第89話 新兵への歓迎の辞と、最大の努力を支える休息のロジック
【担当:慎也】
僕の日常がこれ以上壊れませんように……。
本編スタートです。
4月。うららかな春の陽気に包まれた、県立高校の体育館。
真新しい制服に身を包んだ新入生たちが、緊張した面持ちでパイプ椅子に座っている。
プログラムは「生徒会長からの歓迎の辞」へと移った。
「生徒会代表、歓迎の辞。生徒会長、齋藤慎也」
司会の教師の声に合わせ、慎也がゆっくりと立ち上がった。
原稿用紙を持たず、一切の無駄がない洗練された歩みで壇上へと向かう。
その堂々たる覇気に、ざわついていた1年生たちが自然と静まり返った。
マイクの前に立ったキースラインは、壇上から新入生たちを冷徹な眼光で見下ろした。
「……入学おめでとう。私は生徒会長の齋藤だ」
低く、よく通る声が体育館の隅々にまで響く。
「さて、貴様ら新入生に与えられた高校生活は、今日から数えておよそ1095日だ。時間は全生徒に平等に与えられた唯一の初期装備である。
青春という名の下に、無計画に時間を浪費するのは極めて非効率で愚かな選択だ」
ぴんと張り詰めた空気が体育館を支配する。
「まず、明確な目標を設定しろ。
そして、そこへ至る最短経路を計算し、自らの能力を最大化するための『最大の努力』を惜しむな。目標に向けて全力を尽くすこと、それ自体はこの学園における絶対の前提条件だ」
厳しい言葉に、1年生たちは息を呑む。
しかし、キースラインはそこで言葉を区切り、少しだけ口元を緩めた。
「……だが、勘違いするな。
休むことなく、ただ闇雲に走り続けることが『効率』ではない」
予想外の言葉に、新入生たちが顔を上げる。
「明確な目標を設定し、最大の努力をすること。
……その上で、『適度な休息』を取ることもまた、目標達成のために不可欠なタスクだ」
キースラインは、体育館の後ろまで視線を巡らせ、力強く言い放った。
「人間の精神と肉体には限界がある。常に張り詰め、緊張し過ぎた糸はすぐに切れてしまうからだ。途中で壊れて(リタイアして)しまっては、それまでの努力の全てが無駄になる。
最大の努力を継続するためにこそ、休むべき時は全力で休め」
一瞬の静寂。
「己の限界を正しく把握し、適切な努力とメンテナンス(休息)のサイクルを回せる者こそが、最終的な勝者となる。
……この学園(領土)において、理不尽な重圧で貴様らが潰れるような非効率は、生徒会長である私が許さん。歓迎するぞ、新兵ども。……私を失望させるなよ」
ワアアアアアアッ!!!
新入生たちから、割れんばかりの拍手と大歓声が湧き起こった。
圧倒的な努力を求めながらも、それが壊れないための「休息」までを論理的に保障してくれる絶対的なリーダー。その完璧な演説に、1年生たちは完全に魅了されていた。
「……ふぅ」
壇を降りて袖に戻ってきたキースラインに、花憐がパタパタと駆け寄る。
「齋藤くん、お疲れ様! すっごくいいスピーチだったよ! 最初はどうなるかと思ったけど……厳しいだけじゃなくて、ちゃんとみんなのこと考えてくれてるのが伝わったよ」
「勘違いするな。私は単に、兵隊(生徒)の生存確率と運用効率を最大化するための『システム管理の基本』を説いただけだ」
キースラインは眼鏡(伊達)をクイッと押し上げたが、その横顔はどこか満足げだった。
「さあ、行くぞ参謀。……新入生のデータ解析と、今年度の生徒会予算の再配分が待っている」
「ふふっ、はいはい。今年も忙しくなりそうね、会長」
花憐は呆れたように笑いながらも、隣を歩く彼の頼もしい背中を誇らしげに見つめていた。
かくして、完璧なロジックで新入生の心を掌握した、最強の生徒会長の最後の1年が幕を開けたのだった。
【事後分析報告】
読んでくれてありがとうございます。慎也です。
また僕の体が物理法則を無視した動きをしていたようですが……楽しんでいただけたでしょうか?
今後のデータの参考にするため、よろしければ「ブックマーク」と、下にある【★★★★★】で評価を入力していただけると助かります。
皆さんの応援が、僕たちの生存確率を上げます。よろしくお願いします。




