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レディ・フレア  作者: 在原白珪
巻二
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19/23

10話 パレスの外に知る者ありて 上

   Ⅰ


 アルザとユーノスは休日だったところ、パレスに参上し、テリオスに報告した。


「鷹狩の最中、森の中、川辺で不審な旅団の会話を聞きました。武装している様子で、キャピタルへ向かい、明日、何かを決行すると話しておりました」


「……盗みじゃないのか」


「思い残すことのないように一晩好きに過ごせ、という指示に違和感を覚えました。盗みを働く程度でそこまで言うでしょうか」


「……人数は」


「五、六人」


「装備は」


「馬はなし。弓も刀もあるようでしたが、姿はあまり見えていません」


 テリオスの頭の中で、賊を恐れているというリタイヤード・エンペラー・カペラの語りが蘇る。

 まるっきりの嘘でもなかったのかもしれない。

 しかし、今、パレスの外にいるカペラを、この程度の憂慮のために警護しにいくこともできない。

 あくまでも優先はパレスの中を守ることである。


 熟慮の末、テリオスは指示した。


「明日決行するというのは、お前たちを騙すために聞かせたものかもしれない。

今晩から、非番でも隊舎にいる者たちに、普段の持ち場での増員応援を頼む。宿直の文官たちにも注意を呼びかけよう。俺とフィガロはここに残る」


 これが最も安全な行動であろう。

 そして付け加える。


「ユーノス。お前もアルザと共にレディ・フレアの護衛に戻れ。今日から五日だ」


「はい」


 ユーノスはまるでだるさなど感じさせない返事と礼をする。

 今までがおかしかったのだ。

 フィガロの元で諜報活動や事務処理ばかりしている。

 それよりは、じゃじゃ馬でも、レディの側仕えの方がよほどナイトの本分である。

 そう考えることにした。


 隊長室から出て、アルザは背伸びした。


「面白くなってきたじゃないか。俺たち、第一発見者だぜ?」


 茶化してユーノスの不安を和らげようとしているのが伝わった。

 アルザはいつも、そういう男である。


「フレアさまにお話したら、お喜びになるだろうなあ」


「そうでしょうか」


「もともと血の気が多かっただろ? それがエンペラーの嫉妬で部屋から出られなくなって、余計いらいらしたり、落ち込んだりを繰り返してる」


「おかわいそうに」


「本当に思ってるか」


 アルザからの問いに、ユーノスはほほえむ。


「まさか」


「どっちだよ」


「理解しがたいことです」


「誰の、何が」


「どうでしょう」


 フィガロの元についてから、ユーノスは自信をつけたようで、弁も立つようになった。

 喜ばしいことでもありつつ、寂しくもある。



   Ⅱ


 久しぶりにパレス・ブレッシュに入ったユーノスは、フレアの部屋周辺の密度に驚いた。

 メイドは二人、武官がナイト一人(翁はアルザと交代で非番になっている)と、ソルジャー一人。

 そこにアルザとユーノスも加われというのである。


 ずっとフレアの番をしていたソルテラは、ユーノスとの再会を喜んだ。


「坊ちゃん……! 元気か」


 以前からそれほど親しくしていたわけではない。

 たまたま数週間、同じ配属になっただけの間柄だ。

 それなのに、まるで親兄弟のように出迎えてくれたソルテラの暖かさに、ユーノスはまた、泣きたくなった。


「はい。お久しぶりです」


「ちょうど、そろそろ会いたいって話をしてたんだ。まさか本当に」


「いいですがね、ソルテラさん。緊急事態だから、応援が来たんですよ」


 アルザは淡々と、川で見聞きしたことや、ナイト・ヘッドの判断を伝えた。

 ソルテラは驚きに驚きを重ねて、気が遠くなる。


「それで、一番に警備を強化するのがレディたちっていうことか」


「そう。夜間にはエンペラーもお休みになる場所なのに、咄嗟に動ける男の数が少ない」


「そりゃそうだ。へえ、大変なことだ」


「でも、不審者が必ずここを襲う話でもありませんから。それに、こうして人を増やしているだけでも、諦めるかもしれません。堂々としていましょう」


 ユーノスは緊張を崩さないまま語る。

 その成長ぶりに、ソルテラもまた寂しさを覚える。


 純粋に称えたのは、レディ・フレアであった。


「ええ、私もそう思うわ」


 ユーノスは軽く頭を下げる。

 二人は歌会をともにして以来である。


「それに、山賊なんて、山でしかやっていけないから山賊なのよ。町に出てきたらお縄にかかるだけだわ」


「さすがフレアさま。強気でいらっしゃる」


 ソルテラは慣れた様子でフレアを持ち上げる。


「でも、あまり人数が増えすぎないうちにとっとと捕まえることね。ネズミだって、あんなに小さくても大群で押し寄せてきたら骨折りどころか、追いかけきれないでしょう? 人の常識が通用しない相手には、数で負けたらだめよ」


「人の常識が通用しない相手?」


 ユーノスは聞き返す。


「そう。何のお勉強もしていない野蛮な人たちって、後先を考えていないんでしょうけど、それがかえって、戦場の一瞬をかき乱すの」


「なるほど。……恐ろしいですね」


「頭で考えるから怖いんだ」


 天井から声がする。

 ソルジャーのプレオだ。

 プレオは華麗に飛び降りてきて、ユーノスをにらむ。


「セネター(参議)みたいな顔だな」


 ユーノスは未だ背の低いプレオを見下ろして言い返す。


「会ったことがあるのか?」


「ある。オレはセネターに雇われたんだからな」


「そう」


 ユーノスはフレアに目を向ける。


「この者、レディにご無礼はありませんか」


 暗に、ナイトへの礼儀がなっていない、とユーノスは腹を立てているのだ。

 官位上はそれを認めるほど、ナイトとソルジャーには隔たりがある。

 レディと比べれば尚更だ。


「失礼でも気にしないわよ。役に立てばそれでいいの」


 プレオは得意げになる。

 が、フレアはひとことつけ足す。


「どこかへ連れて行って、誰かに会わせるわけでもないんだから」


 プレオがほんのり肩を落とすさまを、ユーノスは得意げに眺める。

 ソルテラが


「まあまあ」


 と仲裁らしきことをするが、どれもアルザやスピアから見れば取るに足らないことである。

 一方、シフォンの目は光り輝いている。

 その先にはもちろん、セネターのような涼しい顔をして、ナイトの制服を着こなすユーノスがいる。

 視線が合うと、ユーノスはにこりとする。

 シフォンは歓声をあげるかわりにスピアを揺さぶる。

 スピアは仕方なく耐えているが、舌打ちしたのはプレオだった。


「頼りにされてるのはオレなんだからな!」


 ユーノスに真っ向から勝負を持ちかけると、プレオは俊敏に天井裏に隠れる。

 ナイト、メイド、フレアはぼうっと、その跡を見ていた。


 それから夜が明けるまで、パレス・ブレッシュでは何も起こらなかった。



   Ⅲ


 襲撃されたのはリタイヤード・エンペラー・カペラの院であった。

 数名の僧兵によりカペラの命は守られたものの、宝物庫が荒らされ、賊は捕まっていない。


 カペラは蔵の中へ入り、下部たちによる掃除を観察する。

 色々なものがひっくり返っているのだが、その中で一つ、気になる箱が開けられていた。

 カペラのレディやプリンセスたちとの手紙が入った箱だ。


 カペラはその箱を手に取る。

 互いに隠居してからもやり取りがあることはありがたいことで、すべて取っているはずである。

 先週、ルーチェから受け取った手紙は入っている。

 しかし、息子である前エンペラー・ジャスティのエンプレス・ヴェロッサから受け取った手紙がない。

 内容はまだ覚えている。

 姪である現ベッドチェンバー・シルビアの体調が優れないらしい。妊娠しているのだと思うが、もしものこともあるし、本人も不安にさせないよう、公表する時期は考えなければならないというものである。


 カペラはひどく立腹し、朝には再びナイト・ヘッド・テリオスを参らせた。


 テリオスは一人、カペラの御簾の前に跪く。


「お主がうかうかしておる間にわしは殺されるところであった。この世に二つとない宝物が盗まれた! この責任はどう取ってくれる」


 テリオスは顔を伏せたまま、まだ生きているのだから責任など生じていないだろう、と心の中で反論する。


「ナイトの派遣は引き続き依頼する。じゃが、同時に、こちらもこちらで指摘にソルジャーを雇う! その方が早い」


 カペラはそう怒鳴り、テリオスを追い出す。

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