第16話 「文化祭前日、胸が高鳴る準備と・・・二人きりの帰り道」
この作品は登場人物が全員モブです。必ずモブ顔で想像してください。
文化祭まで、ついにあと一日。
放課後の家庭科室は、これまでで一番の熱気に包まれていた。
机の上にはクッキーの袋詰め、カレーの材料、看板用の画用紙。
五人はそれぞれの持ち場で、最後の仕上げに取りかかっていた。
「よし・・・クッキーの袋詰め、これで全部だな。」
悠斗が腕を組んで満足げに言う。
「うん・・・! すごい量・・・!」
ひよりは、昨日よりずっと明るい表情だった。
涙を流したことで、少しだけ肩の力が抜けたのかもしれない。
和馬は、そんなひよりを見て胸をなでおろした。
(・・・よかった。佐伯さんが笑ってくれてる・・・)
しかし、その笑顔の先に向けられているのは――
やはり壮真だった。
(・・・やっぱり、佐伯さんの想いは・・・)
胸が少しだけ痛む。
でも、和馬はその痛みを飲み込んだ。
一方で、真智は落ち着かない気持ちを抱えていた。
(・・・佐伯さん・・・高杉くんのこと・・・)
昨日のひよりの涙。
その理由に気づいてしまった自分。
そして――
自分の胸にも、同じような痛みがあることに気づいてしまった。
(・・・どうして、こんな気持ちになるんだろう)
壮真が誰かと笑うたび、
胸の奥がざわつく。
(・・・私も・・・高杉くんのこと・・・)
その答えを、まだ言葉にできなかった。
作業が終わり、家庭科室の片付けが始まる。
「明日は本番だな。気合い入れていこうぜ。」
悠斗が言うと、ひよりと和馬も頷いた。
「うん・・・! 頑張ろうね。」
「ぼ、僕・・・明日は早く来て手伝います・・・!」
真智も微笑んだ。
「みんな・・・本当にありがとう。ここまで来られたのは、みんなのおかげだよ。」
壮真は静かに言った。
「田辺さんの頑張りがあったからです。僕たちは・・・その背中を追いかけてきただけですよ。」
「えっ・・・。」
真智の胸が、どくんと跳ねた。
(・・・そんなこと言われたら・・・)
顔が熱くなるのを感じ、慌てて視線をそらした。
帰り道。
五人は校門の前で自然と足を止めた。
「じゃあ・・・また明日ね!」
ひよりが手を振り、和馬も続く。
「さ、佐伯さん、暗いので送っていきます!」
「うん、ありがとう木下くん。」
ひよりと和馬は同じ方向へ歩いていく。
その背中を見送りながら、悠斗も手を上げた。
「じゃあな。俺もこっちだ。」
そして――
気づけば、校門の前には二人だけが残っていた。
「・・・高杉くん、帰り道・・・一緒に歩いてもいい?」
真智が、少しだけ恥ずかしそうに言った。
「もちろんです。田辺さんと帰れるなら・・・嬉しいです。」
「っ・・・!」
真智の胸が跳ねた。
二人は並んで歩き出す。
夕焼けが街を赤く染め、影が長く伸びていく。
「明日・・・楽しみですね。」
「うん・・・!でも、ちょっとだけ緊張してる・・・。」
「大丈夫ですよ。田辺さんの料理は、必ずみんなを笑顔にします。」
「・・・高杉くんがそう言ってくれると、安心する。」
真智は、そっと横目で壮真を見た。
(・・・どうしてこんなに優しいんだろう)
胸の奥が、じんわりと温かくなる。
そして――
昨日のひよりの涙が、ふと頭をよぎった。
(・・・佐伯さんも・・・きっと、同じ気持ちなんだ)
胸が少しだけ痛む。
でも、壮真の横顔を見ると、
その痛みはすぐに溶けていった。
(・・・私・・・どうしたらいいんだろう)
答えはまだ出ない。
でも、今日の帰り道は――
真智にとって、特別な時間になった。
家の前に着くと、真智は立ち止まった。
「今日は・・・ありがとう。一緒に帰れて・・・嬉しかった。」
「僕もです。明日、頑張りましょうね。」
「うん・・・!おやすみ、高杉くん。」
「おやすみなさい、田辺さん。」
真智は家の中に入る前、もう一度だけ壮真の背中を見つめた。
そして先ほどの壮真の言葉がリフレインする。
『大丈夫ですよ。田辺さんの料理は、必ずみんなを笑顔にします。』
(たった一言でこんなに嬉しくなるんだ・・・私・・・やっぱり・・・)
胸の奥で、静かに何かが芽生え始めていた。
こうして、“モブな僕ら”の青春は、文化祭前日の夕暮れの中で、新しい恋の気配を静かに育てていった。




