第87話 桜花の視覚的バフ効果と、露店における不当な価格設定
【担当:慎也】
僕の日常がこれ以上壊れませんように……。
本編スタートです。
4月上旬。
新学期を目前に控えた春休み最後の週末、キースライン(慎也)と花憐は、市内でも有数の桜の名所である公園を訪れていた。
「わぁ……! 満開だね、齋藤くん! すっごく綺麗!」
薄紅色の花びらが舞い散る中、花憐は弾むような声で桜並木を見上げた。
「……ふむ」
キースラインは、周囲を埋め尽くす花見客の群れを鋭い眼光で睨みつけた。
「人口密度が高すぎる。歩行の動線が乱れ、移動効率が著しく低下している。……それに、たかだか植物の生殖器官(花)の開花を観察するだけで、なぜ人間はこうも群れるのだ?」
「もう、理屈っぽいなぁ。春のお祭りなんだから、楽しまなきゃ損だよ!」
花憐は彼の手を引き、並木道にズラリと並ぶ屋台(露店)の列へと向かった。
「あ、たこ焼き! 焼きそばもあるし、りんご飴も! 齋藤くん、何食べる?」
キースラインは、たこ焼きの屋台の看板(500円)を見て、鼻で笑った。
「……小麦粉と少量のタコ。原価はおよそ50円といったところか。それに10倍の価格設定を乗せるとは、暴利にも程がある。ぼったくりだ。……私は買わんぞ」
「お祭り価格なの! こういう外の空気の中で食べるから美味しいんだよ」
花憐は自分のお小遣いでたこ焼きを一つ買い、爪楊枝を二本刺した。
「ほら、齋藤くん。あーんして」
「……」
キースラインは眉をひそめたが、差し出された熱々のたこ焼きを無言で口に含んだ。
「……ッ!」
瞬間、彼の目が少しだけ見開かれる。
「……内部温度およそ80度。口腔内の粘膜にダメージを負う危険な温度設定だ。さらにソースの塩分濃度も高すぎる。……極めて非合理的だ」
文句を垂れつつも、彼はしっかりと咀嚼し、飲み込んだ。
「でも、美味しいでしょ?」
花憐がイタズラっぽく笑う。
「……味覚データとしては、悪くない。
……それに、貴様が楽しそうに食事をすることで、ストレス値の低下と幸福物質の分泌が確認できる」
キースラインは花憐の頭をポンと撫でた。
「我が参謀の士気が向上するなら、500円の投資対効果は無限大だ。……よし、次はあっちの『チョコバナナ』の原価率を検証するぞ。来い、花憐」
「ふふっ、結局食べるんじゃない」
二人は桜の下を歩きながら、焼き鳥、チョコバナナと、非合理な「買い食い」を堪能した。
やがて、少し人混みを離れた大きな枝垂れ桜の下。
風が吹き抜け、桜吹雪が二人を包み込む。
花憐の髪に、一枚の花びらがふわりと乗った。
「あ……」
キースラインがそっと手を伸ばし、彼女の髪から花びらを取り除く。
「……開花から散るまで、わずか一週間か。生存戦略としては極めて非効率で儚い植物だが……」
彼は手の中の花びらと、花憐の照れた顔を交互に見つめ、優しく微笑んだ。
「……この視覚的効果(美しさ)は、悪くない」
「……齋藤くん……」
「明日から新学期だ。我々が最上級生として、この学園(領土)を完全に掌握する最後の年になる」
キースラインは花憐の肩を抱き寄せた。
「準備はいいな、私の参謀」
「うん。……今年も、よろしくね」
満開の桜と、甘い屋台の香り。
平和な日本の春を満喫し、最強の生徒会長と副会長は、新たな戦場(3年生)へと歩みを進めるのだった。
【事後分析報告】
読んでくれてありがとうございます。慎也です。
また僕の体が物理法則を無視した動きをしていたようですが……楽しんでいただけたでしょうか?
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皆さんの応援が、僕たちの生存確率を上げます。よろしくお願いします。




