表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
107/129

第107話 過剰な演算負荷(重厚な設定)の排除と、ユーザー体験(UX)の最適化

【担当:慎也】

僕の日常がこれ以上壊れませんように……。

本編スタートです。




 6月上旬。

 長距離部の劇的なタイム向上(最適化)によって生徒会への支持率が急上昇する中、花憐は次なるテコ入れ対象の資料をデスクに広げた。


「齋藤くん、次の課題タスクはここよ。……『文芸部』」

「……文芸部だと?」


 慎也キースラインは、花憐が差し出した分厚い部誌アンソロジーの束を手に取った。文字がページ端までびっしりと詰め込まれている。


「部員数はそこそこいるんだけど、この部誌、学内で全く読まれていないの。ネットの小説投稿サイトにも出してるらしいんだけど、そっちも閲覧数アクセスが絶望的みたい」

「……どれ、ソースコード(作品)を拝見しよう」


 慎也は一番新しい部誌を開き、数ページに目を通すと、呆れたようにため息を吐いた。


「……読まれないのは当然だ。エンドユーザー(読者)に対する『認知負荷』が高すぎる」

「にんちふか?」

「そうだ」


 慎也は部誌を机に置き、立ち上がった。


「行くぞ花憐。……この部活の『致命的なプロダクトアウト(作り手よがり)』の病を治療しに行く」


 ――放課後の図書室の奥、文芸部の活動スペース。

 ノートパソコンに向かい、眉間に皺を寄せて重厚な世界観を練り上げている部員たちの前に、生徒会長が現れた。


「せ、生徒会長……!? もしかして、部費の削減勧告ですか……!」


 青ざめる文芸部長に対し、慎也は彼らが投稿サイトにアップしている小説の画面を指差した。


「貴様らの作品をプロファイリングした。結論から言う。……テキストのデータ量が重すぎる。設定の羅列(ログの垂れ流し)ばかりで、読者の処理能力(脳)を無駄に占有している」

「なっ……! 我々は緻密で論理的な、重厚なハイファンタジーを描いているんです! 今の流行りのような、中身のない軽い小説と一緒にしないでください!」


 プライドを刺激された部長が反論するが、慎也は冷たく一蹴した。


「その『作り手の自己満足』が、アクセス数ゼロというエラーコードを生んでいるのだ」


 慎也はホワイトボードの前に立ち、マーカーを手にした。


「ターゲットユーザーを想定しろ。現代の若者、特に高校生たちは、通学中の電車内やスキマ時間にスマートフォンの小さな画面でコンテンツを消費している。彼らが求めているのは、脳のメモリを酷使する難解なパズルではない。……『ストレスフリーで、即座に報酬カタルシスが得られる快適なUX(ユーザー体験)』だ」

「ス、ストレスフリー……」

「そうだ。貴様らの作品は、ページを開いた瞬間に重厚な歴史背景(過剰なインプット)を要求してくる。そんな重いアプリケーションは、立ち上げの数秒でアンインストール(ブラウザバック)されるのがオチだ」


 慎也はマーカーを置き、文芸部長を真っ直ぐに見据えた。


「今日から、出力フォーマットを完全に『ライト』な仕様へとアップデートしろ。

 一文を短くし、空白(余白)を恐れるな。読者に考えさせるな。主人公の目的をシンプルにし、行動と結果レスポンスを最速で描け。……読みやすさ(UI)の洗練こそが、最大のエンターテインメントだと知れ」

「……っ! で、でも、それでは僕たちの書きたい深みが……!」

「深み(バックエンドの設定)は、完全に隠蔽(カプセル化)しておけ。読者がその世界に定着(アクティブ化)し、自ら奥へ進みたいと望んだ時にだけ、小出しにして提示すればいい。……入り口のハードルを極限まで下げるのだ」


 慎也のロジックは、芸術性よりも「ユーザー行動の最適化」を徹底していた。しかし、その身も蓋もないほどの実利的なアドバイスが、読者飢えしていた部員たちに「新しい仕様書」として深く突き刺さった。


 ――数週間後。

 文芸部がネットの投稿サイトにアップした新作のアクセス推移データが、生徒会室のモニターに表示されていた。


「すごいわ齋藤くん……! アクセス数が前の何百倍にも跳ね上がってる! 『サクサク読めてスッキリする!』『ストレスがなくて最高!』って、大人気よ!」


 花憐がモニターを見ながら歓声を上げる。


「……当然の結果だ。どんなに優れたコード(設定)を組もうと、ユーザーが実行(閲覧)してくれなければ、それはただの無意味な文字列ゴミに過ぎない。……彼らもようやく、需要ニーズに対する正しい出力アウトプットの形を理解したようだな」


 文芸部が「ライトノベル」という形式で学園内外にファンを獲得し始めたことを確認し、慎也は紅茶のカップを傾けながら、微かに満足げな笑みを浮かべた。


 自己満足という名のバグは排除され、生徒たちのリソースは、また一つ正しく最適化されたのだった。

いかがでしょうか!


【事後分析報告】

読んでくれてありがとうございます。慎也です。

また僕の体が物理法則を無視した動きをしていたようですが……楽しんでいただけたでしょうか?


今後のデータの参考にするため、よろしければ「ブックマーク」と、下にある【★★★★★】で評価を入力していただけると助かります。


皆さんの応援エネルギーが、僕たちの生存確率を上げます。よろしくお願いします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ