第20話「夜のメッセージと、それぞれの胸に残る痛み」
文化祭2日間の疲れがどっと押し寄せる夜。 家に帰ったひよりは、制服のままベッドに倒れ込んだ。
天井を見つめながら、 今日の壮真の言葉が何度も頭の中でリフレインする。
『佐伯さんがいてくれるから、僕たちは前に進めています』
(・・・そんなの・・・嬉しいに決まってるよ)
胸がじんわり熱くなる。 でも、その熱さはすぐに痛みに変わった。
(・・・でも・・・高杉くんが本当に見てるのは・・・田辺さんなんだよね)
今日、二人が並んで作業していた姿。 自然に笑い合う姿。 肩が触れそうな距離で話す姿。
全部、胸に刺さっていた。
ひよりは枕に顔を埋めた。
(・・・どうして好きになっちゃったんだろう)
涙がじわりと滲む。
同じ頃、和馬もまた、机に突っ伏していた。
(・・・佐伯さん・・・今日もずっと高杉くんを見てた)
分かっていた。 ずっと前から気づいていた。
でも、今日のひよりの言葉で、 それが“確信”に変わってしまった。
『高杉くんの隣に立ちたいのに・・・』
(・・・僕じゃダメなんだ)
胸が痛い。 息が詰まるほどに。
でも、ひよりが泣いていたとき、 自分は何もできなかった。
(・・・好きなのに・・・ 好きだから・・・ 笑っていてほしいのに・・・)
和馬は、握った拳をそっと開いた。
(・・・佐伯さんが幸せなら、それでいいって・・・ そう思いたいのに)
涙が一粒、机に落ちた。
真智は、机に広げたレシピノートを見つめていた。
(・・・佐伯さん・・・高杉くんのこと・・・)
ひよりの涙の理由を知ってしまったからこそ、 壮真と話すたびに胸がざわつく。
でも―― 今日の帰り道、壮真が言った言葉が 何度も胸の奥で響いていた。
『田辺さんと帰れるなら・・・嬉しいです』
(・・・あんなこと言われたら・・・ 好きになっちゃうよ・・・)
胸が熱くなる。 でも同時に、ひよりの顔が浮かんでしまう。
(・・・私が高杉くんを好きになったら・・・ 佐伯さんを傷つけちゃう)
その思いが、真智の胸を締めつけた。
(・・・どうしたらいいの・・・)
壮真は、文化祭の反省点をまとめようとしていたが、 ペンが止まった。
(・・・佐伯さん・・・僕に・・・?)
今日のひよりの涙。 あの言いかけた言葉。
『私・・・ずっと・・・高杉くんのこと・・・』
胸がざわつく。
(・・・佐伯さんは優しい人だ。 頑張り屋で・・・ 誰よりも周りを見ている)
でも―― 真智の笑顔が浮かぶ。
(・・・田辺さんと話すと、どうしてこんなに安心するんだろう)
自分の気持ちが分からない。 でも、何かが確かに動き始めていた。
そのとき、壮真のスマホが震えた。
画面には、 「田辺真智」 の名前。
『今日は本当にありがとう。 一緒に帰れて・・・嬉しかったです。 明日、また話せるといいな。』
壮真の胸が、静かに跳ねた。
(・・・田辺さん・・・)
その頃、ひよりはスマホを握りしめていた。
(・・・高杉くんに・・・“ありがとう”って送りたいのに・・・ 送れない・・・)
指が震えて、文字が打てない。
和馬は、ひよりの名前を開いたまま、 メッセージを送れずにいた。
(・・・僕が送っても・・・迷惑だよな)
真智は、送信ボタンを押したあと、 胸に手を当てていた。
(・・・どうしてこんなに苦しいんだろう)
四人の想いが、 夜の静けさの中で交差していた。




