第92話 リソース枯渇の危機と、囮(ハニーポット)によるターゲット逸らし
【担当:キース】
脆弱な頭脳で我が肉体を使いこなせるかな?
開戦だ。
すり鉢のクレーターを抜けた一行を待っていたのは、見渡す限りの広大な砂漠地帯だった。
昼は熱砂、夜は極寒。ドワーフの装備で気候ダメージは防げているものの、この砂漠の真の恐ろしさは別のところにあった。
「クソッ! また出やがった! いい加減にしやがれ!!」
ガルドが斧を振り下ろし、砂から飛び出してきた大サソリを叩き割る。
倒しても倒しても、数分後にはまた別の個体が砂から這い出してくる。
昼間はアリジゴク、夜は毒サソリ。延々と続く波状攻撃のせいで、一行はここ三日間、まともに睡眠も休息も取れていなかった。
「……はぁ、はぁ……キースライン様、もう魔力が……」
エリスが目の下に濃いクマを作り、フラフラと杖にすがりつく。
「チッ……!」
慎也は舌打ちをし、こめかみを強く押さえた。
彼の目にもはっきりと疲労の色が浮かび、偽物の銀縁眼鏡の奥の瞳は血走っている。
常に冷静な彼でさえ、三日間の不眠不休と、絶え間ない警戒の連続により、精神(CPU)が悲鳴を上げていたのだ。
(……典型的なDDoS(分散型サービス拒否)攻撃だ。一撃は軽いが、無限の波状攻撃でこちらの処理能力をパンクさせる気か)
「リーダー……俺ぁもう、腕が上がらねぇ……」
タフなガルドでさえ、ついに膝をついた。
「……エリス。広域防衛結界を張れないか?」
慎也が忌々しそうに問う。
「む、無理です……。結界を張っても、無限に群がってくるサソリの攻撃を受け続ければ、数時間で私の魔力が底を突きます……」
「……だろうな。私の魔力(MP)で迎撃システムを構築しても同じだ。朝を迎える前に枯渇する」
絶体絶命のジリ貧。
カサカサ、カサカサと、砂の奥から無数のサソリが這い寄る音が響く。
その不快なノイズが、慎也のイライラを限界まで加速させた。
「……うるさい。虫けらどもが、私の思考領域を無駄に食うな……!」
慎也は血走った目で周囲の砂を見渡し、そして、ある事実に気がついた。
「……待て。こいつらには視覚がない。夜の砂漠で、どうやって我々の位置を特定している?」
「えっ……? そ、そんなの、音とか匂いとか……」
ナイルが朦朧としながら答える。
「いや……『振動』だ。砂を伝わる我々の足音や、僅かな震え(トラフィック)を感知して集まってきているだけの、単純なアルゴリズムだ」
慎也の口元に、疲労と狂気の混じった笑みが浮かんだ。
「……ならば、バグ技で欺いてやる」
慎也は残けの魔力を振り絞り、自分たちの足元の砂に向けて「極小の熱魔法」を放った。
ジュワッ!
高熱で足元の砂が瞬時に溶け、冷えて固まる。
一行の足元半径3メートルだけが、砂ではなく「分厚いガラスの板(絶縁体)」へと変質した。
「振動を伝えない土台への隔離は完了した。……次だ」
彼は懐から、予備の硬貨が入った小さな革袋を取り出すと、そこに「一定間隔で振動し続ける」というごく簡単な継続魔法を付与した。
そして、その革袋を、自分たちから100メートル以上離れた砂丘の向こうへと力いっぱいブン投げた。
「行け、囮」
ドサッ、と遠くの砂に落ちた革袋が、ドクン、ドクンと人間のような強い振動を発し始める。
すると――。
カサカサカサカサッ!!
今まで一行に向かっていたサソリの群れが、一斉に向きを変え、遠くで振動する革袋の方へと猛スピードで群がっていった。
「……」
ガラスの板の上に取り残された一行の周囲には、気味が悪いほどの静寂が訪れた。
「……敵の攻撃を、偽のサーバーへ誘導した。これで、我々の存在(IPアドレス)は奴らから見えなくなったはずだ」
慎也はフラフラとガラスの板の上に座り込んだ。
「す、すげぇ……サソリが全部あっちに行っちまった……」
ガルドが信じられないという顔で呟く。
「……これで、朝まで振動魔法は持つ。結界を張るより、遥かに魔力消費だ」
慎也は眼鏡を外し、目頭を強く揉んだ。
「……見張りは不要だ。……限界だ、寝るぞ……」
言い終わるや否や、最強の勇者であるはずの慎也は、誰よりも早くガラスの床に倒れ込み、泥のように深い眠りに落ちてしまった。
彼もまた、精神の限界ギリギリで戦っていた一人の人間に過ぎなかったのだ。
「……ふふっ。キースライン様も、本当にお疲れだったんですね」
エリスが優しく微笑み、彼に自分のマントをかけてやる。
仲間たちも、絶対的なリーダーの寝顔に安堵し、ついに三日ぶりの深い眠りにつくのだった。
【総統通達】
読者諸君。我だ。
あの優男(慎也)め、相変わらず理屈っぽい戦い方をしていたな。我ならば一撃で粉砕していただろうに。
まあよい。今回の話に少しでも心が動いたならば、【ブックマーク】および、下部の【★★★★★】にて、我への忠誠を示せ。
良い評価は、次なる戦い(執筆)への糧となる。期待しているぞ。




