第109話 ハードウェア(高身長)の優位性と、高層ルーティング(オーバーヘッドパス)の徹底
【担当:慎也】
僕の日常がこれ以上壊れませんように……。
本編スタートです。
6月中旬。
長距離部と文芸部の劇的な改善により、生徒会への各部からの相談が急増する中、花憐は「最重要課題」と書かれたファイルをデスクに置いた。
「齋藤くん、これが最後のテコ入れ案件よ。……『男子バスケットボール部』」
「……体育館のネットワークか。現状のエラー(戦績)は?」
「県大会には出場できるレベルなんだけど、いつも後半戦で逆転負けしちゃうの。うちには『10年に1人の天才』って呼ばれてるエースの流川くんがいるし、他のスタメンも平均身長が185cm以上あって、県内トップクラスの高さがあるはずなんだけど……」
「……なるほど。優秀なメインプロセッサ(エース)と、高スペックなハードウェア(身長)を揃えながら、結果を出せないと。行くぞ花憐、体育館だ」
――放課後の体育館。
バッシュが床を擦る甲高い音と、ドリブルの音が響き渡っていた。
紅白戦の真っ最中。エースの流川が華麗なドリブルで切り込んで得点を重ねる一方で、他の長身選手たちは、セオリー通りに姿勢を低くしてドリブルをつき、素早いバウンドパスを回そうとしていた。
しかし、動きの素早い小柄なディフェンス陣に足元を狙われ、あっさりとボールをカット(スティール)されて逆襲を食らっている。
「……見ろ。エラーの原因は明白だ」
慎也は冷徹な目で、コートの惨状を一瞥した。
「えっ? やっぱり流川くんに頼りすぎてるから?」
「いや、エースという強力なアプリケーション(武器)に依存すること自体は、戦術として間違っていない。問題は、他のノード(選手)の『通信プロトコル(パスの回し方)』だ」
ピーッ!
慎也はコートの脇にあったホイッスルを取り上げ、容赦なく強く吹き鳴らした。
「そこまでだ。非効率極まりない動作確認は即刻中止しろ」
「せ、生徒会長!? 今、大事な練習中で……」
汗だくになったバスケ部主将が駆け寄ってくる。
「貴様らの敗因は、己の『物理的スペック(ハードウェア)』を全く理解していないことだ」
慎也は冷たく言い放ち、選手たちを見回した。
「貴様らは平均身長185cmを超える大型チームだ。それなのに、なぜわざわざ敵の手が届く『グラウンドレベル』でドリブルをつき、低いパスを回している?
有線ケーブル(低いパス)を地面に這わせれば、当然、動きの素早い敵に傍受される確率が上がるだろう」
「で、ですが会長! バスケの基本は、姿勢を低くしてボールをキープすることです! 教科書にもそう書いてあります!」
主将が反論するが、慎也はタブレットの画面を彼に突きつけた。
「それは『平均的な身長のチーム』を前提とした汎用OSの話だ。貴様らのような特化型ハードウェア(高身長)には、それに適した専用の戦術をインストールしなければ宝の持ち腐れだ」
「専用の戦術……?」
「そうだ。今日から、敵陣へのボールの運搬において、足元でのドリブルとバウンドパスを一切禁ずる」
慎也の極端な指示に、選手たちがどよめく。
「貴様らには『高さ』という絶対的なアドバンテージがある。ならば、常にボールを頭上でキープし、高い打点からの『オーバーヘッドパス』だけでゴール下までボールを運べ。
……わざわざ敵のいる低い位置へボールを落とすな。敵の手の届かない『高層ネットワーク(空中)』だけを使って、最短距離でゴールへデータを転送するのだ」
「オーバーヘッドパスだけで……運ぶ!?」
「そんなこと、セオリーから外れすぎてます!」
「セオリー(常識)など物理法則の前には無力だ。小柄な敵がどれほど素早くとも、物理的に手が届かない空間(高さ)を通るパスは絶対にカットできない。
全員で高層パスを回して確実にゴール下まで運び、そこからエースの流川にフィニッシュさせればいい。無駄なドリブル(処理)を省けば、ターンオーバー(パケットロス)は激減し、エースの体力も温存される」
慎也の提案は、バスケの常識を根底から覆すものだった。しかし、「背が高いのだから、高いところだけでパスを回せば取られない」という、身も蓋もないほどシンプルで絶対的な物理のロジックに、選手たちは反論の言葉を見失った。
――数週間後の、県大会準々決勝。
生徒会室のパソコンで、試合の速報を確認していた花憐が、パァッと顔を輝かせた。
「齋藤くん、勝ったわ! バスケ部、ついにベスト4進出よ!」
「……戦術は正常に機能したようだな」
「ええ! 相手校はすばしっこいチームだったみたいなんだけど、うちの部員たち、ずっと頭の上でパスを回して、敵に一度もボールを触らせずにゴール下まで運んだって! 相手の監督も『あんな非常識なバスケがあるか!』って呆然としてたらしいわ!」
「……当然の結果だ。自らのハードウェア(物理)の優位性を理解し、それに最適化したシステムは、小手先のセオリーなど容易く粉砕する」
慎也はタブレットの画面を閉じ、紅茶のカップを傾けた。
「お疲れ様、齋藤くん! これで生徒会の支持率も盤石ね!」
独自の視点と絶対的なロジックで学園のバグを取り除いていくキースライン。
彼の「管理者権限」による最適化により、低迷していた部活は次々と目を覚まし、学園全体のパフォーマンスはかつてない高みへと到達しようとしていた。
【事後分析報告】
読んでくれてありがとうございます。慎也です。
また僕の体が物理法則を無視した動きをしていたようですが……楽しんでいただけたでしょうか?
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