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第104話 魔力波長のサンプリングと、有能なる敵将の追撃

【担当:キース】

脆弱な頭脳で我が肉体を使いこなせるかな?

開戦だ。



 魔王城への進路を塞ぐ荒涼とした岩山地帯。

 数日前から、勇者一行は奇妙な戦闘を繰り返していた。数十体の魔族の小部隊が現れては襲いかかってくるのだが、慎也キースラインが聖剣で一閃すると、彼らは深追いせずにクモの子を散らすように撤退していくのだ。


「……また逃げやがった。なんだってんだ、あいつら」


 ガルドが大斧を肩に担ぎ直し、忌々しそうに吐き捨てる。


「まともに打ち合う気もねぇのに、ちょこちょこ出てきやがって。単なる嫌がらせかよ」

「……戦力リソースの逐次投入。全くもって非効率な戦術だ。意図が読めんな」


 慎也は聖剣の刃についた汚れを払いながら、淡々と呟いた。敵の指揮官の意図は不明だが、実害がない以上、立ち止まる理由はない。


 しかし、その「意図」は、最悪の形で一行の前に姿を現した。


 地平線の彼方から、突如として凄まじい地鳴りが響き渡る。

 岩肌を埋め尽くす重装甲のオーク、空を覆うガーゴイル。数千からなる魔王軍の正規軍が、完全に陣形を整えて一行の前に立ち塞がった。


『……来たな、勇者一行』


 軍勢の先頭、巨大な魔獣に跨る魔族の将軍が、冷酷な目で慎也を見下ろしていた。

 その将軍の手には、淡く黒い光を放つ「五角柱の奇妙な石」が握られている。将軍は長々と名乗ることも、作戦を語ることもしなかった。ただ、自らの軍勢に向けて短く、無慈悲な命令を下した。


『蹂躙せよ』


 ウオォォォォォォッ!!

 数千の魔王軍が、一斉に殺到してくる。


「大軍のお出ましってわけか! 行くぜリーダー!」

「……ああ。一掃クリアするぞ」


 慎也は前に進み出ると、いつものように聖剣に極低温の魔力を練り上げた。

 対象範囲、前方120度。出力、最大。


 ――『絶対零度の閃光』。

 シュラァッ……!

 放たれた蒼い衝撃波が地を這う。

 だが、将軍の持つ五角柱の石が黒く明滅した瞬間。

 数百の魔族を一瞬で氷塊に変えるはずの絶対零度の嵐が、目に見えて急激に勢いを失った。完全に消滅したわけではない。しかし、最前列のオークたちの盾に「薄い霜」を張らせ、僅かに足止めする程度の弱々しい冷気へと成り下がってしまったのだ。


「……なにっ!?」


 慎也は目を見開いた。魔力が暴発したわけではない。自分の放った魔力が、空間そのものに「抵抗」を受け、出力を大幅に削り落とされた感覚。

 その隙を突き、霜を払いのけたオークたちが一斉に慎也へと襲いかかる。


「リーダー!!」


 ガルドが横から割り込み、大斧でオークの巨体を吹き飛ばす。


「キースライン様!」


 エリスの光の矢が、上空のガーゴイルを正確に撃ち落とす。

 ガルドの物理攻撃も、エリスの魔法も、普段通りの威力を保っている。

 異常が起きているのは「慎也の力」だけだった。


(……魔力が強制的に減衰アッテネートさせられている。完全に無効化するほどのチートアイテムではないが、出力を数分の一にまで抑え込む『重り』のような結界……!)

 極限の思考加速の中で、慎也の脳裏に、ここ数日の「非効率な小部隊の襲撃」のログがフラッシュバックする。

 すぐに逃げる部隊。自分の魔力に触れた直後の撤退。


(……サンプリング(データ収集)か!!)

 慎也は歯を食いしばった。

 奴らの目的は足止めなどではなかった。慎也という規格外の勇者の「魔力波長」を正確に測定するための、命懸けのデータ収集。


 そしてあの石は、収集したデータをもとに造り出された、慎也の魔力波長『だけ』をピンポイントで減衰させる専用のフィルター。


「……ガルド! エリス! 全員、撤退だ!!」

「えっ!? 逃げるのかよ!?」

「私のメイン火力(AoE)が著しく制限されている! 貴様らの個別撃破シングルタスクだけでは、この物量を捌ききれん!」


 これ以上前線に留まるのは、ジリ貧による全滅システム・クラッシュへのカウントダウンでしかない。

 慎也の悲痛なまでの叫びに、仲間たちは事態の異常性を察知した。


「ナイル! 煙幕だ!」

「了解っス!!」


 ナイルが地面に特殊な煙玉を叩きつける。視界を奪う爆発的な黒煙が広がる中、慎也たちは敵軍の包囲網が完全に閉じる前に、後方の入り組んだ峡谷へと身を翻した。


『……何という決断の速さだ』


 黒煙の向こう側で、魔族の将軍が驚愕に目を見開いていた。


『己の優位性が崩れたと悟るや否や、勇者としての矜持すら捨てて、即座に損切り(撤退)を選ぶか……。あの状況で最善の生存ルートを弾き出すとは、恐るべき男よ!』


 将軍は即座に剣を振り下ろした。


『だからこそ、ここで確実に仕留める! 機動力のある部隊から追撃せよ! 決してあの理性を立て直させるな!!』


 将軍の号令に、無数の魔族が峡谷へと雪崩れ込んでいく。


 ――数時間後。

 入り組んだ峡谷の地の利と、慎也の減衰しながらも的確な氷結魔法による足止めにより、一行はどうにか追跡を振り切り、湿った洞窟の奥へと身を隠していた。


「……ハァッ……ハァッ……。リーダー。一体、何が起きたんだ? あんたの魔法が、全然効いてなかった……」


 ガルドの問いに、慎也は暗闇の中でギリッと奥歯を鳴らした。


「……敵の管理者は、極めて優秀だ。……我々が単なる嫌がらせだと思っていたここ数日の襲撃は、すべて私の魔力の『波長』を測定プロファイリングするためのものだった」


 仲間たちが息を呑む。

 慎也は自らの拳を強く握りしめ、冷たく、そして静かな怒りを燃やしていた。


「完全に消し去るほどの代物ではないが、奴らは私のデータをもとに、私専用の強力な減衰器アッテネーターを用意してきた。……だが、エラー原因が特定できたなら、対策パッチを当てることは可能だ。

 ……少し時間をくれ。奴らの解析を上回る、波長自体の『仕様変更』のアルゴリズムを構築する」


 洞窟の外からは、まだ魔王軍の捜索部隊の足音が聞こえてくる。

 敗北からの逃走。しかし、頭脳派勇者の目は死んでいない。暗い洞窟の中で、慎也は自らの魔力構造を書き換えるための、静かで過酷な反撃の準備コーディングを開始した。


【総統通達】

読者諸君。我だ。

あの優男(慎也)め、相変わらず理屈っぽい戦い方をしていたな。我ならば一撃で粉砕していただろうに。


まあよい。今回の話に少しでも心が動いたならば、【ブックマーク】および、下部の【★★★★★】にて、我への忠誠を示せ。


良い評価は、次なる戦い(執筆)への糧となる。期待しているぞ。


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