第103話 全国規模のトラフィック(重圧)と、トッププロセッサの致命的な凡ミス
【担当:慎也】
僕の日常がこれ以上壊れませんように……。
本編スタートです。
数週間前、全国模試の会場となった大学のキャンパス。
周囲を見渡せば、分厚い参考書を広げ、殺気立ったオーラを放つ他校の受験生たちがひしめき合っていた。
「……すごい人数。全国から頭のいい人たちが、みんなここに集まってるんだ……」
花憐は自分の指定された座席に座りながら、ギュッとペンケースを握りしめていた。
校内ではトップでも、全国という広大な海に出れば、自分はちっぽけな存在なのではないか。手が微かに震えるほどの重圧が、彼女の処理能力を落とそうとしていた。
「深呼吸しろ、花憐。ノイズ(周囲の雑音)にリソースを割くな」
隣の席から、慎也の静かな声が降ってきた。
「試験問題というプログラムは、誰が解こうが条件は同じだ。貴様は春休みに、私の要求仕様を完璧にこなした。……己の積み上げたログを信じろ」
その言葉に、花憐は深く息を吐き、震えを止めた。
――そして、現在。5月の教室。
連休明けの教室に、全国の受験生たちが一喜一憂する「第1回 全統記述模試」の結果が返却された。
校内試験とは違い、全国から数十万人もの検体(受験生)が集うこの模試は、志望校への「接続可能性」を最もシビアに算出する。
ビリッ。
慎也は一切の躊躇なく封筒を開封し、中身の成績表データに目を走らせた。
その瞬間。
「……アァッ!! クソッ、やはりか!!」
普段の冷徹なキースラインからは想像もつかない、素っ頓狂な叫び声が教室に響いた。
「えっ!? ど、どうしたの齋藤くん!?」
「自己採点の時から懸念していたが……数学の第5問、詳細な配点データを見ると見事に2点減点されている! 最後の最後でマイナス符号を書き忘れたあの些細な記述ミス(バグ)が、システムに致命的なエラーとして処理されたか……!!」
慎也は頭を抱え、机に突っ伏した。
「信じられん……。これほど単純なヒューマンエラーを起こすとは。私の生体ユニット(脳)はどれほどポンコツなのだ……!! 物理と化学が満点でも、これでは完全なシステムとは言えん……!」
「いやいや、それでも全国総合3位でしょ!? T大理一も余裕のA判定だし……。相変わらず化け物じみてるよ」
花憐は苦笑しながらツッコミを入れた。凡ミスで本気で悔しがっている姿は、少しだけ彼が「普通の高校生」に見えて微笑ましくもあった。
「……笑い事ではない。だが、私のポンコツ具合は後で自己修正するとして……。貴様はどうだったのだ、参謀」
慎也が不機嫌そうに顔を上げ、花憐の封筒を顎でしゃくった。
「……」
花憐は祈るように両手で封筒を握りしめ、ゆっくりと中身を引き出した。
あの重圧の中で、自分の努力は本当に通用したのだろうか。恐る恐る、志望校判定の欄へ目を向ける。
そこには、燦然と輝く文字が記されていた。
【T大学 理科一類:A判定】
【全国総合順位:15位】
「……あ」
花憐の口から、小さく、しかし確かな震えを伴う声が漏れた。
「……やったぁ。私、T大A判定……取れたっ!」
彼女の瞳に、ポロポロと涙がこぼれ落ちる。
キースラインの圧倒的なクロック数に無理やり同期させ続けた彼女の泥臭いオーバークロックが、ついに「全国トップレベルのプロセッサ」として証明された瞬間だった。
「……フム。総合順位15位か。数学のミスで私が落とした点数分を考慮しても、やはり私(3位)のスコアには及ばなかったな。貴様はまだまだ私の背中を追う立場だ」
慎也は鼻を鳴らして強がりを言いながらも、その口元には確かな、そして誇らしげな笑みが浮かんでいた。
「ふふっ、齋藤くんが凡ミスなんてするから、ちょっとだけ差が縮まったね!」
「……言うようになったな。次の模試では、貴様が絶望するほどの圧倒的な演算速度(スコア差)を見せつけてやる」
「望むところだよ!」
全国という荒波の中で、見事に己の実力を証明してみせた二人。
凡ミスに本気で悔しがる王と、彼に追いつくべく背中を追う少女の、騒がしくも確かな絆がそこにあった。
【事後分析報告】
読んでくれてありがとうございます。慎也です。
また僕の体が物理法則を無視した動きをしていたようですが……楽しんでいただけたでしょうか?
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