第107話 過剰な演算負荷(重厚な設定)の排除と、ユーザー体験(UX)の最適化
【担当:慎也】
僕の日常がこれ以上壊れませんように……。
本編スタートです。
6月上旬。
長距離部の劇的なタイム向上(最適化)によって生徒会への支持率が急上昇する中、花憐は次なるテコ入れ対象の資料をデスクに広げた。
「齋藤くん、次の課題はここよ。……『文芸部』」
「……文芸部だと?」
慎也は、花憐が差し出した分厚い部誌の束を手に取った。文字がページ端までびっしりと詰め込まれている。
「部員数はそこそこいるんだけど、この部誌、学内で全く読まれていないの。ネットの小説投稿サイトにも出してるらしいんだけど、そっちも閲覧数が絶望的みたい」
「……どれ、ソースコード(作品)を拝見しよう」
慎也は一番新しい部誌を開き、数ページに目を通すと、呆れたようにため息を吐いた。
「……読まれないのは当然だ。エンドユーザー(読者)に対する『認知負荷』が高すぎる」
「にんちふか?」
「そうだ」
慎也は部誌を机に置き、立ち上がった。
「行くぞ花憐。……この部活の『致命的なプロダクトアウト(作り手よがり)』の病を治療しに行く」
――放課後の図書室の奥、文芸部の活動スペース。
ノートパソコンに向かい、眉間に皺を寄せて重厚な世界観を練り上げている部員たちの前に、生徒会長が現れた。
「せ、生徒会長……!? もしかして、部費の削減勧告ですか……!」
青ざめる文芸部長に対し、慎也は彼らが投稿サイトにアップしている小説の画面を指差した。
「貴様らの作品をプロファイリングした。結論から言う。……テキストのデータ量が重すぎる。設定の羅列(ログの垂れ流し)ばかりで、読者の処理能力(脳)を無駄に占有している」
「なっ……! 我々は緻密で論理的な、重厚なハイファンタジーを描いているんです! 今の流行りのような、中身のない軽い小説と一緒にしないでください!」
プライドを刺激された部長が反論するが、慎也は冷たく一蹴した。
「その『作り手の自己満足』が、アクセス数ゼロというエラーコードを生んでいるのだ」
慎也はホワイトボードの前に立ち、マーカーを手にした。
「ターゲットユーザーを想定しろ。現代の若者、特に高校生たちは、通学中の電車内やスキマ時間にスマートフォンの小さな画面でコンテンツを消費している。彼らが求めているのは、脳のメモリを酷使する難解なパズルではない。……『ストレスフリーで、即座に報酬が得られる快適なUX(ユーザー体験)』だ」
「ス、ストレスフリー……」
「そうだ。貴様らの作品は、ページを開いた瞬間に重厚な歴史背景(過剰なインプット)を要求してくる。そんな重いアプリケーションは、立ち上げの数秒でアンインストール(ブラウザバック)されるのがオチだ」
慎也はマーカーを置き、文芸部長を真っ直ぐに見据えた。
「今日から、出力フォーマットを完全に『ライト』な仕様へとアップデートしろ。
一文を短くし、空白(余白)を恐れるな。読者に考えさせるな。主人公の目的をシンプルにし、行動と結果を最速で描け。……読みやすさ(UI)の洗練こそが、最大のエンターテインメントだと知れ」
「……っ! で、でも、それでは僕たちの書きたい深みが……!」
「深み(バックエンドの設定)は、完全に隠蔽(カプセル化)しておけ。読者がその世界に定着(アクティブ化)し、自ら奥へ進みたいと望んだ時にだけ、小出しにして提示すればいい。……入り口のハードルを極限まで下げるのだ」
慎也のロジックは、芸術性よりも「ユーザー行動の最適化」を徹底していた。しかし、その身も蓋もないほどの実利的なアドバイスが、読者飢えしていた部員たちに「新しい仕様書」として深く突き刺さった。
――数週間後。
文芸部がネットの投稿サイトにアップした新作のアクセス推移データが、生徒会室のモニターに表示されていた。
「すごいわ齋藤くん……! アクセス数が前の何百倍にも跳ね上がってる! 『サクサク読めてスッキリする!』『ストレスがなくて最高!』って、大人気よ!」
花憐がモニターを見ながら歓声を上げる。
「……当然の結果だ。どんなに優れたコード(設定)を組もうと、ユーザーが実行(閲覧)してくれなければ、それはただの無意味な文字列に過ぎない。……彼らもようやく、需要に対する正しい出力の形を理解したようだな」
文芸部が「ライトノベル」という形式で学園内外にファンを獲得し始めたことを確認し、慎也は紅茶のカップを傾けながら、微かに満足げな笑みを浮かべた。
自己満足という名のバグは排除され、生徒たちのリソースは、また一つ正しく最適化されたのだった。
いかがでしょうか!
【事後分析報告】
読んでくれてありがとうございます。慎也です。
また僕の体が物理法則を無視した動きをしていたようですが……楽しんでいただけたでしょうか?
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皆さんの応援が、僕たちの生存確率を上げます。よろしくお願いします。




