位置する団体である。
この国には国王がいるが、国王は権力を持ってはいるもののお飾りにすぎず、実際に国を動かしているのは光道12星魔導師団である。いわゆるエリナはこの国の最高権力者の1人なのである。
国中の魔導の権威たちが目指す光道12星魔導師団に13歳と言う史上最年少で入団し、癒しを司る牡羊座の称号を得たエリナは国内最高の治癒術師であり、彼女に治せない病気はないとまで言われているのである。彼女もソーマ同様に学会に、治癒魔術関連の論文をいくつも発表しており、画期的な論文として大変高い評価をいけており、そのいくつかが実用化されている。彼女一人で治癒魔術の歴史を10年は進めたと言われており、もう規格外としか言いようのない状況である。
ここまで言えば、なぜリクトがこの2人と関わり合いになりたくないかがご理解いただけただろう。さらに前述した通り、この2人はリクトの古くからの友であり、リクトが2人に関わり合いになりたくないと言う思いが全くもって届いていないようで、何かと言うとリクトの世話を焼こうとしてくるのである。2人にとってリクトは今でも手のかかる弟のような存在であった。これはリクトの身長が130センチと年齢の割にだいぶ低く、さらに身長の低さも相まって顔立ちも幼さが抜けきらない中性的な感じで、まぁなんと言うか、2人はリクトが可愛くてしょうがないのである。
リクトにしてみればいい迷惑で、この2人が絡んでくればくるほど周囲から白い目を向けられる。魔法を使えない落ちこぼれが圧倒的なカリスマである2人と一緒にいると言うのは、周りの者からすれば面白くないだろう。
(新学期早々ついてないな、2人のうちどちらかでも一緒のクラスになったら最悪と言えるのに、なんで2人もいるんだ・・・。クラスわけのバランス考えろよ。いや、バランスを考えたからこそ俺が一緒のクラスなのか・・・。1位と2位がいれば最下位の穴を埋められると言う考えなのか?)
リクトは一人で自暴自棄になりながら、こいつら早くいなくならないかなーと思いつつ、他クラスから集まってきた野次馬たちを眺めていた。
しばらくすると、担任と思しき40代ぐらいの男がクラスに入ってきた。その男は満足げな様子で輪の中心にいるソーマとエリナを一瞥すると、全員に着席するように促した。
「皆、席に着きたまえ。私がこのクラスの担任になったザバス・ワグナーだ。これから1年間、この私が蒙昧な君たちに
魔導の深淵に至るための術を教えていくわけだが・・・。
始めに言っておく、私は授業についてこられない落ちこぼれにいちいち構ったりはしない。
1部の才あるものの時間を、未熟者のために浪費することを私は良しとしない。せいぜい取り残されないように研鑽に励みたまえ。以上だ。」
つまりこいつはこう言いたいわけだ、リクト・マグナウォーカーをつまはじきにすると・・・
彼の言い方だとソーマとエリナを基準に授業の進度を調整すると言っているかのように聞こえるが、グリモア学園の教師をしている以上、彼は教育者として1流なのだろう。
ならばソーマとエリナは規格外であることを十二分に理解していることだろう。なら何故このような言い方をしたのか、それは差別を差別と思わせないためだ。
彼は栄光ある学園にコネ入学してきたリクトが許せないのだろう。
故に、口ではついてこれないものを切り捨てるというようなことを言っておけば、魔法を使えなリクトを大っぴらに差別できるし、他の生徒がつまずいた時は、裏で他の教師に救援を頼むのだろう。
そうすれば、彼が助けたことにはならないから、リクトだけをつまはじきにできる。
教師という体面がある以上、リクトだけを大っぴらには差別できないが、優秀な生徒を集中的に育てる方針だと言ってしまえば、最高の魔導師を育てることを目的としたグリモア学園では教育方針の一環として認められる。ついてこられない生徒を他の教師がサポートすれば、ワグナーは自分の教育方針を貫いたままでリクトだけ差別できる。他の教師に「何故リクトだけ放っておくんだ」と言っても、「そこまで余裕がない。」と言われればそれまでだろう。
リクト以外の生徒が助けを求めにきたら、助言を授ける。リクトが助けを求めにきたら、手が空いていないという。
(もーぅ、入学初日から嫌われすぎじゃね?そんなに俺が嫌いなら入学させなきゃいいのに。しかも差別が教師ぐるみ・・・この学園、実は人格破綻者しかいないだろう・・・。ったく、もう退学しよっかなー)
リクトが自分への差別が、生徒だけによるものではなく、教師まで一緒になっているという事実にうんざりしていると、いつに間にかホームルームが終了していた。




