第105話 根性論(バグ)の排除と、生体リソースの徹底管理(ログ解析)
【担当:慎也】
僕の日常がこれ以上壊れませんように……。
本編スタートです。
5月下旬。中間試験も終わり、学園は夏の大会に向けて部活動が本格化する時期を迎えていた。
放課後の生徒会室で、花憐は数枚の書類を並べてため息をついた。
「ねえ、齋藤くん。各部活の活動報告書をまとめたんだけど……いくつか、成績が極端に低迷している部活があるの。生徒会からの活動費(予算)を割り振る以上、テコ入れが必要だと思うんだけど」
「……フム。システム(学園)全体のパフォーマンスを底上げするためには、ボトルネックとなっているプロセスの改善は必須だな。まずはどこだ」
慎也が書類を手に取る。
「陸上部の『長距離走部門』よ。部員数はそこそこいるのに、最近は大会でのタイムが落ちる一方で、怪我人も続出してるみたいなの」
「……なるほど。現場の状況を直接プロファイリングしに行くぞ、参謀」
二人がグラウンドへ向かってみると、そこでは陸上部の長距離陣が、汗と泥にまみれながらトラックを走っていた。
しかし、その様子は異様だった。部長らしき大柄な男子生徒が「気合だ! 根性を見せろ! 限界を超えろ!」と怒鳴り散らし、部員たちはペースも何もあったものではなく、ただがむしゃらに全速力で走り、次々とトラックの脇に倒れ込んで嘔吐していたのだ。
「……ひどい有様だな。あれではただのハードウェアの破壊行為だ」
慎也は冷ややかな目で、その惨状を一瞥した。
「あっ、生徒会長! 副会長も!」
部長が二人に気づき、慌てて駆け寄ってくる。
「視察ですか! 見てください、うちの部員たちのこの熱いガッツ! 毎日倒れるまで走らせて、精神を鍛え上げているんです!」
「……馬鹿な男だ。貴様は生体ユニット(肉体)を使い捨てのパーツか何かと勘違いしているのか」
「えっ……?」
慎也は伊達眼鏡をクイッと押し上げ、倒れ込んでいる部員たちを顎でしゃくった。
「ペース配分もせず、序盤から最大出力でエンジンを回し続ければ、当然熱暴走を起こしてシステムは停止する。貴様がやっているのはトレーニングではない。単なる『リソースの無駄遣い』と『自己満足の精神論』だ」
「なっ……! 長距離走は己との戦いです! 根性がなけりゃタイムは縮まないんですよ!」
「……精神論など、物理演算の前では何の意味も持たない」
慎也は手元のタブレット端末(生徒会用)を開き、冷徹に言い放った。
「真の持久力向上に必要なのは、気合ではなく『正確なログの収集と解析』だ。
……私も毎日、自らの健康管理と大型生体ユニット(レオ)のメンテナンスのために、一定のルートを歩いているが、その際は必ず『距離』『所要時間』『その日のスタミナの消耗度合い』を厳密に記録している。データを蓄積しなければ、己の適正な巡航速度など割り出せるはずがない」
「距、離と、時間……?」
「そうだ。今日から貴様の部の練習メニューを根本から書き換える(アップデートする)。
全速力で倒れるまで走る非効率なタスクは即刻中止しろ。部員全員にスマートウォッチを支給し、毎日の走行距離、タイム、そして心拍数を完全にデータ化しろ。限界の少し手前――最もエネルギー効率の良い最適なペースを算出し、それを徹底的に体に刻み込ませるのだ」
慎也のあまりにも理路整然としたロジックと、有無を言わさぬ王の威圧感の前に、根性論の部長は完全に圧倒され、コクコクと頷くことしかできなかった。
――それから一ヶ月後。
長距離部門の部員たちの腕には、生徒会予算で導入された活動量計が光っていた。
「よし、今日はキロ4分30秒のペースを維持! 心拍数150を超えたら少し落とせ! 自分のデータ(ログ)を信じろ!」
かつて怒鳴り散らしていた部長は、今やタブレット片手に部員たちのデータを管理する立派な「システム管理者」へと変貌していた。
無駄なオーバーヒートを避けることで怪我人はゼロになり、蓄積されたデータに基づいた最適なペーシングにより、部員全員の平均タイムが劇的に向上するという結果(エラー解消)をもたらした。
「すごいよ齋藤くん! 陸上部、夏の予選でシード権を獲得したんだって!」
生徒会室で、花憐が報告書を見ながら嬉しそうに微笑んだ。
「……当然の結果だ。人間の肉体も、適切な入力と負荷管理を行えば、必ず期待通りの出力を返す。……さて、長距離部のデバッグは完了した。次の低迷を起こしている部活のデータを提示しろ、花憐」
「はいっ、会長!」
学園のあらゆる非効率を、圧倒的なロジックで最適化していくキースライン。
生徒会という名の「管理者権限」を手にした二人の学園改革は、まだ始まったばかりだった。
【事後分析報告】
読んでくれてありがとうございます。慎也です。
また僕の体が物理法則を無視した動きをしていたようですが……楽しんでいただけたでしょうか?
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