第108話 相互チューニング(同期最適化)と、未帰還ログが告げるタイムリミット
【担当:キース】
脆弱な頭脳で我が肉体を使いこなせるかな?
開戦だ。
入り組んだ峡谷の、薄暗い洞窟の中。
外からは、魔王軍の捜索隊が草木をかき分け、岩を叩く重々しい足音が断続的に響いていた。
慎也はエリスの正面に座り、彼女の両手と自分の手を重ね合わせていた。二人の額には、濃密な魔力制御による汗が滲んでいる。これがすでに、十数回目の試行だった。
「……リーダー。また来たぜ。五体ほどの小部隊だ」
洞窟の入り口の影に潜んでいたガルドが、声を殺して合図を送る。
「よし、実戦環境でのテストを再開する。……エリス、行くぞ」
「はい……!」
慎也が自らの極低温の魔力を立ち上げ、エリスがそれを包み込むように聖なる魔力を展開する。しかし、意識を合わせ、異なる魔力の波長を編み込んでいくこの作業には、どうしても「数秒」のタイムラグが発生してしまう。
「……遅い! 発動!」
構築に約4秒。放たれた蒼い閃光は、洞窟の前を通りかかったオークたちを氷漬けにしたが、その氷はひび割れ、数体は完全に凍りきる前に悲鳴を上げそうになっていた。ガルドが慌てて斧の峰で殴って気絶させる。
「……クソッ。構築速度が遅すぎる」
慎也は忌々しそうに舌打ちをした。
「実戦の乱戦中において、発動に4秒もかかれば、その間に首を三回は刎ねられる。……それに今の出力、氷の密度にムラがあったな」
「すみません、私の波長で包み込むタイミングが、わずかに遅れて……」
「いや、貴様のせいではない。私のミスだ」
謝罪するエリスを、慎也は首を振って遮った。
「私が威力を出そうと焦るあまり、初期の魔力立ち上げ(スタートアップ)の数値を急激に跳ね上げすぎた。そのせいで貴様の魔力が追いつかず、被膜にムラができたのだ。……同調とは双方向のプロトコルだ。私が貴様の出力ペースに合わせるよう、変数を調整する」
圧倒的な力を持つがゆえに、どうしても「自分が引っ張る」というワンマンな処理を行いがちだった慎也。だが、この合体魔法においては、相手を信頼し、自分の歩幅を合わせるという「相互のチューニング」が不可欠だったのだ。
「キースライン様……」
「次は立ち上げを0.5秒遅らせる。貴様はその間に魔力の膜を展開し、私がそこに滑り込む。……発動までの目標タイムは、1秒以内だ」
「おい、リーダー。悠長にやってる時間はねぇぞ」
ガルドが洞窟の外を睨みながら、焦燥感を滲ませる。
「さっきから、索敵に出てた連中が戻ってこねぇことに、敵の本隊が気づき始めてる。動きが慌ただしくなってきたぜ」
「……未帰還の部隊(通信途絶)が重なれば、敵の指揮官は地図上の『応答のない区画』を塗りつぶし、我々の位置を徐々に絞り込んでくる。……タイムリミットが近いな」
慎也は思考を加速させる。焦りは禁物だが、時間は確実に削られている。
「次で決めるぞ、エリス。……息を合わせろ」
「はい……!」
ほどなくして、前の部隊を探しにきた新たな捜索隊十体が、洞窟の前に差し掛かる。
慎也とエリスは、互いの目を見つめ合った。言葉での指示は出さない。互いの呼吸と、重ね合わせた掌の温度だけをトリガーにする。
――今。
エリスが先行して聖なる魔力の膜を展開した瞬間、慎也は自分の出力を完璧にコントロールし、その内側へと蒼い魔力を滑り込ませた。二つの波長が、一切の反発もなく、一つの巨大な「特異点」として融合する。
構築時間、0.8秒。
シュラァァァァァァァァァッ!!
放たれた閃光は、先ほどまでのムラのある輝きとは全く別次元の、澄み切った絶対零度の極光だった。
音もなく洞窟を抜け、外のオークたちを瞬時に、そして完璧なクリスタルの彫像へと変える。
「……完了だ。発動速度、威力、共に実戦値を満たした」
慎也は掌から熱が引いていくのを感じながら、静かに立ち上がった。エリスも、確かな手応えに力強く頷く。
「敵さんがここを完全に特定するまで、あと数分ってとこか」
ガルドが大斧を構え、ナイルとミナもそれぞれの武器を手に取った。
「ああ。だが、もはや隠れ潜む必要はない。……未帰還ログを辿って奴らが包囲の輪を縮め切った瞬間、最も敵が密集している場所に向けて、こちらからこの『完成形』をぶち込む」
迫り来る数千の包囲網。しかし、試行錯誤と相互の歩み寄りによって完成した「最速にして最強の合体魔法」を手にした勇者一行の目に、もはや恐怖の色はなかった。
【総統通達】
読者諸君。我だ。
あの優男(慎也)め、相変わらず理屈っぽい戦い方をしていたな。我ならば一撃で粉砕していただろうに。
まあよい。今回の話に少しでも心が動いたならば、【ブックマーク】および、下部の【★★★★★】にて、我への忠誠を示せ。
良い評価は、次なる戦い(執筆)への糧となる。期待しているぞ。




