入学式と生徒会長
それから十五年の月日が経ち、ソーマ・エリンバラは15歳になっていた。王族である彼は王子として、そして勇者としても期待を受け、それはそれは大切に育てられた。勇者として途轍もない潜在能力を秘める彼は、常に周囲の期待以上の結果を出し続け、それがさらに周囲の期待を引き上げた。そして同世代の中でもずば抜けて優秀な彼は国内最高峰と言われるグリモア学園に入学することとなった。
そして今日は「王国立グリモワール魔法師育成学園」、通称「グリモア学園」の入学式。
入学者の一人であるリクト・マグナウォーカーはとてつもなく重い足取りで憂鬱な気分の中、グリモア学園の校門の前に立っていた。
(はぁ・・・、何故俺が・・・)
国内で最も力を持つと言われる貴族のマグナウォーカー家に産まれながら、魔法の才能を一切持たなかったリクトは本来、魔法師ですらなかった。しかし、有名貴族の長男が魔法師の道を歩まないなど許されるはずがなく、家の権力で国内最高峰のグリモア学園に無理やり入学させられてしまった。
しかも、マグナウォーカー家の跡取り息子が魔法の才能を持たないことは秘匿事項ではあったが、そんなことはリクト本人を知っているものならば誰でも知っていた。故に、それらの人物たちから噂が広まり、グリモワ学園の入学を志すものたちには、みんなに伝わっていたのだ。
<グリモワ学園史上初めて、魔法を使えない無能が入学してくる。しかもそいつは、あのマグナウォーカー家の一人息子で、家の力だけで入学を強行した身の程知らずだ>と・・・
確かにマグナウォーカー家の権力があれば、グリモア学園への入学すらも容易いだろうが、本人に力がなければ卒業すらもままならず、惨めな思いをするだけだとみんな思っていた。だから身の程知らずなどとひどい言われようをしているのだが、リクトにはそれがとても不服だった。そもそもリクトは入学を望んでなどいないのだ。マグナウォーカー家現当主である父に無理やり入学させられたのである。
(そもそも何故、まだ入学してもいない学園で俺の噂が広まっているんだ?それも悪い噂が・・・)
先ほどからリクトを見た周りの生徒たちが、ひそひそと話しているのが聞こえる。
「おい、あれじゃないか?例の落ちこぼれ」
「お、マジじゃん!マジで入学してきたのかよ。貴族ってすげ〜」
「だよね〜、魔法が使えなくてもグリモア学園に入学できるんだもん。あー、私も貴族に生まれたかった」
「いや、せっかく貴族に生まれても魔法が使えなきゃ意味ねーだろ。普通に生きていくのすら不便だろうし、その上グリモア学園に入学とか序列最下位決定じゃん。自分から入ってくるあたり、まじで頭が悪いとかいうレベルじゃねーよ」
思わずため息が出てしまう。そう、この学園には学内序列制度というものがあるのだ。成績や功績、さらには潜在能力にまで点数をつけ、ランキング形式にて発表される。たいていの生徒にはあまり興味を惹かれるものではないが、成績トップ陣や名門貴族の出の生徒たちはとても重要視している。何故なら、序列1位のものが生徒会長に指名されるからである。生徒会長の座につけるのは学園で一人のみ、そしてそれは国内トップのグリモア学園の頂点、つまり同世代最強の魔法師であることを意味する。グリモア学園の生徒会長になったものは、卒業後、推薦で王立魔導科大学に入学でき、大学卒業後は宮廷魔導師団からスカウトまでされるという、勝ち組の中の勝ち組の人生を歩むことができるのだ。貴族の生まれでない生徒にとっては人生一発逆転のチャンスであり、貴族の生まれの生徒にとっては「同世代最強」の称号は家督争いを有利に進めるために喉から手が出るほど欲しいものであった。それに万が一家督争いに敗れたとしても、宮廷魔導師団に入れれば上々の人生を送れるし、師団内で出世しようものなら下手な貴族よりも大きな権力を持つことになるのだ。そして、序列1位を目指すもの以外にも序列を気にしなければならない者がいる。最下位争いをする生徒たちである。序列最下位になったものには「ワースト1」の称号(汚名)が与えられ、学校中の生徒や教師から差別に近い扱いを受けることとなる。さらに国内最高峰であるグリモア学園には無料で利用できるレストランや本屋、娯楽施設などがあるが、序列最下位のものは有料となってしまう。本来ならば、序列最下位に落ちてしまった生徒にやる気を出させるための制度だったのだが、魔法の才能を持たないリクトは卒業まで最下位が約束されたようなものである。しかしそれだけなら裕福な家の出であるリクトには痛くも痒くもなかったが、貴族出身者が最下位に落ちた時の対策として、強制奉仕活動というものがあるのだ。金に余裕があっても奉仕活動を強制されれば、最下位脱出のための努力をするだろう。リクトにはそれが憂鬱で仕方がなかった。序列最下位の汚名と強制奉仕活動、お先真っ暗の学生生活が手に取るように予想できた。
(なんとかして入学をなかったことにはできないだろうか?いや、無理だな・・・できたらとっくにやってる・・・)
いつまでも悩んでいても仕方がないので、しぶしぶではあるが、リクトは入学式の会場に向かうべく敷地内に足を踏み入れた。
ーグリモア学園大魔法修練場ー
入学式に参加するため新入生たちが着席していた。
まもなくして教師の一人が壇上に上がり開会の宣言を始める。白毛に染まってはいるが鍛え上げられた体をした壮年の男性だ。まさに鋼の肉体と表現するにふさわしいだろう。魔法師や教師ではなく騎士と言われた方がしっくりくるような体躯だ。
「新入生の諸君、入学おめでとう。私が学園長のメーブだ。諸君は本日より我が国の将来を担う魔法師になるべく、辛く苦しい鍛錬に励むこととなるだろう。しかし、それこそが諸君が期待を寄せられている証しでもあり、卒業の先に待っているのは栄光だ。諸君の努力はそのまま国力の増大につながるといっても過言ではない。故に、諸君には少しでも高い目標を掲げてもらい、それに向かって邁進してもらいたい。諸君の頑張りを期待している。私からの話は以上だ。」
教師だと思っていたら学園長だったらしい・・・
学園長の威厳の溢れすぎる挨拶の後、諸々の祝辞などを聞かされ、次は生徒会長挨拶だ。
新入生たちが一斉にざわつき始める。それもそのはず、学園最強が拝めるのだ。成績を諦めているリクトですらそわそわしてしまう。
壇上に上がってきたのは、麗しいとしか表現のしようがない女生徒だった。歩く姿は気品に溢れており、ただそこにいるだけで周囲のものを萎縮させてしまいそうな、そんな雰囲気の美しい女性。貴族というより天使と表現した方がその可憐さを表現するのにはふさわしいだろう。
流石にそれは言い過ぎだと知っているが、現に先ほどまでざわついていた新入生たちは男女ともに生徒会長に見とれてしまい、口を開けて間抜け面で惚けていた。
(生徒会長って女だったのか・・・男だと思ってた・・・てゆーかアダム・アーガイルって聞いたら普通男だと思うよな?)
新入生たちが生徒会長に見とれている間、リサーチ不足だったリクトは心の中で生徒会長の名前につっこんでいた。
ただ登壇しただけでリクト以外の新入生全員を魅了した生徒会長は計算され尽くされたかのような優雅な動作でマイクの前に立ち挨拶を始めた。
「新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。私は生徒会長のアダム・アーガイルです。よく名前で勘違いされるのですが、ちゃんとした女性ですよ!家名でわかる方もいらっしゃるかもしれませんが、名門アーガイル家の長女で、こう見えても貴族なんですよ?みなさんは入学したばかりで不安かもしれませんが、私でよければいつでも力になりますから、困ったことがあったら相談してくださいね!長くなってもあれなので私の挨拶はこの辺にしておきます。ご静聴ありがとうございました。」
生徒会長の挨拶も学園長同様なかなか短かったが、彼女の美貌を見慣れていない新入生たちをトリップさせるには十分だったようだ。みんな薬でも打ったかのような恍惚の表情で彼女の挨拶の余韻を楽しんでいた。
「あぁ、なぜあんなにも美しい方がいらっしゃるのだろう・・・」
「こう見えても貴族って、貴族のご令嬢じゃなければ何に見えていると思っているんだ?天使か?女神か?妖精か?」
「お姉様・・・・お姉様になら抱かれたい・・・」
「この世の美の頂点を見てしまった・・・・・」
取り返しがつかなくなってるやつもいるようだが、そんなこんなで入学式は無事に?終了した。




