魔道具”ギフト”
闘技場での上級生達との実戦形式の訓練から数日が経ち、”悪魔の森”への遠征まであと3日と差し迫ったある日、リクトは研究会の研究室にて会長である糸目の男と何やら神妙な面持ちで話していた。
ちなみにではあるが、リクトを除けば”神の力研究会”の唯一の会員にして、他にいないからという理由で会長を務めるこの男の名はウィード・ガルルフィンと言うらしい。入会から1週間以上が経過して尚、リクトの胸中では糸目先輩と呼ばれ続けているが、ファミリーネームから察するにどうやらこの男もまた名家の御曹司だったようである。しかしリクトにしてみれば関係のない話であり、学内で唯一自分の味方であるこの男は貴族であろうと貧民であろうと変わらずただの糸目先輩なのだ。
だがリクトにしてみれば予想外も予想外、唯一味方だと思っていた男が遠征試験3日前にして手のひら返しをしてきたのである。
「先輩、本気で言っているんですか?遠征試験に参加するなんて自殺行為もいいところだ!俺にわざわざ遠出してまで死に場所を探しに行けっていうんですか!!あんたには心が無いのか!?あんたは鬼だ!悪魔だぁぁぁ!!」
そう、遠征試験をサボる気満々だったリクトに対して苦言を呈してきたのである。まぁ、成績をつける上で最重要項目とも言える遠征試験をサボろうものなら割と本気で進級が危うくなってしまうので、ウィードの言っていることは何も間違っていないのだが・・・
しかし、成績の心配までしてくれる後輩思いな上級生に対して当のリクトはこの言いようである
「護衛の騎士も付くのだし、先生方も同伴する。遠征試験と言っても、”悪魔の森”は比較的魔獣も少ないし高レベルな個体も生息していない。これは十分に安全マージンの取られた”授業”の一環に過ぎないんだ。別に君がそこまで悲観する理由は無いと思うんだけど・・・」
「先輩は分かってないんだ!きっと護衛騎士は俺のことだけ守ってくれないし、みんなも俺のことなんて置いて行っちゃうだろうし、どうせ俺のところにだけ魔獣がウジャウジャ集まってきて喰い殺されるんダァぁぁぁ・・・」
悲痛な未来のみを思い描きながら、リクトは頭を抱えてしまった。完全に被害妄想である・・・
ウィードもこれは説得が難しそうだとばかりに頭を掻きながら目を逸らしてしまう。
「ふぅ、やれやれ仕方ないねぇ」
ウィードは泣き言を漏らすリクトを尻目に、部屋の隅にある棚の引き出しをガサゴソすると4枚綴の単語カードを取り出してリクトに差し出した。
「なら、これを持って行くといいよ」
「何ですかこれは?単語カード?その割りには4枚しかカードがありませんが・・・」
カードを受け取ったリクトはその顔に疑問の表情を浮かべる。
「魔道具だよ。それも発動に魔力の注入を必要としないタイプのね。」
「え!?」
ウィードの言葉に思わず目をカードに向けるリクト
それもそのはず、魔道具とは本来、魔法陣の刻み込まれた魔法発動の補助具でしかないのだ。魔法の”発動と展開”という行程を魔法陣を直接刻印することにより省くのである。
戦技の発想の元となったのが魔道具のこの仕組みとも言える。だからこそ驚愕なのだ、戦技と同じ原理だからこそ魔法の発動には人の手で魔力を注ぎ込む必要があるのである。
しかし、今リクトの手の内にあるこの魔道具は発動に魔力を必要としないと目の前の男は言ったのである。
そんなことがあり得るのかと懐疑の視線をウィードに投げかけるリクト
「魔力を注入しなくても発動の出来る魔道具なんて聞いた事ないですけど・・・
まさか俺のことをからかってるんじゃぁ・・・」
「聞いたことがないのも無理はないよ、それは特別な品なんだ。ある男の自作品でね・・・今の世の中には出回っていない技術さ。」
何でもないことのようにさらっと言うウィードではあるが、リクトは顔を突然青くするとそっと机の上にカードを置いて手を離した。
「おや、どうしたんだい?」
突然のリクトの異変に疑問を抱くウィード。
「いや、この世に出回っていない技術って・・・・、それめちゃくちゃ高価な魔道具なんじゃないですか?」
「それほどのものではないさ、なにせずっとここで埃を被っていたぐらいだからね。それに、その魔道具の製作者も可愛い後輩の役に立ってくれた方が嬉しいと思うよ?」
満面の笑顔でそういったウィードは有無を言わせぬ様子でリクトにカードを受け取らせようとする。その様子は、側からみれば胡散臭いことこの上ないのだが、面と向かっているリクトはその男の発する謎の圧力に耐えられないといった様子で、押し負けてしまった。
「本当ですか?まぁ・・・、そう言うことなら・・・」
渋々といった様子で単語カード状の魔道具を受け取るリクト。
「あぁ、ちなみにその魔道具の名前は”ギフト”だよ。」
「ギフト?贈り物?変わった名前ですねぇ・・・」
あまりにも優秀な魔道具の不自然な名前に疑問を抱いたリクト
「さぁ、名前の由来までは僕にも分からないからね。もしかしたら誰かへ贈るつもりで作ったのかもしれないし、”ギフト”と言う名前に別の意味が込められているのかもしれない。どちらにしろ、それのいまの所有者は君だ!名前の意味なんて大して気にするようなことでもないと思うよ?」
名前など所詮は個の識別に用いられるものでしかない。しかし、こんなすごい魔道具につけられた名前なのだ、いくらリクトと言えどもそこに込められた意味を知りたいと願ったとて不思議ではないだろう。
しかし、これはいいものを貰ったものだとリクトは満足げに笑みを溢す。カードが4枚ということは、おそらく4種類の魔法を行使することが可能といううことなんだろう。
(さっそく帰ったらこのカードの使い方を調べてみなければ!)
研究室を出た後、浮かれ気分で学園の廊下を歩いていると曲がり角からエリナが現れた。こんな時間にまだ校舎に残っているということはおそらくあちらも研究会の帰りなのだろう。
「げっ!?」
驚きの声を漏らしてしまったがために向こうもリクトに気付いてしまったようだ。
ぱぁっと顔を明るくすると、全速力でリクトに駆け寄ってくるエリナ。
マズイ奴に見つかってしまったとリクトは思った。
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