セリス・インディラード
同時に剣を振り上げた2人であったが、先にその刃を相手に届かせたのは貴族風の上級生の方であった。
「っっう!!!」
1瞬の刹那、磨き抜かれた宝剣の切っ先が届くその時、ソーマの顔が驚愕に染まった
天才と呼ばれたその男は、まさか自分の剣速が同年代の学生に遅れを取るなどとは夢にも思わなかった。
紙一重と言った具合に如何にかこうにか眼前に迫った刃を交わす事に成功したソーマは、しかしあまりの驚愕に思考を1瞬止めてしまう。
貴族風の上級生は最初の1撃でソーマの動きが鈍くなったのを見逃しはしなかった。それはまさに”連撃”。振り下ろし、切り上げ、打ちはらい、ソーマをもってして反撃の余地が無いほどの攻撃密度。その男も紛れもなく”天才”、それもソーマ・エリンバラにも届き得るほどの・・・
周囲の生徒たちは、あまりの驚きに息を呑む。
まさかあのソーマ・エリンバラが苦戦をするなどとは思いもしなかったのだ。
「・・・この速さ、・・・そうか、戦技か!」
防戦一方になってしまったソーマだったが、徐々に冷静さを取り戻すに連れて、己が後れを取った理由について思い至った
”戦技”
本来、構築→展開→発動という手順を踏まなければならない”魔法”を高速戦闘の中で使う為に編み出された戦闘スタイル。予め構築と展開を済ませた魔法陣をストックしておき、それを戦闘中に必要に応じて魔力を注ぎ込み発動するもの。用意しておいた手札を切りながらの超高威力・超高速の魔法戦闘。身魔一体を極めし現代の魔法科学文明が生んだ悪魔への対抗手段。
そしてソーマに相対するこの男が最初の一手で使用した戦技は”極突”
加速魔法と硬化魔法のみを使用して速度と威力のみを追求した戦技。それは単純にして至高。シンプルだからこそ誤魔化しの効かない純粋な実力が出る戦技。
だからこそソーマは驚愕していた。ソーマをもってしてその戦技の鋭さは目を見張るものがあった。
しかし、だからといって大人しくやられてばかりいるソーマであるはずがなかった。
再び極突を放ってきた相手の男に対して、ソーマは相手の剣閃の軌道上に剣を置き相手の剣撃を弾いてみせる。
そして反撃だとばかりに今度はソーマが連撃を開始する、相手の守りの隙を針の穴に糸を通すが如き精密さで攻め続ける。
数度の打ち合いの末、わずかにガードを崩した宝剣使いの男に向かって、1瞬で間合いを詰め訓練用の模擬剣を振りかぶるというフェイントを入れる。
あまりの激しい連撃に怯んでいた貴族風の上級生はまんまとそのフェイントに引っ掛かってしまい、上段攻撃に対するガードの構えをとる。
その瞬間、ソーマは身体を深く沈め、相手の懐に潜り込むと、相手の男の足を払って体勢を崩させたところに肘打ちを決め、相手を後方へと吹き飛ばす。
床を転げる男に対して、ソーマは決着だとばかりに剣先を突きつける。
その瞬間、周囲で見守っていた生徒たちから歓声が沸いた。
相手の男も潔く敗北を認めたようで、やれやれといった身振りをして見せるとゆっくりと立ち上がり、ソーマの元へと歩み寄ってきた。
「いやぁ、さすがだねぇ。参った参ったぁ、これは参ったよぉ。」
「いえ、こちらこそ先輩の戦技の冴えには驚かされました。」
「まぁあれにはそこそこ自信があるからねぇ、そういえば自己紹介がまだだったねぇ、こちらの名はセリス・インディラード。まぁ一応貴族ではあるがけど、君の友人のリクト君に比べれば吹けば飛ぶような小貴族だよぉ」
「改めまして、ソーマ・エリンバラです。よろしくお願いします!」
2人は笑顔で握手を交わす。
セリス・インディラード。グリモア学園において、2年生でありながら圧倒的な剣技で序列3位にまで上り詰めた努力の天才。入学時の成績は下位10%であったが、戦技研究会に所属し、その中でメキメキと頭角を出し始めたセリスは1年間で学内序列を600以上も上げた。この男もまた”天才”。周囲で観戦していた上級生たちにしてみれば、まさかセリスが敗北するとは思わなかった事だろう。
そしてまた、極まりし武芸者だからこそ、相対した者への敬意を忘れない。
いかに挑発的な態度でソーマに挑んだとはいえ、決着がついた後では好敵手として受け入れる。たとえそれが敗北を喫した後だとしても・・・。序列2位の男とは違い、その度量の深さも相まって、彼は学園中の尊敬を集める、名実ともにトップクラスの実力者。
剣を交える事で彼の誠実な人間性をも見抜いたのか、それとも単純に元来の人の良さ故か、ソーマも彼のことを認めたようであった。
それから20分後、実戦訓練の授業の終わりを告げる鐘の音がなる。
2人の天才の出会い、学内序列3位の敗北。これから始まる激動の1年間の幕開けとも言える日。
ソーマは口から溢れ出る笑みを抑えきれずにいた。
(あれで3位・・・、この上にさらに2人・・・)
「フッ、クハハ、アハ、アハハハハハハハハハハハハハハ!!!」
授業が終わり誰もいなくなった闘技場にソーマの笑い声が響き渡る。
温厚な性格である裏で、極度の戦闘狂であるというのはエリナやリクトの間ではすでに暗黙の了解となっているが、グリモア学園に入学を果たしてからその異常性に磨きがかかっているのではないかと、影からその様子を見ていたエリナは思わずにはいられなかった。




