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第16話 三十万円と、四つ目の星

ギルドの受付で保科さんが賞金の封筒を両手で差し出した。

「椎葉さん。公式模擬戦の、賞金三十万円です」

「ありがとうございます」

「それと」

保科さんはくすりと、笑った。

「バット、現役でよかったですね」

「……はい。ありがとうございました」

冬馬は頭をかいた。

保科さんの表情がいつもの何倍も明るかった。

「実はあの試合、ギルド内ですごい噂になっています。『バットのおじさんがAランクを倒した』と」

「……噂、ですか」

「はい。ですからひとつ、ご報告があります」

保科さんは探索者証を差し出した。

「Cランクに昇格です」

「えっ。またですか」

「はい。もう、私も驚かなくなりました」

新しい探索者証には、「C」の文字。

「そして、ご相談があります。Cランク以上の探索者の方には四階層以降の探索が許可されます」

「四階層」

獅子堂がすでに到達していた、階層だ。

「まだ、迷っていますが。考えさせてください」

「もちろんです」

ギルドを出ようとしたとき、聞き覚えのある、元気な声が飛んできた。

「先輩ぃぃぃぃ!!」

全力で走ってくる、スーツ姿の青年。乙部だ。

「え、乙部? お前、なんでここに」

「今日が最終出社日だったんですよ! 会社を出て、そのままダンジョンに登録しに来たんです!」

「そ、そうか。おめでとう」

「それより先輩! 今の、見ました!?」

乙部は息を切らしながらスマホの画面を見せてきた。

さっきの模擬戦の、動画だった。すでにネットに上がっている。タイトルは、『バットのおじさん、Aランクを一撃で沈める』。再生数はすでに二十万回を超えていた。

「バットのおじさんって、先輩だったんですか!?」

「…………」

冬馬は無言で天を仰いだ。

「しかも先輩、ダンジョンのこと、僕に教えてくれなかった!」

「いや、その、タイミングが」

「ひどいですよ! でも尊敬します! 先輩、弟子にしてください!」

「しない」

「ええええ!」

乙部の叫びがギルドのロビーに響いた。

レオニーさんが肩を震わせて、笑いをこらえていた。ポムは乙部の頭の上に飛び乗って、ぷうぷうと、なぜか威張っている。




夜。冬馬の部屋。

テーブルの上に三万円。

「……よし」

正座する。ポムも隣に座る。

レオニーさんは今日はホテルに戻っている。明日、また、ギルドで落ち合う約束だ。

「賞金の三十万円は二十七万円を貯金に。三万円を課金枠」

冬馬は封筒から三万円を取り出した。

「三十連、いくぞ」

「ぷう」

光の柱。効果音。

一連目から十連目。レア、レア、Sレア、レア、レア、レア。

十一連目から二十連目。レア、レア、レア、Sレア、レア、レア。

「……今日は渋いな」

二十一連目から三十連目。

二十七個目までレアと、Sレアが淡々と続いた。

「まあ、こんなもんか」

二十八個目。

画面が暗転した。

「…………ん?」

光の柱が立つ。金色ではない。虹色でもない。

白金色。

画面全体がまぶしく、輝き始めた。

「おい、嘘だろ」

冬馬の手が止まる。心臓が激しく、脈打つ。

八年間、数え切れないほどの、ガチャを回してきた。その中で一度だけ、見たことがある、色。

最高レアの、演出。

《★★★★ SSSレア 異空間収納 を獲得しました》

「…………………………」

冬馬は画面を見つめた。

十秒。二十秒。三十秒。

「ぷう?」

「……………………来た」

声が震えた。

「SSS、来たぞ、ポム! SSSが来た!!」

「ぷうううううっ!!」

ポムが冬馬の頭の上に飛び乗って、ぐるぐると、回り始めた。

深夜の、狭い一Kの部屋でおじさんと毛玉がぐるぐると、踊っている。

壁がドンと、叩かれた。

「す、すみません!」

小声で謝って、冬馬は正座に戻った。呼吸を整える。

画面の、説明文を読む。

――異空間収納。

――無限の容量を持つ、別空間に物品を収納できる。

――収納中の物品は時間が停止し、劣化しない。

「無限の、容量」

頭の中で何かがパチンと、はまった。

「……時間が停止する」

「ぷう?」

冬馬はポムを見た。

ポムも冬馬を見た。

「あのな、ポム」

「ぷう」

「サンドイッチもおにぎりも唐揚げも。熱々のまま持ち運べる」

「…………!」

ポムの目が見たことがないほど、きらきらと、輝いた。

「しかも素材も傷つけずに運べる。岩亀の甲殻も結晶鹿の角も全部、一度に」

「ぷうううううううっ!!」

ポムが冬馬の首に全力で抱きついた。

翌日。

冬馬は買ったばかりの、五人分の弁当を異空間収納に放り込んだ。取り出すと、湯気が立ち上っていた。

「…………便利すぎる」

「ぷう!」

ポムは湯気の立つ唐揚げ弁当を満面の笑みで頬張っていた。

こうして、おじさんはついにSSSレアを手に入れた。

なお、手に入れた用途の、第一位は、『ポムの弁当』であった。


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