第19話「文化祭の打ち上げと、揺れ動く四人の心」
文化祭2日間が終わり、家庭科室には心地よい疲労と達成感が満ちていた。
「みんな、本当にお疲れさま・・・!」
真智が笑顔で言うと、 五人の間に温かい拍手が広がった。
「クッキーもカレーも完売だし、文句なしだな!」
悠斗が腕を組んで満足げに言う。
「うん・・・!すごく楽しかった・・・!」
ひよりは、今日一番の笑顔を見せた。
しかし―― その笑顔の奥にある“痛み”に気づいているのは、 和馬だけだった。
(・・・佐伯さん、頑張って笑ってる。本当は・・・辛いのに)
胸がきゅっと締めつけられる。
片付けが始まると、自然と二人ずつに分かれて作業が進んだ。
壮真と真智。 ひよりと和馬。 悠斗は一人で大きな鍋を洗っている。
ひよりは、壮真と真智が並んで笑い合う姿を見て、 胸の奥がじわりと痛んだ。
(・・・やっぱり、二人はお似合いだよね)
そう思えば思うほど、 自分の想いがみじめに感じてしまう。
「佐伯さん・・・大丈夫ですか?」
和馬がそっと声をかける。
「えっ・・・あ、うん。大丈夫だよ」
ひよりは笑顔を作るが、 その目は少し赤かった。
(・・・嘘だ。全然、大丈夫じゃない)
和馬は気づいていた。でも、何も言えなかった。
(・・・僕じゃ・・・佐伯さんを笑顔にできないのかな)
胸が痛い。 でも、その痛みを押し殺して、 ひよりの隣で黙って作業を続けた。
一方で、真智もまた、胸の奥が落ち着かなかった。
(・・・佐伯さん、やっぱり高杉くんのこと・・・)
ひよりの涙の理由を知ってしまったからこそ、壮真と話すたびに、どこか後ろめたさを感じてしまう。
「田辺さん、これ運びますね。」
「ありがとう、高杉くん・・・」
壮真の優しさが、 真智の胸をまた跳ねさせる。
(・・・どうしてこんなに嬉しいんだろう)
でも同時に、 ひよりの顔が浮かんでしまう。
(・・・私がこんな気持ちになっちゃいけないのに)
胸が痛い。 でも、痛いほどに気づいてしまう。
(・・・私・・・高杉くんのこと・・・)
片付けが終わり、五人は家庭科室を出た。
「じゃあ・・・また明日な!」
悠斗が手を振り、 和馬もひよりに声をかける。
「さ、佐伯さん・・・今日も送ります。」
「うん・・・ありがとう。」
二人は並んで歩き出す。 しかし、ひよりの視線は―― 最後まで壮真のほうへ向いていた。
(・・・佐伯さん・・・)
和馬はその視線に気づいてしまう。
胸が、痛いほどに締めつけられた。
(・・・僕じゃ、ダメなんだ)
ひよりと和馬が去り、悠斗も別方向へ。
残ったのは、 壮真と真智の二人だけだった。
「・・・今日も、一緒に帰ってもいい?」
真智が小さく言う。
「もちろんです」
壮真は自然に微笑んだ。
その笑顔に、 真智の胸はまた跳ねた。
(・・・どうしよう。 こんな気持ち、止められない)
でも―― ひよりの涙が、胸の奥で静かに疼く。
(・・・私が高杉くんを好きになったら・・・ 佐伯さんを傷つけちゃう)
夕焼けの中、 二人の影が並んで伸びていく。
その影の後ろで、 ひよりの小さな恋と、 和馬の切ない想いが、 静かに揺れていた。




