第86話 弱点属性の完全補強と、本番環境へのデプロイ前テスト
【担当:キース】
脆弱な頭脳で我が肉体を使いこなせるかな?
開戦だ。
王城の地下に広がる、王立第一鍛冶場。
そこは、王国最高の技術を持つドワーフの親方、バルカンの工房である。
「……炎耐性と、毒への状態異常耐性。この二つのパラメータを、パーティー全員分、限界まで引き上げろ」
慎也は、親方の前に広げた設計図(という名の要求仕様書)を指差して言った。
「教会の裏金は全てソフィア王女が押さえている。予算の上限は気にするな」
「ひぇぇ……勇者様、いくら予算があっても、全員に火竜の鱗を組み込んだ防具を作るなんて、重すぎて動けなくなっちまいますぜ?」
バルカンが汗を拭きながら渋い顔をする。
「重力による機動力低下は計算済みだ。……前衛には重装甲を。遊撃(ミナ、ナイル)には、防御力を多少犠牲にしてでも、耐熱・抗毒繊維を編み込んだ軽量マントを用意しろ。
……弱点を放置したまま同じ敵地に赴くなど、致命的なバグを放置したままシステムを再起動するようなものだ。私は二度と同じ轍は踏まん」
「わ、分かりやした! 徹夜で王国の蔵から最高級素材を引っ張り出してきやす!」
親方と数人の弟子たちが、ハンマーを片手に火花を散らし始める。
慎也は腕を組み、その『生産ライン』の稼働状況を満足げに見つめていた。
***
数日後。
教会の隠し財産(莫大な資金)と、王国の最高技術が結集した「対環境特化型装備」が完成した。
「おおっ! すげぇ! 全然重くねぇのに、炎を近づけても全く熱くねぇぞ!」
ガルドが、鈍く赤い光を放つ新しい胸当てを叩いて喜ぶ。
「このマント、毒気を通さない特別な魔法糸で織られてるんだって! 動きやすいし最高!」
ミナとナイルも、真新しい防具の性能に感嘆の声を上げている。
エリスには、純白のローブの裏地に、自動冷却と毒素中和の術式が精緻に組み込まれていた。
「……勇者様。お預かりした聖剣、打ち直しが終わりましたぜ」
バルカン親方が、恭しく一本の剣を差し出す。
慎也はそれを手に取り、鞘からゆっくりと引き抜いた。
シュラァッ……!
以前の白銀の輝きに加え、刀身の表面には薄く青いコーティングが施されている。
「毒火竜の熱と毒で腐食した刃を研ぎ直し、王家秘伝の『蒼氷鉱』を合金として練り込みました。これなら超高温のマグマでも熱膨張は起きやせん」
「……見事だ、バルカン。要求スペックを120%満たしている」
慎也は剣を鞘に納め、親方に向かって初めて「王」としてではなく、「客」として僅かに頭を下げた。
「よっしゃ! これで炎も毒も怖くねぇ! 今度こそ魔王領へカチコミだぜ!」
ガルドが意気揚々と拳を突き上げるが、慎也は冷ややかにその頭を小突いた。
「……愚か者め。新規装備を実装した直後に、いきなり本番環境(魔王領)へデプロイする馬鹿がどこにいる」
「いってぇ! な、なんでだよリーダー。装備は完璧なんだろ?」
「設計上のスペックと、実際の運用データは異なる。……防具の重量変化による重心のズレ、関節部の可動域の制限。これらを『実戦』で馴染ませなければ、コンマ1秒の遅れが命取りになる」
慎也は振り返り、王都の地図を広げた。
「……近場のダンジョンで、稼働テスト(チュートリアル)を行う。王都近郊の『廃硫黄鉱山』だ。あそこなら、微量の毒ガスと炎系の魔物が出る」
***
数時間後。王都から馬車で少し離れた、小規模なダンジョン「廃硫黄鉱山」。
かつては資源の採掘場だったが、有毒ガスと魔物の住処となって放棄された場所だ。魔王領の火山帯の「ミニチュア版」とも言える環境である。
「……よし、ガルド。あそこにいる『ファイア・ハウンド(炎犬)』の群れに突っ込め。防御はするな」
「はぁ!? わざと攻撃を食らえってのか!?」
「耐熱性能の限界値を測る。行け」
慎也の無慈悲な命令に、ガルドが半泣きで突撃する。
群がってきたファイア・ハウンドたちが、一斉に炎の息を吐きかけた。
ゴォォォォッ!
「うわっちぃぃぃ!? ……あれ? 熱くねぇぞ!?」
ガルドが目を丸くする。真新しい防具が赤く発光し、炎の熱を完全に遮断していた。
「……耐熱バフ、正常に作動。次、ミナ。機動力の低下を確認しろ」
「了解っ!」
ミナが身軽に岩場を跳び回る。新しいマントが風を切り、毒ガスを弾き飛ばしている。
「マントの丈が少し長いけど、ステップの邪魔にはならないよ! 関節の動きもスムーズ!」
「……ナイル、エリス。後衛の魔力循環はどうだ」
「バッチリっス! 毒の浄化に魔力を使わない分、攻撃魔法の出力が30%は上がってるっスよ!」
「私も、ローブの冷却機能のおかげで……とても呼吸が楽です。これなら、全員への支援魔法を常に展開できます」
仲間たちの動作確認を見届け、慎也は最後に自らの聖剣を抜いた。
坑道の奥から、この鉱山の主である「ベノム・スライム(巨大毒粘体)」が這い出てきた。触れたものを溶かす猛毒の塊だ。
慎也はゆっくりと構えを取る。
蒼氷鉱を組み込んだことで、聖剣の重量は以前よりわずかに増している。しかし、その分「遠心力」と「破壊力」は向上しているはずだ。
「……一撃で仕留める(ワンパン)。軌道補正、完了」
シュラァァァンッ!!
踏み込みからの、袈裟懸けの一閃。
蒼い軌跡を描いた聖剣は、巨大なスライムを両断しただけでなく、その背後にあった硬い岩盤すらも豆腐のように切り裂いた。
切断面は、剣が放つ冷気によって一瞬で凍結し、毒液の飛散を完全に防いでいた。
「……ふむ」
慎也は剣を軽く振って残心を決め、カチリと鞘に納めた。
「手首への反動は許容範囲内。切れ味は120%向上。……文句なしだ」
全員の装備が体に馴染み、それぞれの新しいポテンシャルを完全に引き出せるようになった。
「デバッグ作業は終了だ。……帰って十分な睡眠と栄養を補給するぞ」
慎也は、初めて心底満足そうな笑みを浮かべた。
「明日、最高にチューニングされた状態で、魔王領へ『再ログイン』する」
【総統通達】
読者諸君。我だ。
あの優男(慎也)め、相変わらず理屈っぽい戦い方をしていたな。我ならば一撃で粉砕していただろうに。
まあよい。今回の話に少しでも心が動いたならば、【ブックマーク】および、下部の【★★★★★】にて、我への忠誠を示せ。
良い評価は、次なる戦い(執筆)への糧となる。期待しているぞ。




