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第110話 動的同期のジッタ(揺らぎ)と、戦場でのホットパッチ適用

【担当:キース】

脆弱な頭脳で我が肉体を使いこなせるかな?

開戦だ。



 峡谷の出口が、黒い鉄の奔流に埋め尽くされた。

 魔族の将軍が率いる本隊数千。未帰還部隊のログから潜伏エリアを完全に絞り込み、彼らは逃げ場のない「袋の鼠」の状態を作り上げていた。


『……見つけたぞ、勇者共。もはや隠れる場所などない。その首、魔王様への献上品として受け取らせてもらう!』


 将軍が掲げる「五角柱の石」が、これまでになく禍々しい光を放つ。慎也キースラインの魔力波長をピンポイントで捉え、その出力を削り落とす「減衰結界」が、峡谷全体を包み込んだ。


「……計算通りだ。包囲網が最も密になったこの瞬間こそ、最大の殲滅効率スループットを発揮できる。エリス、行くぞ」

「はい……!」


 慎也はエリスの背後に立ち、彼女の肩越しに手を重ねた。

 洞窟でのテストは繰り返した。波長の同期シンクロも理論上は完璧なはずだった。


「複合演算魔法――『聖氷の特異点』。実行ラン!」


 二人の魔力が融合し、螺旋を描いて聖剣の先へと集束する。

 だが、放たれる直前、閃光は激しく明滅し、パシュッ……と虚しい音を立てて霧散してしまった。


「なっ……不発エラー!? なぜだ!」


 慎也は目を見開いた。


『ハハハハ! 無駄だと言ったはずだ! 私の目の前で、そんな不確かな策が通用すると思うたか!』


 将軍の号令で、オークの重装歩兵が一斉に突撃してくる。


「クソッ、時間を稼ぐ! 走れ、ナイル、ミナ!!」


 ガルドが大斧を叩きつけ、突撃してきたオークを強引に押し戻す。しかし、慎也の広域殲滅が機能しない以上、数千の物量を前には焼け石に水だ。


「……ッ、何がエラー原因だ!? 回路は正常、魔力供給も安定している!」


 慎也は激しい乱戦の中、オークの剣を紙一重でかわしながら、死に物狂いで頭脳を回転させた。


(洞窟でのテスト(デバッグ環境)と何が違う? ……振動、心拍数、そしてこの殺気! 静止状態での同期は成功しても、移動と回避を繰り返す戦場(実稼働環境)では、互いの魔力波長に『ジッタ(時間的な揺らぎ)』が発生している!)


「エリス! 貴様の魔力、0.01秒単位で周期がズレている! 恐怖で心拍数が上がり、同期信号がドリフト(逸脱)しているんだ!」

「すみません……っ、でも、体が勝手に……!」


 エリスも必死に杖を構えるが、迫り来る魔族の刃に、精神的な平穏(クロックの安定)が保てない。


「……修正パッチを当てる! エリス、私の左手に貴様の右手を固定しろ! 物理的な接触を増やして、強制的に波長を同期させる(ハードウェア・シンク)!」


 慎也はエリスの腰を引き寄せ、密着した状態で左手と右手を繋ぎ合わせた。

 目の前には、将軍が乗る巨大な魔獣が、二人を踏み潰そうと迫っている。


「ガルド、耐えろ! あと3秒で同期させる!」

「言ってくれるぜ……腕がちぎれそうだ、早くしろ!!」


 ガルドの盾がひび割れ、ナイルの短剣が折れる。

 極限のプレッシャー。その中で、慎也は自らの魔力回路を極限までエリスの「揺らぎ」に寄り添わせた。相手を制御するのではなく、相手の不安定さすら受け入れ、そのリズムに合わせて自らの波長を動的に変化させる(ダイナミック・チューニング)。


(……噛み合った。今だ!)

「……再試行リトライ!!」


 二人の繋いだ手から、今度こそ、純白と蒼が混ざり合った「特異点」が生まれた。

 減衰の石が黒い光を放ち、必死にその魔力を削ろうとするが、激しく変調し続ける二人の複合波長を捉えきれず、判定エラー(レジスト失敗)を連発する。


 ズガァァァァァァァァァァンッ!!!

 解き放たれた極光が、峡谷を真っ白に染め上げた。

 将軍の持つ石が粉々に砕け散り、その衝撃波は前線のオーク数千を、一瞬にして音のない氷の彫像へと変えていく。


『ば、馬鹿な……! 我が「減衰の魔石」が、真っ向から打ち破られるなど……っ!』


 将軍は氷結の余波で魔獣から転げ落ち、変わり果てた自軍の惨状を見て、初めてその顔に「恐怖」を浮かべた。


「……ふぅ。……リリースまでに、随分と手こずらせてくれたな」


 慎也は荒い息を吐きながら、まだ繋がっていたエリスの手を、今度はゆっくりと離した。


「成功……しましたね、キースライン様」


 エリスはその場にへたり込みそうになりながらも、安堵の笑みを浮かべた。


「ああ。……だが、まだ歩留まり(成功率)が低い。本番(魔王戦)までに、さらなる最適化が必要だ」


 慎也は冷たく言い放ち、命からがら逃げ出そうとする将軍を一瞥した。

 牙を取り戻した勇者一行。彼らの前には、もはや数による暴力も、小手先の対策も通用しない。

 頭脳と絆が産み落とした「最強のパッチ」が、魔王軍の牙城を、今度こそ根底から揺るがし始めていた。


【総統通達】

読者諸君。我だ。

あの優男(慎也)め、相変わらず理屈っぽい戦い方をしていたな。我ならば一撃で粉砕していただろうに。


まあよい。今回の話に少しでも心が動いたならば、【ブックマーク】および、下部の【★★★★★】にて、我への忠誠を示せ。


良い評価は、次なる戦い(執筆)への糧となる。期待しているぞ。


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