第91話 新任教師の過剰な熱量と、要求仕様を凌駕する最適解
【担当:慎也】
僕の日常がこれ以上壊れませんように……。
本編スタートです。
4月。新学期が始まって数日後の、放課後の生徒会室。
キースライン(慎也)は、自室の玉座のようにふんわりとした革張りの会長席に深く腰掛け、花憐が淹れた紅茶を優雅に楽しんでいた。
「……うむ。茶葉の抽出時間が完璧に引き出されている。素晴らしいぞ、参謀」
「ふふっ、ありがとう。会長の好みの濃さ、もう完璧にデータ化してるからね」
そんな穏やかなティータイムを切り裂くように、生徒会室のドアがバーン!と乱暴に開け放たれた。
「失礼する!! 今年度から生徒会顧問に就任した、熱血体育教師の権田だ!!」
暑苦しいジャージ姿で現れたのは、今年赴任してきたばかりの若い男性教師だった。
彼は鼻息を荒くして、腕を組んでキースラインを睨みつける。
「おい齋藤! お前が『好き勝手やっている』という噂の生徒会長だな!
俺が顧問になったからには、これまでの温いやり方は通用せんぞ! 生徒会たるもの、汗を流し、泥臭く学校のために尽くすべきだ!」
権田の怒声が室内に響き渡る。
花憐はビクッと肩を揺らしたが、キースラインは……紅茶のカップから口を離すことすらなく、ただ静かに権田を見つめ返した。
「……声のボリュームが非効率にデカい。鼓膜への無駄な振動は、思考の妨げになる。音量を落とせ」
「な、なんだと!? 教師に向かってその態度はなんだ!」
権田は顔を真っ赤にして、持っていた分厚いファイルの束を、キースラインのデスクにドサァッ!と叩きつけた。
「いいだろう、お前の実力を見せてみろ!
これは全30個ある部活動の『今年度の予算要求書』と『過去3年分の活動記録』だ!
これを全て精査し、公平で泥臭い『予算配分案』を、明日の放課後までに手書きで提出しろ! もし1円でも計算が合わなかったり、理由が不透明なら、俺はハンコを押さんからな!!」
それは、どう考えても数日はかかる膨大な事務作業だった。
新任ゆえの、「生意気な生徒会長に目にもの見せてやる」という明確な嫌がらせ(マウント)である。
しかし。
キースラインは溜息を一つ吐くと、カップをソーサーに置き、パソコンのキーボードを「ターンッ」と一度だけ叩いた。
「花憐。共有フォルダの『ドキュメント04-A』を印刷して、そこの……やかましい新任に渡してやれ」
「あ、うん。はい、権田先生」
花憐がプリンターから出力されたばかりの、綺麗に製本された数枚のレポートを権田に手渡す。
「なんだこれは? 俺は明日の放課後までにやれと……」
「……既に完了している」
キースラインは、冷たい目で権田を見据えた。
「各部活の過去5年間の大会成績、部員数の推移、学校の知名度向上に対する費用対効果(ROI)を全て数値化し、完全なアルゴリズムで予算を最適配分した最終案だ。
……ちなみに、無駄な備品を要求していた3つの部活は予算を30%カットし、全国大会有望な部活へ再投資してある。1円の狂いもない」
「は……? い、いや、しかし……手書きで、泥臭く……」
「手書き? デジタルデータが存在する現代において、人間の手による転記などという『エラー(書き損じ)を生むだけの非効率な作業』を推奨するとは、正気か? 貴様の脳は昭和で停止しているのか」
「う、ぐっ……!」
権田はレポートをめくり、そのあまりにも完璧で理路整然とした分析データに、言葉を失った。
自分が「嫌がらせ」で出したはずの課題が、そもそも彼にとっては「入学式の校長挨拶の間に終わらせていた程度の雑務」でしかなかったのだ。
「……要求仕様は完璧に満たしているはずだ。早くハンコ(承認)を押せ。それとも、私の演算に何か不備でもあるか?」
キースラインの、底知れぬ冷気と王者の威圧感。
熱血教師の権田は、完全に「格の違い」を思い知らされ、ガタガタと震える手で無言のままレポートに承認印を押した。
「……よろしい。業務が済んだなら速やかに退室しろ。……私のティータイムの邪魔だ」
「し、失礼しましたぁっ!!」
権田は脱兎のごとく生徒会室から逃げ出していった。
「……ふふっ、あはははっ!」
ドアが閉まった瞬間、花憐が堪えきれずに吹き出した。
「もう、齋藤くんってば容赦ないんだから。先生、泣きそうだったよ?」
「……無駄に喚く輩には、圧倒的な結果で口を塞ぐのが最も効率的だからな。
……さあ、紅茶が冷める前に続きを飲もうか、参謀」
どこまでもマイペースに、そして絶対的な余裕で。
最強の生徒会長の前では、大人の威圧など「ただのそよ風」に過ぎないのだった。
【事後分析報告】
読んでくれてありがとうございます。慎也です。
また僕の体が物理法則を無視した動きをしていたようですが……楽しんでいただけたでしょうか?
今後のデータの参考にするため、よろしければ「ブックマーク」と、下にある【★★★★★】で評価を入力していただけると助かります。
皆さんの応援が、僕たちの生存確率を上げます。よろしくお願いします。




