使用人とメイド
ドアの向こうには、家具や調度品が一切ないだだっ広い部屋が広がっていた。
中央には使用人とメイドらしき男女が立っていた。
ジョナサンはあまりの異様な光景に警戒した。
ほかの3人も、表情を固くした。
「よくぞここまでたどり着かれましたね。
お待ちしておりました、リュシストラトス調査団御一行様」
使用人は開口一番、そう言った。
ジョナサンは緊張を解かないまま、尋ねた。
「お前ら、一体何なんだ」
「わたくしたちはイースターブルック様にお仕えする、メイドと使用人でございますよ」
メイドは満面の笑みでそう語った。
ジョナサンは彼女に疑問を投げかけた。
「なぜここにいる?」
「そうですね。
ご主人様に、あなたがたを倒すように言われたからです」
「倒す?」
「はい、わたくしたちは戦闘に特化した精鋭でございますので」
メイドが相変わらずの笑顔でそう言い終わるが早いか、いつの間にか距離を詰めていた使用人が、ジョナサンに蹴りを入れた。
予想外の攻撃に、ジョナサンはふっ飛ばされた。
「なるほど、わかった。
そのケンカ、買ってやるよ」
ようやく体勢を立て直しながら、ジョナサンはそう宣言した。
使用人はにこやかに応えた。
「一対一ではそちらが不利ですので、東洋人の彼も一緒に戦うので構いませんよ」
「ああ、じゃあ容赦なくボコボコにしてやるよ。
いいな、ユキナリ」
ジョナサンがユキナリに目線を移すと、ユキナリは頷いた。
「決まりですね。
では戦闘開始と参りましょう」
その様子をあ然として見ていたアリーナとグロリアの眼の前に、ピシリとムチが打ち付けられた。
見ると、メイドが笑顔でムチを構えていた。
「あなたがたはこちらです。
さあ、女同士手加減なしで戦おうではありませんか」
「わかりました。
こちらも二対一でいいですね」
「はい、どうぞ」
メイドがそう言い終わるかどうかのうちに、アリーナはスカートをたくし上げて太ももに着けていたワンドを抜いた。
グロリアは力強く吠えた。
「手加減しないんだからね!」
ゴッ!
すでに息も絶え絶えのジョナサンを狙い、使用人が蹴りを入れようとした。
しかしその前に満身創痍のユキナリが木刀で受けた。
ユキナリはそのまま押し返そうとしたが、使用人の力の方が強かった。
ベシリと音を立てて、木刀は真っ二つに折れた。
ユキナリは反動で体勢を崩したが、なんとか立て直した。
だがそこに容赦なく使用人の蹴りが決まって、ユキナリは飛ばされた。
ジョナサンは拳と蹴りで応戦していたが、使用人の方が一枚上手だった。
散々攻撃を食らい、ジョナサンは這いつくばった。
「チクショウ!」
「さあ、これで最後です」
使用人はそう言うと、足を高く上げた。
次の瞬間、使用人が吹き飛ばされていた。
ジョナサンが顔を上げると、丸腰のユキナリが使用人にタックルを浴びせていた。
「間に合ったな」
ユキナリは立ち上がると、冷静にそうつぶやいた。
「サンキュー!」
床に座り込んだジョナサンは、そう礼を言った。
「馬鹿なっ!」
使用人はなんとか起き上がって、あえいだ。
「じゃ、俺たちの勝ちってことでいいな?」
「仕方ありませんね。
こちらも体力の限界ですので」
使用人は渋々負けを認めた。
「魂を震わせる水、ウォータ!」
アリーナがそう詠唱して水魔法を放ったが、メイドはたやすくムチで水を散らした。
「そのワンド、邪魔ですね」
そう言うなりメイドはムチでアリーナの利き手を打った。
アリーナは思わずワンドを取り落としてしまった。
彼女は武器を拾おうとしたが、先にメイドがムチで遠くに飛ばした。
グロリアが敵討ちと言わんばかりに蹴りを入れた。
だがメイドは一瞬よろめいただけで、すぐにその脚をムチで打った。
「いったーい!」
グロリアはそう叫んだ。
「では、そろそろ決めさせてもらいますかね」
メイドがそう言って再びムチを構えようとしたが、滑って転んでしまった。
「油断しましたね」
アリーナはしゃがんだまま、不敵な笑みを浮かべた。
メイドの足元は一面ツルツルの氷に覆われていた。
アリーナは続けた。
「魔法使いはワンドがないと、無能だと思いましたか?
あなたがさっき散らした水を利用させてもらいました」
「なんてことを……」
メイドはなおもムチを取ろうとしたが、グロリアがそれを蹴り飛ばした。
「完敗です」
転んだ姿勢のまま、メイドは残念そうにしていた。
「勝ちましたー!」
グロリアは満面の笑顔で、ジョナサンにそう報告した。
「おお、こっちもなんとかなったぜ」
ジョナサンはそう応えた。
「では、私たちは先に進みます」
アリーナはワンドを拾い、太ももにセットした。
「また作らなければな」
さっき打ち捨てた木刀を見て、ユキナリは面白くもなさそうにそう言った。




