第18話「文化祭2日目・カレー開店!そして揺れる三角関係」
文化祭2日目。 昨日のクッキー完売の勢いそのままに、調理クラブの前には朝から人だかりができていた。
「す、すごい・・・!昨日より多いよ・・・!」
ひよりが驚きの声を上げる。
「田辺のカレー、噂になってるらしいぞ。“家庭科室の神カレー”って」
悠斗が笑いながら言うと、真智は顔を真っ赤にした。
「そ、そんな大げさだよ・・・!」
壮真は、そんな真智の横顔を見て微笑んだ。
「田辺さんのカレー、本当に美味しいですから。噂になるのも当然ですよ」
「っ・・・!」
真智の胸が跳ねる。
(・・・まただ。どうしてこんなに・・・)
その様子を、ひよりは少し離れた場所から見ていた。
(・・・やっぱり、田辺さん・・・)
胸がきゅっと痛む。
そして、そのひよりを見つめる和馬の胸にも、 別の痛みが生まれていた。
(・・・佐伯さん・・・今日も高杉くんを見てる)
「それじゃあ・・・開店します!」
真智の声で、2日目がスタートした。
「カレー2つお願いします!」
「3つ! 友達の分も!」
「昨日のクッキー美味しかったです!今日はカレー!」
次々と注文が入り、家庭科室は大忙しだった。
「三浦さん、鍋の火、少し強めでお願いします!」
「了解!」
「木下さん、盛り付けお願いできますか?」
「は、はい・・・!」
「佐伯さん、お客さんの誘導をお願いします!」
「うん・・・!」
五人は息を合わせ、次々とカレーを提供していく。
その中で―― 壮真と真智は、自然と隣で作業することが多くなった。
「田辺さん、次の鍋、僕が持ちます。」
「ありがとう、高杉くん・・・!」
二人の距離は近く、 声をかけ合うたびに、どちらも少しだけ照れていた。
その光景を見て、ひよりの胸はまた痛んだ。
(・・・分かってる。分かってるけど・・・)
和馬は、そんなひよりの横顔を見て、 そっと拳を握った。
(・・・佐伯さんが辛そうなのに・・・僕は何もできないのか・・・)
昼過ぎ。 大盛況の中、突然ひよりが小さく声を上げた。
「・・・あっ!」
「佐伯さん?」
壮真が気づく。
ひよりは、手に持っていた紙コップを落としてしまっていた。
「ご、ごめん・・・!手が滑っちゃって・・・」
「大丈夫ですか?火傷は・・・」
「ううん、大丈夫・・・!」
ひよりは笑おうとしたが、その表情は明らかに無理をしていた。
(・・・佐伯さん、疲れてる)
壮真はそう感じた。
しかし―― その瞬間、真智がひよりの手をそっと取った。
「佐伯さん・・・無理しないで。少し休んで?」
「で、でも・・・」
「昨日も・・・泣いてたよね・・・」
ひよりの肩がびくっと震えた。
「・・・見てたの?」
「うん。 気づいてたのに・・・声をかけられなかった。ごめんね」
ひよりは唇を噛みしめ、俯いた。
「・・・私、頑張りたいのに・・・高杉くんの隣に立ちたいのに・・・全然うまくできなくて・・・」
その言葉に、壮真は息を飲んだ。
(・・・佐伯さん・・・)
和馬は、その言葉を聞いて胸が締めつけられた。
(・・・やっぱり・・・佐伯さんは・・・)
「佐伯さん」
壮真は、ひよりの前にしゃがんだ。
「あなたは・・・十分頑張っています。僕は・・・佐伯さんがいてくれて、本当に助かっています。」
「・・・ほんと?」
「はい。あなたがいなかったら、ここまで来られませんでした。」
ひよりの目に、また涙が浮かんだ。
「・・・ありがとう・・・」
その様子を見て、真智の胸がざわついた。
(・・・佐伯さん・・・やっぱり・・・)
そして、和馬は静かに拳を握った。
(・・・僕じゃ・・・ダメなのか)
カレーは完売し、2日目も大成功で終わった。
「みんな・・・本当にお疲れさま!」
真智が言うと、全員が笑顔になった。
しかし―― その笑顔の奥には、それぞれ違う“痛み”があった。
ひよりは、壮真への想いを抱えたまま。 和馬は、そのひよりを想いながら。 真智は、ひよりの気持ちを知ってしまった自分に揺れながら。
そして壮真は―― 初めて、 「誰かに想われている」という事実に気づき始めていた。
(・・・佐伯さん・・・僕に・・・?)
文化祭2日目の夕暮れ。 五人の胸には、 それぞれ違う“恋の痛み”が静かに残っていた。




