第85話 春期休暇の演算処理と、進路希望の強制同期
【担当:慎也】
僕の日常がこれ以上壊れませんように……。
本編スタートです。
3月下旬。春休み。
暖かな日差しが差し込む市立図書館の学習室で、二人は並んで机に向かっていた。
「……ふむ。歴史(過去のログ)の暗記など、検索すれば一瞬で終わるものを。人間の脳の記憶領域を無駄遣いさせる非効率なシステムだ」
慎也は不満げに呟きながらも、恐ろしい速度で日本史の参考書をめくり、次々と頭にデータを叩き込んでいく。
「静かに、齋藤くん。図書館だよ」
隣に座る花憐が、小声で注意する。
「春休みなんだし、少しは休んでもいいのに。……齋藤くんなら、もう3年生の範囲も全部終わってるでしょ?」
「戦い(受験)において『十分』という言葉はない。
……それに、今の私の主目的は自身の強化ではない」
キースラインは手元のシャープペンシルを置き、花憐の広げている数学のノートをスッと引き寄せた。
「あ……」
「……やはりな。参謀、貴様のこの数式の展開には無駄が多い。ここで因数分解を挟めば、計算プロセスを3行省略できる」
彼は花憐のノートに、美しく整った数式をスラスラと書き加えていく。
「あ、本当だ……。すごいや、齋藤くん。これならスッキリ解けるね」
花憐は尊敬の眼差しで彼を見た。
「……齋藤くんは、やっぱりT大(国内最高峰の大学)を狙うの?」
「当然だ。この国の階層構造の頂点に立つには、最高学府という肩書き(ブランド)が最も効率的な通行証になる」
キースラインは静かに、しかし絶対的な自信を持って断言した。
そして、彼は横目で花憐を見つめた。
「……貴様も、同じ場所を受験しろ。花憐」
「えっ!?」
思わず大きな声を出しかけ、花憐は慌てて口を手で覆った。
「む、無理だよ! 私の偏差値じゃ、いくら頑張ってもT大なんて……!」
「私の辞書に『不可能』というエラーコードは存在しない」
キースラインは、花憐の目を真っ直ぐに見据えた。
「貴様は私の参謀だ。……高校を卒業した程度で、その任を解くつもりは毛頭ない。
大学という新たな領土でも、貴様には私の隣で実務をこなしてもらう必要がある」
「齋藤くん……」
「貴様の基礎スペックは低くない。私が責任を持って学習計画を最適化し、強制的に引き上げてやる。……ついてこい」
それは、ただのスパルタ教育宣言ではない。
「大学に行っても、ずっと俺の側にいろ」という、彼なりの不器用で重たいプロポーズ(進路の強制同期)だった。
「……っ///」
花憐の顔が、ボンッと音を立てるように赤くなる。
こんな静かな図書館で、そんな独占欲の塊みたいなことを言われるなんて。
「……分かった。……私、頑張るよ。齋藤くんの参謀だもんね」
「ああ。期待している」
再びノートに向かう二人。
しかし、机の下では、キースラインの大きな手が、花憐の左手をそっと握っていた。
(……体温の共有。精神的安定の付与だ。……これで学習効率はさらに上がるはずだ)
彼は内心でそんな理屈をこねながらも、決してその手を離そうとはしなかった。
春の静寂な図書館。
来たるべき受験戦争に向けて、二人の足並みと未来は、しっかりと結び付けられたのだった。
【事後分析報告】
読んでくれてありがとうございます。慎也です。
また僕の体が物理法則を無視した動きをしていたようですが……楽しんでいただけたでしょうか?
今後のデータの参考にするため、よろしければ「ブックマーク」と、下にある【★★★★★】で評価を入力していただけると助かります。
皆さんの応援が、僕たちの生存確率を上げます。よろしくお願いします。




